ウソつきと少女

「オジちゃん、何さい?」


「いくつに見える?」


「ん~、42さいっ!!」


「………おい」




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車を飛ばし30分、夜の商店街の一角にある4階建ての『川島商事』と書かれた小綺麗なビルの前で車を停めた。


このビルのオーナーである川島社長は、表向きは不動産会社の経営者であるが、違法カジノを会社の地下で行うという裏の顔を持っている。


真は以前、ジュンの紹介でここに何回か訪れた事があった。


入口に入ると、すぐ目の前に目を見張るような豪奢な造りのエレベーターがある。


だが、それには目もくれず、脇にある小さな汚い扉を開いて、人ひとりやっと通れるような狭い階段を降りる。


薄暗い通路を壁伝いに進むと、奥にあった分厚いドアを開く。


ドアを開けた瞬間、隙間からタバコの煙と喧騒が飛び出す。


テニスコートほどの広さの部屋は、人で溢れ返っていた。部屋に何台も設置されているトランプ台の上では、いかにも『お金持ち』の方々がゲームに興じている。


「おお!真君っ!こっちだよ、こっちっ!」


部屋の奥から、人混みの上から必死に背伸びして、こちらに手招きしている男が見えた。真は人混みをぬって、部屋を進んだ。


「お久しぶりです川島社長。」


「急に呼び出してすまなかったね。ポーカーをする相手がいなくってね。」


川島社長は日に焼けた顔で、爽やかに白い歯を見せた。

有名人で例えるなら、爽やかな焼けた松崎しげるみたいなオッサンだが、女癖野悪さは石田純一以上で、業界でも有名な女たらしである。


「ジュンちゃんが君をぜひって言ったもんだからね。でも君、ポーカー強いからなぁ~。」


川島社長はニコニコしながら真の肩を叩いた。

そして、指輪でギラギラしてる親指をパチンと鳴らすと、すぐにゴツい二人の男達が奥のドアを開け、中に案内した。


薄暗いエキゾチックな室内に豪華に飾り付けられた、装飾の数々が光る。

ここはVIP専用の部屋で、特別な客でなければまず入れない。


真がこの部屋に入ったのは、これが初めてである。室内では、すでに数人の客がポーカーに興じていた。

その周りでは黒服のSP達が、客の一挙一動に目を光らせている。何とも言えない緊張感の中、空いた椅子に腰掛ける。


客達の視線が一斉にこちらに向かった。しかし、真は意にも介さずに部屋の中を見渡した。

するとふと、暗がりの部屋の隅に一見すると人形の様な子供がちょこんと椅子に腰掛けているのが見えた。


暗がりで俯いているため、顔はよく見えない。


―何でこんな所にガキが…?


「さぁ、早速始めようか。君、カードを配ってくれたまえ。」


待ちきれない様子で川島社長はディーラーに指図した。


「まだ一回も真君に勝ってないからねぇ。今日こそ勝たせてもうよ。ん?どうしたんだい?」


真が怪訝な面持ちをしてるのに気づき、首を傾げた。


「社長、あそこのあの子は誰です?」


「…ああ、あの子は私の親戚の子でね、まぁ気にしないでくれたまえ。」


そう言って川島社長は言葉を濁した。


「じゃあ今日の賭けは一本からでいいかな?チップ配るよ。」


一本からとは、掛け金百万からと言うことである。

黒スーツの男から手渡された小切手にサインすると、眼前にカラフルなチップが積まれた。


真は胸ポケットからタバコを取り出すと、火を付け、白煙を深く肺に吸い込んだ。


―さぁ、ビジネス開始だ…!




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ポーカーのルール説明(テキサス・ホールディング)


✋初めまして。作者の草枕である。突然で大変恐縮ではあるがここで、ポーカーのルールを知らない読者諸氏のためにルール説明の項目を設ける。

尚、実は作者もあまりポーカーに明るくないので間違いが多々あるかもしれない事を先に断っておく。




今回のゲームは、テキサス・ホールディング(現在のカジノでの主流)で行われる。


フォルド

ポーカーでは、プレイヤーは

ゲーム中に任意で、ディール(ゲーム一回分)から降りる事ができる。

フォルドの際、そのディールで賭けたチップを取り戻す事はできない。フォルドしたプレイヤーがそのディールで賭けたチップはそのまま残しておき、ディールの最後にそのディールの勝者がそのチップを得る。


