~ 第二幕 ~ ○縁と円●
○縁と円●
「え……え?」
縁が簡単にうろたえる。この情けない
「そもそも、このオーディションって、
円香は立ち上がり、『カマっぽい兄さん』葛城を指さしながら詰め寄った。PかD、というのはプロデューサーかディレクターのことを指す。近年では一般的な用語になりつつあるが、いきなり耳に入るとすぐには理解しにくいだろう。だが今の円香にとっては知ったことではなかった。勢いにまかせて一気に言ってしまう。
はじめ、ほかの三人の候補者を見たときは、ライバルらしいライバルはいない、というかイロモノばかりで相手じゃない、自分が
しかし。
自分が舐めていたその三人の候補者たちは少なくとも真剣だった。さっきは隣の水穂――たしか名前はゆらちゃんだった――彼女に厳しい態度は取ったが、それは、彼女があのままじゃもったいないと思ったからだ。この場に臨む前に彼女たちと少しだけ話はした。老婆にオネエに未成年。普通のミスコンだったら審査すら行われない面々だ。しかし、彼女たちには彼女たちのれっきとした動機があった。円香は自分がかっこ悪い、と思った。自分の仕事を舐めていたことを恥じた。
そこで、無難に
このプロジェクトはどうか。一見すると茶番のように見える。だけど、候補者たちは真剣だ。主催側の対応は雑――特に
頼りない男だ、と円香は思う。こんな男のことが、はっきりわからないから調査してこいと美哉が言った男だとは、円香は信じられないでいる。だが……つかみどころがないのは確かだ。本当にただの情けない男なのかどうかは、ちょっとわからない。独特な包容力を持っているようにも思う。そこのところはこれから判断すればいいだろう。とにかく今は自分が大きく出てみて、周囲をはじめ、この縁という男がどうレスポンスするか。そこを見極める。裏がありそうなのはどちらかといえば、この会場の奥で様子を見ている、今、円香が声を上げている相手だ、と円香は睨んでいる。
「ねえ、あたし、このままだと納得いかない。こんなバラバラな面子を集めて、男も男で何にも知らずにぶっつけ本番。本気でやる気あるの?」
「お、お姉さん、落ち着いて」
縁が口を挟んでくるが、
「あたしは冷静だから、ちょっと黙って」
と一蹴する。縁はまだ何か言いたげだったが、さらに睨み付けてやると、一歩引いて黙った。
「答えて。そこのお兄さん」
円香はあくまで葛城に対して回答を求める。
葛城は沈黙して、円香を見返している。驚きのようすはない。やはり、この男が仕掛け人だ、と円香は確信した。
「候補者を降りる気なら、聞く必要ないことだと思うんだけど」
葛城は心持ち笑顔をつくって、円香に返事を返してきた。円香の予想通り、ストレートに答えない。けん制だ。
「お答えに納得できれば、降りるというのは取り下げるから」
「強気だねえ。普通は選んでほしいって審査を受ける側の人間がそこまで強く出てこられないもんだけど」
「いい加減なものなら受けてもしょうがないし。下手に出たって意味ないじゃない」
「まあ、そうだけど。でもさ、一度啖呵を切ったあとだと、やっぱり受けますって手のひら返されても、どうしたって審査する側の心象を悪くなりがちだよね」
「そりゃ、そのときはそのとき。ダメなオーディションだって判断した自分のミスなんだから、リスクは負うべきでしょ。でも、いい加減なオーディションに通っちゃったときのほうがリスクは大きい、と思ったわけ」
「なるほど。覚悟はあるってことね」
葛城はそこで一度、言葉を切った。少々考えたあと、
「こりゃ主催側の問題だね。説明責任を果たし切っていなかった。ええと、四季丞さんだったよね。ぶっちゃけた言い方すると、こっちが候補者のことを舐めてたね。ごめんなさい」
葛城は頭を下げた。しかし頭を上げるとすぐに、
