第23話 神殿とシエルナ伯爵領の主神

「すまんすまん、すっかり忘れていた」


 僕は食物の神『ウカー』の化身であるウカルを連れてシエルナ領都の神殿に来ていた。目的は以前、ウカルから依頼されていた神殿にリゾットをお供えする件、そして神棚を引き取るためだ。

 思い出してみれば神棚には商売の神が祝福を施してくれてるはずだ。食堂の商売繁盛を考えるともっと早く来るべきだったな。


「怒ってはいないが、信仰のポイントを集めるためには大切なことなので」


 頬を膨らませている。一人で行こうとしていたのだが、ウカルがどうしてもついてくると言い出したので連れてきた。というか神殿なら何もわざわざついてこなくても良かったのではないだろうか。


「なぁ、いつでもリゾット食えるし、食堂に神棚置けばリゾットをお供えできるのに、なんでわざわざ神殿まで持っていかなくちゃいけないんだ?」


「……。この領都の神殿はまだ主神が定まっていない。お供えをすることによって少しでもこの神殿から信仰ポイントを搾取……ゲフンゲフン、信仰を得ることができるのです」


 なるほど搾取ね。ふーん。



 神殿は広い敷地の割には地方都市の駅舎程度の大きさだった。ちょうど線路が4線くらい通ってるやつ。庭は手入れされているが神像の類は見当たらない。思っていたよりも質素な造りだった。


「お待ちしておりました、ショーマ殿。女神ウカーより神託があってからしばらく経ちましたが……このように無事、使命を果たすことができます。ところでそちらのお嬢様は……」


「ん?あぁ、えーっと。うちに居候してる旅の商人です。女神ウカーにとても信仰心が篤い人でしてね。どうしても神殿へ行きたいというので連れてきました」


(……ここの神官長はまだまだ位が低いようですね。後日、指導しておきましょう)


 自分が当の女神であると気づいてもらえず、機嫌を悪くしたようだ。


 神官長に連れられて教会の奥に行くと、そこには丸い水晶玉が飾られた台座が置かれていた。


「あまり神殿に詳しくないのですが、例えばこの台座には通常女神像などが置かれるのではないでしょうか?」


 僕は台座の手前でリゾットをお供えしながら神官長に聞いてみる。


「あぁ、これはですね。シエルナ領主様はまだこの領の主神をお決めになられてないのですよ。通常、伯爵領以下の領は親となる侯爵領と同じ神を主神として選ばれます。それからある程度の規模となった伯爵領は自ら主神を選ぶことができるのですが……どうも決めかねておられました」


 ウカルが自分に似たフィギュア?神像?をそっと台座に置こうとしている。そんなの持ち歩いてるのか


「決めなくても問題は無いのですか?」


「聖職者としてこのようなことを申してしまうのはあまりよくありませんが、特に問題はありません。ただ、多くの場合においては早めに決めるのが良いとされ、天災などが起こった場合は直ちに決められます。他には信仰心の薄い……領主様の場合は、親となる侯爵領と同じままにすることが多いですね」


「そうなんですね。今回神託があったことですし、食物の神とかどうですかね?」


「あぁ、それがですね。実は先日ちょうど決まりまして」


 あ、ウカル固まった。


「食物の神である女神ウカー様となりました」


 あ、ウカル復活した。


「へぇ、それは良かった。僕も女神ウカーを篤く信仰していましてね。あぁ、そうだ。この子が女神像を彫ったらしいのですが、こちらへ納められないでしょうか」


 復活途中のウカルから神像らしきものをひょいっと取り、神官長へ差し出す。


「おぉこれは……神託で見た女神様の姿にそっくりだ。こちらの台座へ飾る像は現在制作途中ですが、これを見本にしましょう。それからこれは神殿内のどこか別のところへ置かせていただきます。主神が決まったことですし、街のあちこちで女神像を見かけるようになると思いますよ」



 それからしばらくして神殿を後にし、街を散策する。せっかくなので鍛冶屋街へ寄っていこう。


「あの神官長はやはりセンスが無いですね。女神自ら制作した女神像から力を感じないなんて」


「まぁまぁ、この領の主神になったみたいだしいいじゃないか。他の領でも主神やってるのか?」


「……ってない……」


「ん?」


「やってない!これが初めて。良かったぁ〜あとちょっとで創造神様から格下げ宣告されるとこだったの!」


「結構ギリギリだったんだな、お前」


「ショーマをこっちの世界に呼んで良かったわ」


「へいへい。こちらこそどうも。しかし何か料理道具を作ってもらおうと鍛冶屋街に来たはいいけど、どこも神像作りだ神棚作りだで忙しそうだなぁ。ゆっくり話できそうにないし、料理道具はまた今度だな」


 どうやら領主から正式に主神が決まった報が出たのは丁度今朝のことだったらしく、街はそれで大忙しだったらしい。基本的にどの神を信じるかは領民の自由ではあるが、領の主神と同じ神を信仰するほうが御利益があると言われている。

 なので各家庭や商売をする者たちは主神が決まり次第新たに神像を用意したりする。また、街のいたる所へ神像を置くようになるので、領主からの依頼も多いのだ。




「おかしいですね……」


 主神が決まって数日、家庭教師のエーヴェ先生が僕の魔力をチェックしながら何やら異変に気がついた。僕はだが、何となく心当たりがある。


「おかしいとは?」


「最初に水晶で魔法適性を測った時に比べ、著しく魔力量が上がっていますね」


「ショーマすごーい」


 ルナが間延びした声で褒めてくる。



 以前、ウカルは食物の神への信仰心が増えれば祝福を受けている自分にも影響があるような話をしていた。おそらくだが、それは異世界転生者である僕へのチート能力みたいなものだと予想した。


 まだ魔法の実践をしていないので魔力量を自分で感じることは無いのだが、ここ数日の間に記憶や思考力、体力や腕力などが向上しているのを感じている。これはおそらくだが、食物の神への信仰心が集まれば集まるほど、そしてそれが篤ければ篤いほど、僕の能力が全体的に底上げされるのではないだろうかと。


 しかしこれは同時に気をつけなければならない。何らかの形でこの信仰心が廃れば能力もまた下がる可能性があるだろう。これは考えかもしれないが、デスゲームみたいな小説だったら信仰心を削って敵対者を弱らせる者もいるだろうし、場合によっては殺すこともできてしまうかもしれない。



「んー僕には心当たりが無いですね」


 女神と僕の関係は話せない事になっている。なので適当にはぐらかすことにした。


「しかしまぁ、これは結果的に良かったことです。学園への入学を伸ばしていた一番の理由は魔力に関するものでした。他の学園生はみな入学前にある程度、魔法の知識や魔力の扱いを身に着けてから入っています。学力よりも魔力の扱いに関する差が問題だったのです」


「ルナは魔力量も適性もあったから問題なかったとして、僕も今回魔力量を解決できたから、特にもう気にする必要もないと」


「そういう事になりますね。あと少しだけ魔力操作の実技などを行ったら、数日以内に学園へ入学しましょう」



 学園か。まさかこの年で、いや転生してからは15歳ではあるが、また学び舎に入るとは思わなかったな。



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