ポット

ポーカーでは、テーブルの中央付近を、賭けたチップを置く場所として使う。このチップを置く場所をポットと呼ぶ。


ベット

ポーカーではゲーム中、何度かベット(賭け)をする為の期間がある。その各々の期間をベッティング・インターバルと呼ぶ。ベッティング・インターバルはいずれかのプレイヤーから開始し、時計周りに行われる。


アンティ

プレイに参加する全員が、毎回ゲームが始まる前に一定の額を払わなければいけない参加費のことをアンティと呼ぶ。


チェック

チェックとはその回のベットをパスする事である。チェックをするプレイヤーは「チェック」と宣言する代わりにテーブルを軽く2・3回叩いても、チェックの意思を表す事ができる。


コール・レイズ

前のプレイヤーと同額のチップを賭ける事をコールと呼び、賭ける金額を吊り上げる事をレイズと呼ぶ。



ゲームの流れ(テキサス・ホールディング)


1.ディーラーが各プレイヤーに2枚のカードを配る。


2.全員のベット額が同じになったら、ディーラーが3枚目のカードを表向きに置く。


3.全員のベット額が同じになったら、ディーラーが4枚目のカードを表向きに置く。


4.全員のベット額が同じになったら、ディーラーが5枚目のカードを表向きに置く。


5.全員のベット額が同じになったら、互いのカードを明かす。


6.最も役の強いプレイヤーがポットのチップを全て手に入れる事が出来る。



それぞれの役


ノーペア(またはブタ)

ワンペア

ツーペア

スリーカード

ストレート

フラッシュ

フルハウス

フォーカード

ストレートフラッシュ


※下の役から順に強い。



―出典―

Wikipedia ポーカー




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「さあ、始めようか。カードを配ってくれ。」



真っ白な歯を輝かせ、パチンと指を鳴らす。寡黙なディーラーは、手慣れた手付きで、風切り音と共にプレーヤーにカードを2枚配布した。


真はさり気なく、周りの面々を見渡す。



ゲームプレーヤーは5人。


真、川島、そして他の3人はそれぞれ『某』大企業の幹部である。


座り順は右から川島社長、権田専務、永田社長、真そして相川人事部長である。


真も一度は、この3人と面識があった。3人共、一癖も二癖もある裏社会のやり手だ。



川島社長が隣に座る権田専務と談笑する横、寡黙なディーラーは手慣れた手付きで、風切り音と共にプレーヤーにカードを2枚ずつ配布した。



真は配られたカードを手に取ると中身を見る前に、そのカードの背面を中指で一度弾いた。


これは真が幼少の頃に観た、ジャッキーチェン主演の映画『シティーハンター』に出て来る天才的ギャンブラーがカードを開く前にやっている願掛けで、真もそれを真似ていた。


トランプ投げで敵を倒すための練習のし過ぎで親に勘違いされ、プレステを貰えるはずのクリスマスプレゼントが100均のトランプに切り替えられた時は本気で泣いたのも今では良い思い出だ。





真の手札はクローバー♣の8・ハート♥のクィーン。



あまりイイ手札とは言えない。だが真は慌てたりしない。


何故ならば、彼はポーカーの天才的プレーヤーだからである!



「私が親だ…。よし、500ベットしよう。」


川島社長は、にこやかに笑いながらも、下目でチラリと油断ならぬ視線を対面の真に送る。


―500ね…手持ち一万だから無難なとこか…。


無愛想な権田専務は、指の先で机をとんとんと叩いた。これはチェックの合図で、彼はその回のベットを見送った。


「レイズだ、500上乗せして1000ベットする。」


髭面の永田社長は強気な風で、鼻を鳴らす。


「さぁ真君、君の番だ。」


4人の視線が真に集まった。

それもそのはず、川島社長を始め、ここにいるメンバーはただの一度も真に勝ったことがなかったからだ。

否が応でも、真の出方を意識してしまう。


「…チェックで。」


4人の視線が刺さる中、真は静かにタバコを吹かした。まだ初回、チェックで全員の出方を見るつもりだ。


「コール、1000だ。」


相川人事部長がチップを出すと隣に座る川島社長は、軽く2、3回咳払いした。


「よし、私もコールだ。」


少し咳で蒸せながら、彼はチップを積んだ。

その後ろに控えていたSPはすかさず社長に、ミネラルウォーターの入ったベットボトルを渡した。


「失礼。気管支炎持ちでね。」


彼はニコリと笑うと、ゴクリと水を飲んだ。


「コール。」

「私もだ。」


権田専務と永田社長も立て続けにコールした。


「さぁ、真君。」


再び視線が真に集まる。真はタバコを灰皿に押し付け、イスを手前にぐいと引いた。




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✋さてここで、読者諸氏は前回の章で真が言った事を覚えているだろうか?