「結論を言えばこっちにいい加減な気持ちでやってるつもりはこれっぽっちもないよ。この場に異色のメンバーが候補者として挙がっているのは、ありきたりな美人や、誰もが目を引くようなタレント性よりも、ある意味泥臭い、言い換えれば他のミスコンでは絶対に選ばれないような個性をこっちは求めているからだ。このプロジェクトの『八百万』や『縁』という言葉に込めているのは、さまざまな個性を受け入れて結びつける懐の広さだから。優等生を選んじゃうと、そこがぶれる。この人選の意図はそういうこと」
あと、と葛城は続けて、
「四季丞円香さん、あなたも、その異色のメンバーの一人、ということはお忘れなくね。主催に文句を言うのは構わないけど、ほかのみなさんに失礼のないようによろしく」
葛城は説明を終えたふうにしているが、円香にはまだ聞きたいことがある。
「候補者のことはわかった。じゃあ、そこの
「お、お飾りって」
後ろで縁が円香の言葉を反復しかけて絶句している。円香には見えないが、顔面蒼白になっているだろう。
「つくづく失礼な人だね。率直な人って言ってもいいけど」
葛城がため息をついた。
「その点は俺から言うより本人が弁護すべきだと思う。思うぜ、エニィ」
葛城と、振り向いた円香の、二人の視線を受けて縁がぎょっとした表情を浮かべる。顔色はやはり真っ青だった。
「この人から何か聞けると思えないんだけど。やっぱりそっちで説明してもらえない?」
円香はすぐに葛城のほうを向き直す。縁を信頼していないのは三割はポーズで、残り七割は縁に対する挑発だ。これで本当に何も言えないならそれまでだが、案外こういうタイプの人間は芯が強くて、むしろこのくらい強く言わないとなかなか本音を言わないところがある。たとえばさっきの女の子、水穂ゆらちゃんはそのタイプ。縁も水穂とタイプが近いと円香は見ている。
葛城はやれやれと、口ではなく顔で言う。そしてそのままノーのしぐさ。円香はそれを受けて、仕方ない、というふうに縁に向き直す。そのとき、
「あのさお姉さん。いい加減にして頂戴よ。これって進行妨害じゃないの? もうあんたの持ち時間過ぎてるよ。文句があるならとっとと降りなさいよ」
永原たまきが口を出した。辛抱も限界だ、という雰囲気だ。たまきからしたら、これでも我慢したほうだったかもしれない。
「どうしても言いたいことがあるなら、場所と時間を変えて、ごゆっくりどうぞ。とにかく、この場はもうやめにして頂戴」
たまきは言いながら、円香の前に仁王立ちになる。勇ましい立ち姿だ。
「お姉さんや、縁さんはあんまりやかましく言われるとよう答えん人だで、ゆっくり話すとええで、またあとでゆっくりな」
お多恵も窘めるように言う。
水穂は何も言えないで、ただ心配そうに成り行きを見守るばかりだった。
気が付けば、全員の注目が円香一人に集まっていた。さすがに潮時か、と円香は判断する。
「わかりました。今はひとまず」
そういって円香が身を引き、もとの候補者の座る位置に戻ろうとしたときだった。
「いや、もう少しだけ」
縁だった。
「え?」
円香は振り返る。
「結局、僕とは何も話をしていないので。これじゃ審査になりません」
そういう縁の表情は明るくはなかったが、先ほどのような蒼白さは消えて自分の意志が宿っていた。
「なに? なんの話をするつもり?」
円香はもうこの場で何か言うつもりはないというそぶりを見せて縁と接する。しかし本心はもちろん縁と話をする気でいる。
「決まってます。
お飾りなりに役目がありますから、と縁は付け加え、
「今やっているのは、このプロジェクトがどうこうという話ではなくて、あくまで小古呂神社の
最初はぽつぽつと、やがて滑らかな調子でそう言った。考えながら自分の言いたいことを組み立てているようだ。
「まずはそれを教えてください。円香さんが
これだ、と円香は思った。ほかの候補者と話していたときも感じたことだが、縁という人は普段はしっかりしたものがない、からっぽのような頼りない印象があるが、何かしら動き出すうちに空っぽの中に芯ができていくような、不思議な感覚をもたらす人物だった。
