011 下着泥棒

 この頃近所で下着泥棒が出没してるみたい。


 その下着泥棒ってのが入念に下調べをするようでの下着しか捕らないのだそうだ。

 私は、どっちかというとかわいい系ではないけど用心するに越したこたぁない。ネットで調べたら『男物の下着を一緒に干す』のがいいそうだ。


疾風迅雷早速行動。


 買ってきましたよー早速。昔からよく通う量販店で若者らしくかっこいいトランクスを三枚少々。恥ずかしかったけど『彼氏の下着、私が選んでますのよ。ほほほ』って顔で買ってきましたよー。つーか彼氏なんて出来たことないけどね!


 んで洗濯物もたまってたんで早速一緒に干してみる。干してみて気付いた。……これはだな、と。ほらっ、干してるとこ見ると『この部屋の人、彼氏いるんだ』ってアピールなるわけじゃん? て・こ・と・は・だよっ!? 近所の人とかが「あの部屋の子、彼氏出来たみたいだね」とか、たまたま部屋の近く通った知り合いが「あいつ、いつの間に彼氏が? 同棲!?」とか噂したり、噂したり、噂したりするわけよ。んで、その内の何人かが私に「彼氏できたの?」って聞いてくるわけ。


 そしたら私は、こう答える。


「えぇー、彼氏ぃ? いないよぉー」って。モジモジしながら答えるの。モジモジしながら。これ、ポイントよ、ポイント。そうすると相手は根掘り葉掘り聞きだそうとしてくるはず。それを私は更にモジモジしながら受け流す。あくまで嘘はつかない。でも周りは噂する。「絶対あいつは彼氏持ちだ」と。ぐへへへへ。


 ええ、そうですよ。現実は変わりませんよ。彼氏が出来るわけじゃあありませんよ。だけどねぇ、一回くらい噂になってみたいじゃん。彼氏が出来たって。三十も過ぎて浮いた話の一つもない私はそんな事でも幸せを感じれるのよ。虚しいとか言うな。個人の勝手だ好きにさせろ。


 ということで洗濯物と男物の下着を干して外出したわけなんですが、夜戻ってきてビックリ。下着がない。それ見て私は嘆いたね。ええ、大いに嘆いた。そして理解した。入念に下調べする下着泥棒だもん。私に彼氏がいないことなんてお見通しだったわけ。そして男物の下着が新品だったことも。

 盗まれたのは新品の男物の下着の方でした。私の下着には一切手が付けられておりません。ええ、私は結果的に下着泥棒に実用品をプレゼントした哀れな人間だったわけですよ。大いに笑ってくだせぇ。


 えっ、噂話は出たかだって? そんなん出るわけないでしょうが。……と言いたいところだけど、一つだけ噂話が出ちゃったのよ。

 発信源は私が下着を買ったお店。証人はそこでバイトしてる私の友達。私が男物の下着を買ったもんだから「遂に女をやめたのか」って噂してるらしい。


 ほんとふざけるなって話。確かに下着は3Lでちょっとふっくらとした体型だけど、男に間違われる所以はないし。私のどこを見て男だって言うのよ、全く。こちとら女を五年程やらしてもらってるのよ。今更男に戻るわけないでしょうが。

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