そう、『人付き合いは第一印象が全てである。』と言う言葉だ。


真は常々、物事は初めが肝心であると確信していた。(終わりよければ全てよし)といかないのが人生である。


本当に素晴らしいマジシャンや映画監督は、掴みから観客を魅了し、そして自分達の世界に彼らを引き込む。


それはゲームにもしかり。今、真は自分をマジシャンだと自分に思い込ませていた。


そう、この部屋にいる全ての人間が観客なのだ。


彼らを欺き続ければ勝ち。タネを見破られたら負け。


考え方は至ってシンプルだ。


つまり、『序を制する者が、ゲームを制す』るのだ!



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「レイズ。5000ベット。」


「なっ……!??」「な…」

「なんだとッ~!??」


左右に座る男達は驚きのあまり立ち上がった。


まだ序盤も序盤だというのに、手持ちの半分をベットしてくるなんて……。


まだディラーのカードは、一枚も開かれていないというのに…。


ただのクレイジーなのか、余程手札に自信があるに違いない…!



―って考えてるツラしてるな。


真は心の中で、ニヤリとほくそ笑んだ。


観客が、自分の思った通りの反応を示してくれる事ほどやり易い事はない。


しかしただ一人、川島社長だけは笑みを崩さずに、冷静さを保っていた。


「やってくれるね真君。」


「俺、これに生活掛かってますんで。」


2人は涼しげに会話を交わしたが、その間には目に見えない激しい火花が散っていた。


そう、これはただのゲームじゃない。ビジネスなのだ。


少し時間が経ってくると、実は肝の小さい相川人事部長もだんだんと落ち着きを取り戻してきた。


真の二枚の手札がいくら良いと言っても、まだディラーの三枚のカードが残っている。これは紛れもないハッタリだ。


「…コール!5000だ…。」


相川人事部長は微かに手を震わせながらチップを出した。


「真君。僕も乗らせてもらうよ君の手札が楽しみだ。」


不敵に笑みを浮かべ、チップをプールした。


他の2人にも否はない。一抹の不安にも似た予感を感じながらもベットする。


4人のベット額が同じになったディラーは大袈裟な素振りで目の前のカードを一枚開く。


カードは、ダイヤ♦のA。


これで真の手札は、クローバー♣の8、ハート♥のクイーン、ダイヤ♦のAとなった。


役が1つも出来ていない。当然良くない手札である。



「どうかな真君?イイ手札は揃ったかい?」


よほど良い手なのか、川島社長は余裕の笑みを浮かべている。


「まあまあっすね。」


真は表情を変えずに答えた。

他の3人も、自分の手札を見て自信を取り戻してきていた。


「さぁ、真君。君のベッドからだよ。」


再び、部屋中の視線が彼に集まる。


最初の掴みは上手くいった。

しかし、次にいくらベッドした所で、彼らは驚きはしないであろう。同じタネはもう通用しない。


ここにいる誰もが、真の最初のレイズはハッタリだと思っていた。事実、真のそれは一種のハッタリである。


「レイズ、1000。」



―やっぱりな……。



4人は心の中で同時に、ほくそ笑んだ。



―ヤツは、一番最初のレイズで自分達をビビらせ、あわよくば勝負を降ろさせるつもりだったのだろう。(相川)



―しかしそれは同時に危険な賭けだ。ベッドしたはいいが、手札が思ったより強くなかったって事もある…。(永田)



―真君はどうやら手札に恵まれなかったようだな…。事実、ベッド額を一気に下げてる。

(川島)



―へっ!バカなヤツだ…。自分から弱いですって宣言してるみたいなもんだっ!(権田)



―つまり……(全員)



―これはチャンスだっ!!

(全員)



「コール。6000だ。」


相川部長は、嬉しくて笑いそうになるのをこらえて、チップを出す。

いつも小生意気な真の悔しがる顔が見れると思うと楽しみで仕方がないからだ。


「私もコールだ。」


川島社長も表情を崩さずにチップを出す。


「同じく。」

「同じく。」


後の2人もチップを出すと、ディーラーは4枚目のカードを開いた。


4枚目のカードは、スペード♠のクイーン。



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ここで読者諸氏だけに、5人の手札を公開しよう。



真:クローバー♣8.ハート♥ジャック.ダイヤ♦A.

