~ 第二幕 ~ ●八百万のエン○
●八百万のエン○
「全員を
縁と円香、二人は葛城の言葉に頷く。そして縁がまず説明を始める。
「お多恵さん、たまきさん、ゆらちゃん、みんなまったく違う個性と力の持ち主で、みんな自分なりに真剣に町のことを考えてくれてる。そんな3人をだれか一人だけ選んであとは切り捨てるなんてことは僕にはできない」
縁の言い分に続けて、円香もたたみかける。
「誰か一人なんての、そもそもがこのプロジェクトの基本理念に合わないよ。小古呂の縁結びはもっとスケールが大きくなくちゃダメでしょ。嫁の3人や4人くらい受け入れなきゃさあ。八百万の縁結びなんでしょ? それをアピールするにはさ、ほんとは3人でも少ないくらいだ。そこで、私たちはこんなコンセプトを再提案する」
円香は事前に用意しておいたプラカードを立てて持ち、葛城たちに示す。今日は野並と森村も同席している。プラカードに書かれているのは、
P:Oh!56×8000000
という文字列のみ。説明書きは一切なし。
「ピー、オー、なんて読むんだこれ」
「プロジェクト・オー!ゴロ・エイティ・テン・サウザント」
自信満々に答えたのは円香のほうだ。彼女のメインアイディアだから、縁は円香に華を持たせることにしていた。
「へぇ、なんとなくわかった。つーかご当地アイドル系じゃん」
そう言って葛城は笑った。
「さすが飲み込みが早いね」
円香もニヤリと笑い返す。
「80人の
「それで、その80人の最初の三人に今回の候補者全員を入れたいと」
「そういうこと」
「はは、いいね。バカバカしいくらいにでっかいスケールで。円香さんらしい」
「あのね、これは基本的な考えは縁も同じなの。縁もちゃんと言ってやりなさい」
「うん。これは僕と円香さんでイーブンの提案だ」
葛城は非常に楽しそうにこちらを見て、
「なんか、妬けるな」
と呟いた。
「サッちゃん?」と縁が問いかけたが、そこに「失礼ですが」と野並が割って入ってきた。
「縁さん。それと円香さんですか。お気持ちは理解しましたが、残念ながら町の予算と人員ではそれだけの規模の事業を維持運営していくのは困難に思われます」
それにはすかさず円香が返し、
「でしょうね。だから民間でやっちゃいましょ。
「お多恵さんには町内会や商店街に協力を取り付けてもらえるよう動いてる。たまきさんはアーティスト仲間たちに、ゆらちゃんも、学校でボランティアの動きができないか相談してみてくれるそうよ。みんな頼もしいー。ね、縁。この町、ちっとも過疎で廃れた町なんかじゃないじゃない」
「ああ、そうだね」
誰に向けての嫌味かわからないが、縁には非常に心苦しいセリフだった。似た者同士というが、円香の悪乗りというか、そういうセンスにはまだついていけそうにない。
「野並さん、やってみようよ。俺はチャレンジしたい」
葛城は野並に話を振る。
「……葛城さんがそういうのなら」
「よし。つっても俺らがやるというよりはもう、そっちが俺らとは別に動き出してる感じだよな。だから俺らが合流させてもらいたい。どうかな円香さん」
「いいよ」
円香は葛城と握手を交わす。
「契約成立。成立ついでにこっちから要望出すよ」
「なに?」
「真女(しんおんな)にはなるの?」
「それ要望じゃないじゃん。ま、なるけどね、結果的には」
「じゃあ縁の嫁さんか」
「いや、それは違うし」
「違うんだったら、俺の嫁になってよ」
「は?」
「円香さん、惚れたんだ。本気だぜ。返事は今でなくっていいから。考えてくれよ」
唐突すぎる展開に、さすがの円香もしばし沈黙。
そして、
「……ちょっと縁、なんとか言いなさいよ」
「は? なんで僕が?」
「あんた、こいつの友達でしょ? 友達の奇行は止めなさいよ。それに一応、
円香は縁をつつくが、縁はさらりとかわし、
「一応ね。僕が言えるのは、サッちゃんは本気だってこと。ね?」
「だから本気だって。マジで傷ついた。でも前言撤回はしないぜ。あと葛城な」
葛城は全力でサムズアップ。
「だってさ」
縁はウインク。
「なによそれ!」
「これもご縁ということで」
「面白くない!」
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