第20話 王族と貴族、魔法適性の話

 ご近所の帝国皇女が学園の食堂に不満を抱いている。領主である伯爵家で料理の指導を行う自分がその学園に入学する。これは偶然だろうか……。


伯爵殿は・・・・何もおっしゃってないから、今のところは気にしなくていいですよ」


 いや、気にするだろう。どう考えても何か狙いあるだろう。



 午後の授業に入る前、エーヴェ先生にはうちの食堂飯を食べてもらった。定番メニューのトマトのファルシ、昨日から一晩味噌漬けにして焼いた鹿肉。味玉を出そうかと思ったが昼のメニューにはどうにも合いそうにないため、やめておいた。


「ふむふむ、伯爵殿から噂に聞いていましたが、いやはや美味しいですね」


 なんでもエーヴェ先生は自称美食家と言うのもあって僕らの家庭教師に選ばれたらしい。


「お肉にくにっくにく〜〜♪」


 ルナは肉が好きらしく今回の料理はかなり気に入ってくれたようだ。ちなみに野菜はあまり好きではないらしい。トマトのファルシは食べてるところを見ると、全部駄目というわけでは無さそうだが。


「午後はこの国について学びましょう」



 シエルナ伯爵領の近くにはいくつかの子爵領と男爵領、そしてそれらに使える士爵家がいるらしい。それ以外に侯爵、辺境伯、宮中伯、公爵がおり、王家が上にいる。聞いている限りは各領の自治権は強く、中央集権化されてるとも言い難い。

 前世の西洋史ではどの辺りに近いかな、なんて考えながらメモをとっていく。


「ちなみにシエルナ伯爵はこの国の伯爵家ではトップ、侯爵家と並びますね。またここの学園も王国内ではかなり教育水準が高く、名門です」


 そう言えば数日前、伯爵家はいずれ侯爵家になると執事長代理のアーシュさんが言っていた。


 王家は王と正室の妃、それから側室の妃が1人。正室の子が現在王太子ではあるが帝国へ留学しているらしい。


「側室の妃殿下の子、第二王子殿下はお二人と同じ15歳、妹である第一姫殿下は正室の子でこちらも同じく15歳となります」


 同い年かぁ〜。でもまぁ、さすがに王族が一伯爵領の学園には来ないよね。


「お二人とも 今の所は・・・・王都の学園に通っておられます」


「エーヴェ先生、何か含む言い方ですね……」


「王族は基本的に王都の学園に通いますが、王都の学園でなければならない、という訳ではありません。特に第一子以外はその他名門の学園または留学をされること事例も過去にあります。第一王子殿下は王都の学園で学んだ後、より研鑽を積むために留学をなされました」


 あー、なんか嫌な予感がする。異世界転生もの定番の展開が待ってる気がする。


「なお、第二王子殿下には婚約者がいまして、当代の公爵閣下の娘、イレーヌ姫殿下が婚約者でございます。侯爵家は2代前の王、その弟君が開かれた家系であり、ほぼ王家と同じ扱いとなります。くれぐれもご注意を」


「えぇと、イレーヌ姫殿下はもちろん、王都の学園へ?」


「はい、王都の学園に通っておられます。ご年齢は同じく15歳。ただ、学園の食堂に不満をお持ちでして……」


「……」


「……」


 エーヴェ先生としばし無言の時間が続く。んーそれにしても公女殿下と皇女殿下か。公女殿下はやっぱり髪型ツインテールでドリルなのかなぁ。


「左様でございますか。宮中伯家や辺境伯家のご子息はどのような具合でして?」


 若干貴族家に対する物言いが適当になってきたが、ここまでくるとテンションがおかしくなってくる。


「財務大臣カスペル・フォン・ホーヘンボーム宮中伯閣下の嫡男ラドバウト殿と、軍務大臣バルトルト・フォン・アルペンハイム辺境伯閣下の嫡男レクラム殿はお二方とも16歳で王都の学園に通っております。幸いお二方は食堂にご不満は無いそうで」


 まだ安心できん。何が起こるか分からないからな。


「名前長いなぁ〜」


 ルナは気楽でいいなー。あと確かに名前長いなー。覚えられるかなー。


「まぁ大体この辺りまではしっかり覚えておられれば良いでしょう。貴族のように舞踏会に出るようなことは無いかと思いますが、何かしら相手の名前を覚えてる必要がありそうな場面に招待されましたら、伯爵殿は従者をつけられると思いますよ」