スペード♠クイーン(ノーペア)


川島:ハート♥クイーン.ダイヤ♦クイーン.ダイヤ♦A.スペード♠クイーン(スリーカード)


相川:ハート♥A.スペード♠A.ダイヤ♦A.

スペード♠クイーン(スリーカード)


権田:ハート♥6.ダイヤ♦6.ダイヤ♦A.スペード♠クイーン(ツーペア)


永田:ダイヤ♦キング.クローバー♣キング.ダイヤ♦A.スペード♠クイーン(ワンペア)



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―一方その頃―


都内某所の高級ホテルの一室にて




「ねぇ~えいいでしょぉ❤」


「もっ、勿論だよ亜美ちゃん…ボクの言う事さえ聞いてくれれば……ね?」


「はいっわかってま~す。」


その愛くるしい笑顔に、男は下心丸出しで頷き、『前』を隠しながら浴室に入った。それを見届けると、彼女は浴室に向かってピンクの舌を出して立ち上がる。


地上40階のガラス張りの窓から、ホタルの光のような車とネオンを見下ろし、ジュンは真の事を考えていた。


―まーちゃん…大丈夫かなぁ?エロ島って結構やり手だし…


雪のような柔肌を惜しげもなくさらしながら、ジュンは真の身を案じていた。

…自分が押し付けたのも忘れて


―まっ、でも大丈夫かな?まーちゃん、カードじゃ負けなしだもんね。


うんうんと頷くと、顔を上げて曇り一つない窓に映る自分自身を見つめた。


彼女はそっと、窓に息を吹きかけ、指で小さなハートをなぞった。


「何やってるの亜美ちゃん?」


風呂から上がったばかりの男はバスローブを羽織り、不思議そうに彼女を見ていた。

ニコリと笑って振り返り、男に歩み寄る。


「んーん。何でもなーいよ。」


そして男の耳たぶを優しく甘噛みすると、荒々しくベッドに押し倒した。




***




「よし!私は1000ベッドだ!こんなに手札が良いのは久しぶりだよっ!」


川島社長は小躍りしながら、チップをベッドする。


他の2人も続けてコール。再び一同の視線が真に集中する中、彼は静かにコールを宣言した。


「コール。」


少し上擦った調子の相川部長の一声でいよいよ、最後の5枚目のカードが開かれた。



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✋しつこいようだが、ここでもう一度、席順を図で記す。

この席順が結構重要(らしい)。


川島

権田

永田

相田



〆ゼンゼンズジャネー〆


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5枚目、運命のカードはハート♥のAだった。


そのカードを見た瞬間、川島はまさに飛び上がらんばかりに興奮した。


クイーンのスリーカードに、Aのワンペア、フルハウスである。


このテキサスルールのポーカーでは、フルハウスはめったに出ない。


ましてや、真からの初勝利が掛かっているこの勝負、興奮しない訳がない。


しかしそこは、さすが裏社会のジゴロ川島、狂喜しそうな感情を抑え、鼻歌交じりにポーカーフェイスを装った。



―フルハウスだな。



しかし、そこは真が一枚上手であった。

彼は、裏社会のスケコマシ川島の手を、一瞬の内に読み切ってしまったのだ。


それもそのはず、何故なら彼は毎週金曜6時半欠かさず、NHKを見ていたからである!



ー上手く隠したつもりだろうが鼻歌がフルハウスのオープニングになってるぜ。天テレの後は、やっぱりフルハウスだよな。



「いや~やっぱりミシェルが一番可愛いよね~。」



ー自分で言っちゃたよこの人!?



口まで出掛かった言葉を飲み込み、真は軽く咳払いした。

(※因みに真はステファニー派)


「さぁ、僕はこのままコールするよ。皆はどうするの?」


図らずとも上機嫌な川島に、心なしか動揺している権田は突然宣言した。


「わ、私は…降りる。」


「私もだ…。」


それに続いて永田も勝負を降りた。


「なんだいなんだい?せっかくイイ手なのに降りちゃうのか?勝負してくれよ~。」


ニヤニヤと笑う川島をチラチラ見る二人。


まぁ真は最初から予想してた事なのだが。


「まさか真君、君まで降りるなんて言わないでくれよ?」


「まさか。そんな腰抜けじゃないっすよ。コールっす。」


二人に向かってそう言うと、彼らは憎々しげに真を睨んだ。


「さあ?相田君?」

「わっわたしも降りっる。」


川島のニヤニヤに圧され、上擦って変な言葉になってしまった相川。

期せずして、真と川島の一騎打ちとなった。


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✋さて、賢明な読者諸氏はもうお分かりだと思うが、真以外の三人は川島とグルである。


彼らはコールやらレイズやらで真を煽り、最後の最後で勝負を降りるように川島から命令されていたのである。


更に言えばディーラー、それに後ろに控えるSPも川島の手下である。


真の後ろのSPは、川島の合図の咳き込み(気管支炎なんて真っ赤な嘘。彼は虫歯すらした事のない超赤マル健康優良男児!)で、真の手札を盗み見ていたのだっ!