ようやく、円香は目の前の男を面白いと思った。インタビューをしていると、ときどきこういう瞬間がやってくる。今回は円香が聞かれる番なのだが、聞く側だろうと聞かれる側だろうと同じことだった。
「……いいわ。わかった。はっきり言うけど、私、このプロジェクトを試しに来たの。
なにか反応があるだろうか、と円香は縁の反応を待ったが、はい、というだけで無言のまま。続きを促しているふうなので、円香は続けた。
「狙いは隠して、
「なんだか、その、円香さん、スパイみたいなことをうちでやろうとしてたんですか?」
「スパイ、スパイね。まあ、そう言ってもいいのかも」
「へえええ」
縁は仕切りに関心してみせる。今度は円香が驚く番だった。
「ん、なに?」
「サッちゃん、スパイだって。このプロジェクトって、そんなに注目されてるのかな?」
縁は後ろを向いて葛城に声をかける。彼は葛城な、と訂正を忘れず、
「うちが、というよりは町興しのプロジェクト自体が今はあちこちでやられてるから。B1グルメ、ゆるキャラ、ご当地アイドル、あと、ここみたいなパワースポット、とか。どこも必死。よその事案はどんなものかって気になるんだろうね。産業スパイならぬ地域振興スパイなんてのも珍しくないんじゃない? 日本はスパイ天国だって言うしね。ほんとかどうか知らないけど」
「ふうん。でも円香さん、よかったんですが、そんなことをばらしちゃって」
縁は心から心配そうに言うので、円香は吹き出しそうになる。
「正直、わざわざ隠さなきゃいけないほどお堅いもんじゃないってはっきりわかったから」ひらひらと手を振って答える。
「それにしたって大胆ですよね。僕にはとても真似できない。うらやましいです」
「そお? まあ、縁さん? あんたみたいなタイプには難しいかもね」
ずいぶんと失礼な発言をしているが、縁は気にもせずむしろ、そうかもしれませんね……と困ったように眉をよせながら笑う。
“やっぱりエンってすごいよ”
ふいに、ヒロミの顔が、その言葉とともに円香の頭に浮かぶ。今の縁の顔が連想させたのだ。それと、編集部での『エン』というあだな。偶然、縁と同じ呼び名になる。
縁とヒロミに共通するのは、相手の『自分は強くない』というそぶり。そして、そのそぶりに対して自分が『あなたと違って』と言われているように感じてしまうこと。
なんだかこの感じは、編集部にいるのと変わらないような、と円香は感じた。なぜか頼られるようなポジションに立っている感覚。男気のようなものが自分のウリなのだと、周囲から思わされる感覚。
強いあなたは、わたしたちとは違う。
そんな異物のように扱われる感覚。
煩わしい。
え?
何だっていうんだ。その思考は。
そんなだから誰からも距離を置いて、気が付けば人を見下すようになって、そんな自分が惨めになって。
違うだろう。
「円香さん?」
「え?」
縁の声に、円香は不意に我に返る。
「どうかしましたか?」
「ん、いや、なんでもない。ごめん」
慌てて居住まいを正す。そして、
「それと、今のは言い過ぎた。訂正する」
謝った。そうしておかないと、自分の中で気持ちのバランスが保てない。でも、これまでの強気な態度からすると不自然だ、円香は自分でも思っていた。
「……あ、いえ、別に。まあ、気にしちゃいません。と言うとウソだけど」
縁は少々戸惑っているようだが、そこまで円香の変化を意識してはいないようだ。
「まあ、自分が冴えないことくらい、嫌というほど自覚しています」
と頭をかいている。
「あ、そう。なら、いいけど」
円香はもとの高飛車な態度に見えるよう、言動を修正していく。
「それより、円香さんから見たら、この儀式は問題だらけですよね。実際」
「そりゃそうでしょ。だって、あんたほんと何にもわからずにぶっつけ本番で今に臨んでるって、主催側としてあり得ないでしょ。それじゃわたしたちと立場が変わらないじゃない」
