[横道]ティータイムのキジトラ
ここには何を書いたらいいのかな?
あぁ、僕の想い出をつづればいいんだね?
ごめんね、挨拶が遅れたね。
僕は、るぱん。動物病院の人が、家族を募集してくれて、山口さんの家にいたんだよ。
優子ちゃんとは、三年くらいかな?一緒に暮らしたのは。優子ちゃんは、大学生になる頃にはもう独り暮らしをしてたからね。
優子ちゃんとお父さんが自転車で動物病院に来てくれてね。お父さんの自転車の後ろに、優子ちゃんと優子ちゃんにだっこされた僕が乗って、家に帰ってきたんだよ。
あぁ、今、人間の二人乗りっていうのは、禁止なんだね。そうかそうか。
ちなみに、僕はもう死んでしまったからね、山口さん一家を見守っていたんだよ。
本当は、ミントのお迎えには、僕も行きたかったけれどね。事情があって行けなかったんだ。
だから、僕の姉と兄に任せてしまったんだよ。
晩年の僕は、どうにも短気な老猫になってしまってね。弱った体で、ミントに会ったこともあったんだけれど。「この、若造が!」と追い返してしまってね……申し訳なく思ってるんだ。
人間でいう、認知症というものに似たものだったんだよ。
だから、また今度きちんとお詫びしようと思っているんだよ。
実のところは、僕よりも先にミントが亡くなってしまっていて。すぐあとに僕も死んだんだ。
だから、ミントのお迎えに行けなかったのさ。
僕が山口家に来たことはさっき伝えたよね。姉も兄も亡くなってしまったあと、まだ優子ちゃんは高校生だったから、姉と兄とすぐに入れ違ったような感じなのかもしれないなぁ。
優子ちゃんはすぐに大学生になってしまったけれどね。
だから、どちらかというと、僕にとって優子ちゃんよりも、優子ちゃんのお父さんとお母さんと過ごした時間が長いんだ。
プラモデルが好きなお父さんは、箱のまま保存するんだ。その箱をセロファンで丁寧に包んで保管していたよ。セロファンが劣化しないように、一定期間で包装し直していたようだね。
お母さんは料理が好きでね。毎日お皿をたくさん並べては、余ってしまったものはうまいこと次の日に作り替えて食べていたよ。毎日毎日、台所に立ってたよ。
あ、ちなみに僕の『るぱん』という名前は、お母さんが決めたんじゃなかったかな。
優子ちゃんは『次元』って付けたかったみたい。お母さんは「名前に濁点が入るものはダメ!」って言っててね、売り言葉に買い言葉とでもいうのかな?
「じゃあ、ルパンならいいわけ!?」
「いいわよ!」
ということで、まぁ有名も有名なお方だからね。
ひらがなで、『るぱん』という名前にしてもらったよ。
それでも大体、「るぱちゃーん」「るぱー」と呼ばれていたけどね。愛称とでもいうのかな?
まぁ、僕はお父さんとお母さんと一緒に居ることがとても好きでね。一匹でいることは少なかったかな、日向ぼっこ以外。あと、寝る時は必ずお母さんのお布団の上だね。お父さんは寝相が悪くて、僕は起されてしまうからさ。
僕に感動的なエピソードは特にないんだよ。
申し訳ないね。
お父さんもお母さんもかならずどちらか僕と過ごしてくれたし、僕自身も病気にはならなかったからね。認知症はただの加齢。つまり、長寿の証だね。
そうだなぁ……僕たちの紹介をするのであれば、ネコちゃん、むさし、僕、ミント、シナモン……って順番の兄弟だね。
今は、シナモン一匹なんだ。
自由にやっているようだけれど、腎臓辺りを少し悪くしているようだから……心配だよ。
あぁ、でも、シナモンもきっと話を聞かせてくれると思うよ!近々にでもね。
優子ちゃんは優しいから、一時、猫を保護することが多かったんだよ。三匹……だったかな?シナモンも面倒見るのを手伝ってあげてたみたいだよ。
でもね、元気そうなのは一匹だって。それも、SNSというもので確認できる程度らしくてね。優子ちゃんは寂しそうだったけど、とりあえずたまに見るどこかのお家に行ったセーラという子は、大福のようだと笑ってもいたよ。
きっと、たくさん食べさせてもらっている、いい証拠だろうね。
ミントを亡くしてしまった、シナモンはすっかり心を閉ざしてしまっているようだよ。あの子は、まだ、自分の最後のしっぽにかけた願いが叶ったことを知らないからね。
きっと願いが叶ったことを知ったら、嬉しそうにするんだろうな。でも同時に怒るんだろうと、僕は思うんだよ。
「兄貴!心配したんだからね!」ってね。
こっちに来るのはもっと後でいいから、願いが叶ったことだけは、誰か教えてあげてほしいな。
まぁ、難しいか。
そんなこんなで、僕は真ん中の真ん中、ど真ん中の立場だからね。皆のことを見ているんだよ。僕の素敵なエピソードでもあればよかったんだけど、何もないからなぁ。
本当に申し訳ないね。
僕たちはね、しばらくしたら、輪廻転生といってね、まぁ有名なことなのだけれどね。
何かにまた、生まれ変わるんだよ。
それがまた猫とも犬とも限らないし、小さな虫さんかもしれないし、人間かもしれないんだ。だから、きっとまたいつか出会える気がするんだよ。それがどんな形であれ、ね。
伝えておきたいんだけれど、うまく伝わるかな?
僕たち兄弟は、皆とても幸せだったってことなんだよ。
たくさん話しかけてもらって
たくさん抱き締めてもらって
たくさん撫でてもらって
たくさん笑顔をもらって
何より、たくさんの愛情をもらったんだ。
だから、お別れするときに、泣かなくてもいいんだよ。確かに、お別れは悲しいことだけれどね。僕たちは、皆あったかい気持ちで、旅に出るんだ。
だからね、心配はしないで欲しいんだ。また出会える日を、いつか出会えると信じて、待っていてくれると嬉しく思うよ。
おっと、そろそろ僕はパトロールの時間だ。
最後に。
シナモンを、よろしく頼むよ。僕たちのかわいい末っ子なんだ。
それでは。
「またね」
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