しかし、それさえも真の想定の範囲である。


むしろ、川島が小細工をすればするほど真にとって好都合な展開になるのだっ!


その理由はまた後ほど…。


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「それでは、勝負を降りた方は手札を伏せて下さーい。」


寡黙なディーラーが初めて声を発した。意外すぎる程甲高いアニメ声の寡黙なディーラー。いっそ黙ってて欲しかった。


そのアニメ声に従い手札を伏せる三人。

真と川島は、眼に見える程の火花を散らして睨み合う。


「それでは、川島社長から手札を開いて下しゃい。」


おい止めろそのキモい声。変に周りを意識すんじゃねー。


「僕のカードは……フルハウスだぁ~~~~!!」


勝ち誇ったようにカードを台にバラまく川島。

知ってます。ハイ知ってます。


「次に、真しゃん開いて。」


しゃん言うな、テメェマジメにやれ。


寡黙なアニメ声にすっかりやられた真だったが、ふぅっと息を吐いて気を取り直す。


真にとっては、相手がどんなカードだろうが関係なかった。


何故なら…彼の手札は最強のブラックジャックだからッ!!



「Aのフォーカードォッッ!!」


ダンッ!!真は台が壊れんばかりに手札を叩きつけた。


「ははは、まさかまさか。」

「そんなバカな………」

「…バッバッバッ!!」


『バッバッバカなッ~!!!!』(真以外の全員+アニメ)



「フォーカードッ!?」

「しかものぉ!?」


エースのフォーカードに勝てるのは最早ロイヤルストレートフラッシュしかないが、確率的に言えばエースのフォーカードの方が断然低い。


川島でさえも、出たのを見るのは生まれて初めてである。



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✋では、真の使ったトリックを紹介しよう。


その前にまず、実は川島に協力者がいたように、真にも協力者がいたのだが皆さんは気付いただろうか?


5人の席順と、手札を元にそれが誰なのか考えて欲しい。


(ヒント:5人の席順を見れば自ずとわかるかも?)






さて正解は?→→→




✋まず5人の席順であるが、


川島

権田

永田

相田

川島となる。


ここで重要になってくるのが真の隣にいる者である。


隣にいるのは永田、相川の2人であるが、このうち真の影響を最も受けるのはどちらか?


それは、真の次に来る相川である。


最初の真のハッタリで、例えば相川が降りたとすれば、他のメンバーもそれにつられて降りてしまったかも知れない。


相川が勝負を受けた事で、他のメンバーも心理的安心を得る事が出来たのである。


つまり彼の反応次第で、周りの真への反応も変わってくる。言うなれば、相川は真の代弁者のような役割を果たしたのである。


イイマジックは、イイ観客によって作られる。誰かが言ってた気がする。多分。


更に真は、手札がどんなに悪くとも相川の手札となんやかんや華麗な手口で取り替えて、無敵の手札を作り上げたのだ。


SPの目も、背中で隠しながらなんやかんやごまかしていたのである。


こうして真は、川島達の卑怯な協力プレイを退け、なんやかんやで川島達から、五千万円以上を巻き上げたのであった―


(ごめんなさい何にもトリックとか展開考えてなかったので、只今目まぐるしい急ピッチでなんやかんや進んでます✋💦)



