第21話 ジャガイモの旬
ジャガイモの旬とはいつだろうか?春ジャガイモは2月から4月中旬までに植え付け、収穫は5月から6月である。一方秋ジャガイモは8月下旬から9月上旬という短い期間に植え、収穫は11月下旬から12月上旬である。
ただこれは日本の関東地方での基準となるので、地域によっては2ヶ月ほどずれる。春から初夏に出回るのが新じゃがと呼ばれる。新じゃが基準の作付けは初心者の栽培に向いてるという。
最も、ジャガイモは貯蔵が効くので旬を意識することはあまり無いが……。
「と言うことで、新メニューを考えたいと思います!」
一同から拍手が送られる。ジャンさん一家とシエルナ伯爵家の料理人、執事長代理のアーシュさん、食物の神『ウカー』の化身ウカル、肉屋の旦那ミルト、パン屋の一人娘マフィ。
怒涛の家庭学習から数日、新しいメニューが思いつかないというジャンさんの悲鳴とともに休日を使って新メニューを考案することにした。4月は春先、この世界で前世と同じ食材をいくつか探し、旬の物で料理をしようというわけだ。
しかしながら前述の通り植える時期と収穫時期が地域によって違うのと、貯蔵ができる点を考えればさほど旬というものははっきりしていないだろう。
「一応、ではありますがこの一週間勉強して分かったことは、この世界と僕がいた世界では季節などは似ているということです。そしていくつかの食材を試食してみたところ、やはり味も近いことから旬や食材の味変化も近いと思われます」
うんうんと頷く家庭教師のエーヴェ先生。てか何でエーヴェ先生までいるのだろうか?まぁいいや。
「例えばこのジャガイモですが、主に作付けは年に2回。収穫も年2回できますが、貯蔵し食する時期によって味わいが異なります」
そう言って蒸しただけのジャガイモを配り、同時にバター、塩の小皿も配っていく。おっとシエルナ伯爵家で隠居生活をしてるジーヤさんもいたぞ。ジャガイモ食べながら赤ワイン飲んでる。せめて話を聞いてからにしてほしい。
「冬の間に貯蔵したジャガイモを春先に食べる場合、ややホクホクとした感じは薄れますが甘みが増します。春の冷製ポタージュとして出すのも中々良いですね。」
「冷たいスープ?」
「えぇジャンさん。何もスープやポタージュは温かいものだけではないですよ。ただちょっと今回は道具がそろっていないので、別のものを作ります。あ、あとジーヤさん。赤ワインはこの後みんなで料理に合わせて飲むので、飲み干さないで下さいね……」
ジーヤさんはついに肉屋のミルトも巻き込んでワインを1本空けていた。
「では下ごしらえから始めていきます。ルナ手伝って」
今日作るのはイタリアのフリウーリ地方を代表する郷土料理だ。ジャガイモを使うパターンと使わないパターンがあるが、今回は前者を作る。ジャガイモをサイコロ状に刻み、玉ねぎも刻んでいく。それから肉屋に持ってきてもらったチーズ、牛乳から作るセミハードタイプのものだ。
「このチーズは僕の世界ではモンターズィオと呼ばれていました。まぁとある地方の名からとっているものです。これは丁度5ヶ月程度の熟成ですね。これもサイコロ状に刻んでいきます」
異世界からの転生者であるか明かすのは随分と躊躇っていたが、この仕事に直接関わる人には少しだけ話すことにした。そのほうが食材の融通や説明が楽だからだ。
「そのジャガイモに、チーズをかけて食べるだけでは駄目なのかな?」
「それもそれで美味しいですよ、エーヴェ先生。まぁ既にジーヤさんがテキトーなチーズかけて食べ始めてますが……。と言うかジーヤさん火の魔法が使えるんですね。いやぁ、チーズに焦げ目がついてとろけてる様は大変美味しそうなのですが……」
一所懸命玉ねぎを刻んでいたルナはもう涙目である。またもや『> 〜 <』という顔文字みたいな表情をしている。なかなか可愛い。
「こちらのフライパンにジャガイモと玉ねぎ、油と水を加えて火にかけていきます。ジャガイモが柔くなったらチーズを加えるのですが、火が通るまではこちらの白ワインとチーズをご賞味ください」
「お、この白ワインは伯爵様からお土産に頂いたやつだな」
「ふむふむ。なかなかフルーティーなワインじゃ」
「皆さん、よくこの組み合わせを覚えておいてくださいね」
試飲させているのはイタリア北東部ヴェネト州の辛口白ワイン『ソアーヴェ』に味わいが近いものだ。葡萄の品種は『ガルガーネガ』を主体に『ヴェルディッキオ』や『シャルドネ』なんかも使用を認められている。
結局は人の好みなのだろうが、辛口系の白でありながらやや酸味がおだやかで、なおかつ樽香が香り熟成が進んでないものが良さそうだろう。
このフルーティーな白ワインとモンターズィオのようなタイプのチーズが合う。
「ではそろそろチーズを入れていきますね。数名出来上がりそうな人がいますが、無視しして進めていきます。あ、ジャンさんはしっかり聞いて下さい。メニューに出すんだから……。キャロさん、首は締めちゃだめです。ジャンさん落ちちゃいます」
「ショーマ、どれくらい焼けばいいの?」
酔っ払いが数名発生してる中、ルナだけが僕の味方である。うんうん、料理上手な奥さんになれそうだ。
「チーズが溶けていくとジャガイモの中に入っていきます。ちょっと切り込みも入れてあるよね。そうしたらキツネ色になるまで両面を焼いていきます。カリカリにさせるのがポイント。さて、これくらいで完成です。これは『フリコ』と呼ばれる料理です」
ルナに人数分取り分けてもらい、キャロさんに赤ワイン用にグラスを出してもらう。
「では今日のメインディッシュが出来た所で食物の神にお祈りを。赤ワインは数種類用意しました。ぜひ食べ合わせを比べてみてください。さっきの白ワインにも合わせてね」
火にかけたモンターズィオ・チーズとジャガイモの組み合わせは赤ワインでもよく合うのだ。
その後もいくつかジャガイモ料理を作り、ワインに合わせていった。ジャガイモは流通量も多いようだし、メニューのバリエーションもこれでだいぶ増やしていけるだろう。
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