「まあ、きっと、そういう狙いなんでしょうね。僕は
あっけなく縁は自分がお飾りでしかないことを認めた。だが、その自虐的な態度を一変させて、
「でも、円香さん」
と縁は続ける。
「さっき葛城さんからもありましたけど……こちら側のことをどう言ってもらっても構わないし、むしろアドバイスは歓迎します。でも、やっぱりスパイ行為というのは十分にこちらのことをバカにしているとしか思えない行為だと思います。それだけは見逃せません」
きっぱりと言い切った。
そのあとで、
「さっきはついワクワクしちゃいましたけど」
なんて余計なことを言ってしまうのが締まらないところではあるが、同時に憎めないところでもある、と円香は感じる。
「うん……ごめん」
円香は再び謝罪を口にしたが、そのまま言い切られるのだけは癪だったし、誤解も訂正しておかなくては気が済まない。
「でも、それはわかってる。だからスパイだってことはさっさと告白した。フェアじゃないから。隠し事したままじゃ、このプロジェクトの甘さを追及する資格もないし、ほかの候補者たちに失礼だと思ったから」
「ですよね」
抵抗されると思っていた言葉があっさりと受け入れられる。
「円香さんみたいな人にスパイってなんだか似合わないって思っていたんです」
そう言って縁は笑う。細い目の目じりがしっかりと下がり、漫画のような笑顔の表現になる。見ているとなにもかもか許されてしまいそうな、そんな目をしている。円香は全身から力が抜けてしまいそうになる。
なんとも言えない脱力感。これが巷の癒し系、草食系というやつなのか?
「誰にこんなこと頼まれたんですか? まさか個人的な趣味じゃないでしょう? こういう仕事なんですか?」
打って変わって心配そうにする縁。とにかく忙しい。すっかり縁のペースになっている会話の主導権を取り戻そうと思うが、いや、と思い直した。相手にボールを渡すのも重要なことだ。
「そう、仕事だよ。依頼者が誰かっていうのは答えられないから」
気を張らず、プレーンな意識で答える。
「そうですか。とりあえず、何か嫌々やらされているわけじゃないですよね?」
「仕事は仕事。嫌々だろうが、なんだろうが、必要ならやらなきゃ」
そう言ったものの、歯が浮くような言葉に思えて、円香は自分が恥ずかしくなる。
嫌だ嫌だと駄々をこね、成功報酬をよこせだの上司に言っていたのは誰だったか。
「とにかく、今のわたしは正面から堂々とこのプロジェクトに関わろうと思ってる。
「……円香さんの気持ちはわかりました。その思いに対してこちらがどうするかは、僕一人では決められませんが……」
「そりゃそうでしょ。私もあちらのブレーンさんとも話をしたいし、よく話し合って決めて頂戴。縁、あんたもいつまでも蚊帳の外じゃだめだって。がんばりなよ」
つい勢いで縁のことを呼び捨てにする。それどころか説教を入れてしまう。
「は、はい」
縁はやはり驚いたようだが、しかしまんざらでもないように見える。
「あと、僕が聞きたいのは……」
そう言って身を乗り出しつつ会話を続けようとする縁に、
「ねーえ? ちょっと時間延長が長すぎじゃないのぉ、円香さんだけえこひいきしてなあい? あたしたちのこと、忘れてもらっちゃ困るのよねぇ」
そう水を差したのは永原たまきだった。
「ひょっとして、縁さんのお気に入りのタイプなんじゃないの?」
「え、え、いや、決してそんなことは」
「ほんとーう? あっやしいぃぃ。」
そうやって縁を糾弾していたたまきだが、続けてその矛先を円香にも向ける。
「ちょっと円香さん。スパイがどうこうってところもかなり怪しいけど、なんだか何もかもアンフェアな感じじゃなあい?」
「うん。フェアじゃないな」
これまで黙っていた葛城も同意を示す。
「エニィに委任したから口は出さずにいたけどさ。円香さんの話は、
「だから何度も言ってるけど、わたしは
「そ、そーお?」