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すでにその場には、真の圧勝ムードが漂っていた。


権田と永田は互いの肩を抱いて男泣きにくれているし、川島にいたっては魂が口から飛び出しかけている。


相川は相川で、罪悪感に苛まれ持病の胃腸炎に心も腹も痛めていた。

しかし、真は可哀相などとは微塵も思わない。やらなきゃやられちゃうんだから。


「合計で五千万勝ちっすね、どうします?そろそろ終わりにします?」


すでに人生が狂う程の大敗に疲労困憊の4人であったが、真の勝ち誇った顔が、川島の悔しさと切なさと負けん気強さに未だかつてない炎を放った。


「…真君…!!僕と一生一代の賭けをしないかい??」


自慢のビッチリセット髪を振り乱して、台を這うような低い声で川島は言った。

実際、台に這うように真を恨めしそうに見上げている。

その表情は、最早引けぬ所まで来てしまった川島の執念そのものが感じられた。


「…一生一代の賭け…すか?」


その迫力に、真はゴクリと息を呑んだ。

コクリと頷いた川島は、先程まで見せていた余裕の笑みなど一切浮かべず、鬼気迫る表情で言葉を続ける。


「君と僕との一騎打ちだ…。僕が勝ったら僕達4人の負け金を君が持つ。君が勝ったら、今の君の勝ち金を倍にしてあげよう…!どうだい!?」


―勝ち金…ばい?バイ?by?


「倍だよ!!倍!!!」


川島のプライドを賭けた賭けは真の詐欺師魂に凄まじい欲望の嵐を振り撒いた。


「やりましょう!やります!」


世の中なめてかかってる真も、思わず気を引き締める。


(一億一億一億一億一億一億一億一億一億一億一億一億……)


一億の欲望に取り憑かれた真の頭の中にはそれしかなかった。

負けたらどうしよう…なんて気持ちは全くない。


おバカなぐらいに自分を信じてやまない真は、この時すでに自身が定めた3ヶ条の1つ、『絶対にマジにならない』を伝線したストッキングの如くビリビリと破っている事に気付いていなかった。


後に真は、その事を死ぬ程後悔するのだが、とりあえず今はそんな事、ミジンも思っていなかった。


真は勝利を確信した。

だって、手札がどうのこうのではないのだ。

いざとなれば袖に忍ばせてあるイカサマカードを使って、真の思い通りの手札が出来上がる。


最早、真には川島の顔が札束にしか見えていなかった。

今の真の頭の中は、一億円で何しよう、何て未来予想図が次々浮かんでいた。


しかし流石に1対1のこの状況で手札をすり替えるのは容易な仕事ではない。


他の3人はまるで親の仇の様に真を睨んでいたし、後ろに控えるSPも名誉挽回しようと真の一挙一動漏らさずチェックしてくる。


5枚目のカードが開かれた所で真は手札を入れ替える必要に迫られた。


―ちっ…やりにき~な!


真の頬を伝う冷や汗は、極度の緊張で震える右手に落ちて散る。


真がこんなに緊張したのは、初めてTSUT○YAでAV借りて、しかも一週間延滞した挙げ句、返しに行った時の店員がメッチャ可愛い同級生だった時以来であった…!



真は首を動かさずに、すっ、と周りを見渡した。必ず手札交換のチャンスがある、その機を見極めるためである。


権田、永田のカバとラクダ顔を通り、今にも目からビームを出しそうな川島の熱視線を抜け相川の表情を見ようとした、


その瞬間であった―


部屋の隅に腰掛ける子供とふと目が合った、瞬間真は金縛りにあったかの様に動けなくなった


子供の視線はまるで、狭苦しいエレベーターの中で百台以上の監視カメラに見られているかの如く、何もかもを見透かす輝きをしていた。


背筋が凍り付くのを感じた真はそれでも気を取り直して、周りの一瞬の隙をついて、手札をすり替える事に成功した…!


―何なんだあのガキ…?まぁいいや、これで俺の勝ちだ!!