「?」


「一応、伯爵家の面がありますからね。あ、とは言え一応学園では全貴族家の家名はテスト範囲です。」


 んー、やっぱり記憶力無理そうだ。記憶力よくなる薬とか食材探しておこう。




 貴族家名鑑のような物とともに各貴族家のここ半世紀文分の功績などをひたすら聞いた後、休憩を挟んでから魔法に関する授業が始まった。


「今日は最初の講義ですので、魔力種の適性を水晶で調べましょう。ショーマ君はまだ調べたことが無いと思いますが、ルナさんはどうですかな?」


「水晶使ったことない!」


「ほうほう。やはり初等学園では適性検査はしておりませんか。通常、魔力種の適性検査は貴族であれば初等学園時代に、その他一般的な平民は冒険者になるものや大きな商家などを営む者達の子息であれば受けます。これを受けなければ魔力訓練もできず、魔法が使えない場合が多いのです」


 魔法の適性は貴族家に多いと聞いていた。平民が普通に暮らしていく分にはさほど必要とされず、冒険者家業をするものであれば必要で、商家であれば着火なり鑑定なり、収納なりと必要なのだろう。

 そう考えるとルナは教えられてもおかしくなかったはずなのだが……。


「ではこの水晶に手をあてて下さい。何かを念じたり魔力を考える必要はありません。僅かな魔力を感知し、適性を導きます」


「んー!」


 ルナが『> 〜 <』という顔文字みたいな顔をしながら力み、水晶に手を当てる。何も念じなくっていいのになぁ。でもちょっと可愛い。

 ものの5秒ほどで水晶が光る。何か色が変わるということはなく、透明な水晶にわずかな光が漂う感じだ。


「どう!?」


 ルナが手を当てながらエーヴェ先生に問いかける。


「ふむふむ。これは恵まれた魔力量に、それから適性は全属性種ですね。こと魔法においては何か特定の属性を成長させていくこともできるでしょうし、そのまま万能型でもいけます。この魔力量と適性なら近接戦闘も遠距離もいけるでしょう。日常生活も豊かになると思いますよ」


 ルナはオールマイティー型か。これはあれか、ヒロインチートってやつか。


「やったぁ!」


「「……」」


 飛び跳ねたルナはそのまま部屋を出ていってしまった。取り残された僕とエーヴェ先生は互いの顔を見ながら苦笑いする。きっと両親に報告へ行ったのだろう。


「こほん……。ではショーマ君どうぞ」


 そっと水晶に手をかざす。僅かな暖かさと、指先にチクリとした感触がさしてくる。水晶はほぼ光らない。先程まで透明だったのだが少しずつ色が濁る。絵の具を適当に混ぜすぎてしまったような、そんな色だ。


「んー、魔力量は少なく、魔法全体に対する適性も低いですね。あえてあげるとすれば気配感知系や鑑定技能などが僅かに向いてるようです。ただ、これは我々研究者の間では『器』と読んでるのですが、その上限が見えません」


 ん?どういうことだろう。


「『器』の上限とは?」


「例えば先程のルナさんは最初から大きな魔力量を持ち、恵まれた適性を備えています。しかしながら、いずれ成長の限界に当たるでしょう。ショーマ君は魔力量や適性は低いものの、その限界が……この水晶では、測れないということです」


 あぁ分かった。いわゆるレベル上限、レベルキャップというやつだ。これはやはり異世界転生チート的なやつだな。


「まぁそういう者がいないわけではないのですが、滅多に出会わないですね。王族や勇者など世界を救い、導く人には現れることが多々ありますが」


 いや、勇者はやりたくないなぁ。魔王退治とか面倒事過ぎる。絶対そんな展開無いよな?いや、考えるのはよそう。フラグがたつ。運命の女神に遊ばれるのはゴメンだ。


「学園できちんと指導を受けて学べば、最低限日常生活に不便なく過ごせる程度には成長できるはずです。少し無理をすれば採取系クエストや低層ダンジョンを攻略する冒険者家業もできるでしょう。もっとも、研鑽を積めばルナさん以上にもなれるかと思いますが……一歩間違えれば……体と精神が持つかは…………分かりません……」




 え、なにそれ。魔法怖い。



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