「そうそう。それより、あとで個人的に取材させてよ。彫刻、面白そう」
「あら、取材ならこっちも大歓迎よぉ」
円香はたまきのようなタイプの人物にシンパシーを感じる。自然と話が合って盛り上がる。自然、縁が置いてきぼりな形になる。
「こりゃエニィの減点だよ」
葛城が近づいてきて縁に言うと、縁は「サッちゃん……」と恨めしそうな目で葛城を見るばかり。するとそこにたまきが近づいてきて、
「ねえ縁さん、縁さんはぁ、円香さんみたいな人がタイプなの?」
「え、いや、そういうわけじゃ」
「あたしみたいなオンナは……お好みでなくってぇ?」
ぐいぐいとフィジカルに縁に迫っていくたまき。縁はそれを受け入れず、しかし避け切ることもできずにいる。本当にお人よしだ、と円香は思いながら、その様子が愉快で笑った。
そこからは儀式の流れもすっかり有耶無耶になってしまった。
いつの間にかお多恵さんがどこにしまっていたのか『オゴロ餅』をゆらに振る舞い、二人でのんびりしている始末だった。
○
円香が拍子抜けしてしまっているところに、葛城がやってきた。
「さて、やっぱり
気楽な調子だ。
「僕としては、もったいないなあ、と思うし、ぜひ残ってほしいんだけど」
「どうして?」
「どんな動機だろうと、これもご縁だし。円香さんとエニィは相性よさそうだしね」
「エニィって」
「あ、縁のことね。つうか縁ってまたストレートな名前でしょ? あれ、今回の企画に合わせた芸名とかじゃなくて、本名だから」
「え、そうなの?」
「めっずらしいだろ?」
縁……か。
“エンさ、仕事、辞めるの?”
またヒロミのことを思い出す。
「そういえばわたし、職場じゃエンって呼ばれてるんですよね」
「エン? どうして」
「円香って、漢字で書くと……」
円香に教えられて、葛城は、ああ、なるほどとうなずく。
「だったらなおのこと残ってくれない? 縁とエンって、すげー偶然、っていうかそれこそご縁を感じるし。パワー持ってる感すごいしね。PRにもいい材料だよ」
葛城がはしゃぎだす。冷静なプロデューサータイプの人間だと思っていたが、この様子だと遊び好きのやんちゃな男子って印象になる。
「まあ……まだ、次の審査がありますよね。とりあえず、この
円香が少々上目づかいでねだると、葛城もニンマリと笑う。交渉成立、と円香が思ったときに、「エニィー」と葛城は縁を呼んだ。
「あ、うん」
三人の老若男女(?)を相手どっていた縁が、助かったとばかりにこちらにやってくる。子犬のようだと、円香は思った。葛城が二、三なにかを伝える。取材許可について伝えているのだろう。あくまで縁の意思を尊重するのが葛城のスタンツらしい。
「ぜひ、お願いします!」
縁は力強く、深々と頭を下げる。
「ちょ、ちょっと、お願いって、取材を?」
「取材もそうですけど、
そういう縁もまた、先ほどの葛城のように、なんだか子供のように喜んでいる。葛城に何か吹き込まれたのだろうか、とそちらを見るが、素知らぬ顔をしてごまかされる。
「た、頼りないかもしれないけど、よろしく」
縁は円香に手を差し伸べる。
円香は縁の目を見た。最初は少し眠そうな細目だったのが、今はずいぶんと開いた目をして、その奥の瞳を輝かせているものだから、円香はなんだか可笑しくなってしまう。
「はいはい、よろしく」
円香は縁の手を握った。
「なんか、もう縁談成立みたいになってるんだけど」
そういうと、縁は顔を真っ赤にした。
縁とエン、ね。と円香はつぶやく。
え? と縁が言った。
「案外、似た者同士かもね、うちら」
なんとなく思ったことを口にした。つい、直感でものを言ってしまうのが円香の癖だった。
縁はますます疑問符を浮かべて困り出すので、円香は笑った。縁は困り続けていたが、やがて開き直って、一緒に笑い始めた。
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