「……では、川島社長から手札を開いて下さい。」


流石のディーラーも、世紀の大勝負に息を呑んだ。

いや、ディーラーだけじゃない。その場にいた者全ての神経が、川島の二枚の手札に注がれた。

川島は、目を堅くつむりながら震える手でゆっくりと手札を白灯の下に晒し出した。


「……つ…ツーペ…アぁ…」


か細い声で俯く川島。

その手札を見た瞬間、権田達はその場に崩れ落ちて泡吹いた。


真は完全に勝利を確信した。

最早手札を見るまでもない、すでに真の手札にはストレートフラッシュが出来上がっているのだから。


勝利の余韻に浸りながら、彼は一気に手札を開いた。


「ストレートフラッァァシュッッッ!!ヨッシャアッ!!一億ッ!!」


「ヨッシャアッヨッシャアッ!一億じゃ!一億じゃいッ!!ウヒョヒョヒョッ!!!」


狂気して乱舞する真28才。

喜びのあまり、隣の相川のハゲ頭をポンゴの様に叩きまくり、永田の広い額に連続空手チョップを繰り出した。


しかし、どうも周りの様子がおかしい。

歴史的大敗を喫したと言うのに川島達の表情はどこか冷静だ。


いや、むしろそこには笑みさえ浮かんでいる。


おかしい。明らかにおかしい。


「……真君。」


「なっ、なんすか?」


「これ……役ないよ?」


「はっ?なーに言ってんすか、完全にストレートフラッ…ん」


真の顔から一瞬の内に血の気が引いていった。更には、変な汗が身体中から吹き出してきた。


ストレートフラッシュが出るように変えたカードは、全くの間違いで、ストレートフラッシュ所か、役なしのブタさんであった。


「ヤッター!!ヤッターッ!!ヤッホー↑↑ッ!!!」


今度は川島と死にかけていた3人が奇声を上げて万歳した。


4人は各々、放心してうなだれる真の頬を抓ったり摘んだりして積年の恨みを晴らした。


真はと言うと、さっきカードを見た時のままの表情で固まっていた。

息すらしてないんじゃないかと思う程静かに。


しかし想像してみてももらいたい。


ついさっきまで一億円を手に入れた気でいたのに、寸前でミスして逆に五千万の借金を負う事となった彼の心境を。


まさに天国から地獄、急転直下真空瞬獄殺である。


どんな時だって余裕かましてた天才詐欺師・宇野真も、今まさに年貢の納め時であった…。





真は部屋の中心に据えられた椅子に座らされ、周りを屈強なSPに囲まれていた。まさに絶体絶命である。


当然、真のイカサマも全てバレ川島を裏切った相川も窮地に立たされたが、上機嫌な川島はそのイカサマを快く許したのだった。(自分もズルしたし)


「真君今いくら持ってるの?」


「…サイフウチに忘れて来たんで手持ち0っす…」


「じゃあ、お財布にはいくら入ってる?」


「…358円と○広のギフト券3000円分……」


「……貯金は?」


「……35…63…円……」


そのあまりの凄惨な財政難に、思わず権田達も同情した。


「君…それしかないのにあんなに賭けたのかい?」


驚き半分、呆れ半分で川島は顔をしかめた。


「…あの、俺…どうなるんでしょーか…?」


まるで子犬のような顔して弱々しく自分の身の上を案じる真の姿は周りの同情を大いに買ったが、やはり川島には通用しなかったようだ。


「そうだねー、インド洋でマグロを10年くらい釣ってきてもらうか、それとも手っ取り早く真君のレバーとか諸々もらっちゃおうかな?」


川島は、ニコニコしながら非情な事を真に告げた。その表情からは、同情なんてものはヒトカケラも引き出せそうにない。


真は、今本気で自分が生死の境にいる事を実感し唾を呑んだ。


「そこで真君、君にイイ話しがあるんだけど…。」


「ハッ…ハイッ何でしょう!?内臓売る以外なら俺、何でもやりますッ!!」


必死のあまり、川島の足元にすがろうとした所をSPに取り押さえられる。


川島はゴホンと一息吐くと、部屋の隅に向かって手招きした。


すると、先程から隅にいた子供が、トコトコとこちらにやって来て組み伏せられる真の前に立った。


真は必死に顔だけ上げて、その顔を見上げた。


どうやらそれは女の子らしく、まるで西洋人形のように整った顔立ち。

背丈からすれば、まだ小学生くらいだろうか。


しかし、まさに人形のような無表情で真を見下ろす顔は彼女を見た目よりも遥かに年上に見せる。


「真君、もしこの子を引き取ってくれたら、借金を半分、つまり、2500万円にしてあげようじゃないか。」


少女の肩に手を掛けて真に向かって笑いかける川島。


それは真にとって、天からの助けとも、悪魔の囁きとも取れる取り引きであった。


「このガキ…いや、この女の子を…ですか?」


真は露骨に拒否反応を示したが今、川島の機嫌を損ねたらそれこそどうなるかわからない。


とにかくこの場を切り抜ける事が大事、真の第六感がそう叫んでいた。


「そう。実はこの子、ちょっといわくつきでね。ウチとしてもちょっと困ってたんだ。」


わざとらしく顔をしかめる川島に、いわくつきの理由を尋ねるのはやはりはばかれたので、真はとりあえず無言でいた。


「まぁこのての、小っちゃい女の子が好きな人に引き取って貰おうかと思ったんだけど、この通りこの子、一言も喋ってくれないし笑いもしてくれないもんだから貰い手もつかなくてねぇ~。」


サラリと恐ろしい事を言ってのけるが、真はとにかくサラリと聞き流した。


「頼むよ真君、引き取ってもらった後は君の好きにしていいからさっ。」


「好きにたって…俺、結婚もしてないのに子持ちになっちゃうじゃないっすか…」


「じゃあマグロ漁船?」


「喜んで引き取らせて頂きます僕、子供大好きなんですヨ。」


間髪入れず機械的に答える真。

歯を食いしばってこの場は耐える、元々彼に選択肢などないのだから。


「そっかぁ!真君がそこまで言うんなら仕方ないなぁ。よし、君にこの子を託そう!」


わざとらしくそう言う川島。

あくまで真の意志でこの子を引き取った、そうしておけば後の面倒も全て真の責任になるからだ。抜け目ない川島の小技であった。


川島がパチンと指を鳴らすと、ゴツい男達は真を無理やり立ち上がらせた。


「真君、これはマジメな話しだが、どうかこの子を大切にして上げて欲しい。理由は言えないが、この子は可哀相な子なんだよ…。君なら出来る。」


急に真面目な顔付きになった川島は、うなだれる真の肩を優しく叩いた。

それが本音だろうが、そうじゃなかろうが、とりあえず今の真には関係ない話しであった。


謎の少女は相変わらず、氷のように冷たい視線を真に送っていた…。




***




意気消沈しながら階段を昇る真に相川は必死の表情で駆け寄って言った。


「う、宇野君…宇野君。約束通り例の写真、返してくれよ。あれが妻や会社に見つかったら…僕は破滅だっ……!」


「…ああ、忘れてた。」


真はゴソゴソと胸ポケットを漁ると、数枚の写真を取り出し相川に渡した。


「相川サン、今度から女装する時は家のカーテン閉めてやる事っすね。」


「しーっ!…声がでかっよ!!あ~~よがったぁ。」


また真っ赤になって上擦って変な言葉になってしまった相川は心から安堵すると、用心深げに辺りを見渡し、そそくさとその場を去って行った。


真は、相川のキツい女装姿を思い出し、更に気分を悪くしていた。


この3日後、すでに写真をパソコンに上げてる真の腹いせによって、相川のキツ~~い写真は全国ネットで公表される事となる。




***




川島ビルからの帰り道、愛車の中で、真は何度もため息をついた。

億万長者から一気に借金地獄、その上、こんなガキまで押し付けられて……。


真はチラリと、隣の助手席に腰掛ける少女に目をやった。


少女は、夜半から降りだした雨に濡れるフロントガラスを一点に見つめ、相変わらず一言も喋らなかった。


「お嬢ちゃん、名前は?」


真の問い掛けにも、反応すらしない。


「今いくつ?小学生?」


全く反応しない少女、何だか気味が悪い。


真は諦めてタバコに火を付けようとした、


ーその時である。




「オジちゃん、ウソつき?」


真は驚いて、危うくハンドルをきる所だった。

目を見開いて隣を見ると、少女は大きな瞳で真の方を向いていた。


「は、はぁ?何だよいきなり」


突然口を開いた少女から飛び出た言葉に、真は戸惑った。

少女は鳥の鳴き声のような綺麗な声で尚も続けた。


「だって、さっきのトランプの時、ズルッこしてたでしょ?」


少女はニッコリと笑った。

その赤みがさした両頬に出来たエクボが印象的だった。


「…気付いてたのか?」


「うん、らいあは最初っから知ってたよ。」


「らいあ?お前らいあって言うのか?」


真がそう言うと、少女はコクリと頷いた。


「何で今まで喋んなかったんだよ?」


「だって…。みんな怖いオジちゃんばっかりだったんだもん。でもね、ウソつきオジちゃんは優しそうだったからお話ししたんだよー。」


ウソつきオジちゃん…?

優しそう……?


何だか腑に落ちない真であったが、とりあえず何も言わなかった。


「そんで?今いくつ?」


「9才だよ。オジちゃんは?」


「いくつに見える?」


らいあは少し考えるように、首を傾げると、大きく頷いて言った。


「んん~…52才っ!!」


「…………ってオイコラッ!何で冒頭文より10才も上の設定になってんだよッ!!?✋のクソバカヤローッッ!!」


「??」


真のワケの分からん叫びに首を傾げるらいあであった。


雨に打たれる車は走り続け、深夜の街を疾走した―





宇野真・28才

らいあ・9才



とりあえず、この物語はここから始まるのであった――

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