##2 日の落ちる校庭、廊下に置いた足音、白線の先



夕焼けに背伸びした影があった。

窓越しに映る熱に私は、しばらく立ち止まっていた。

校舎を取り囲む森。

時折、遠くから響くカラスの声。

地平線に落ちていく茜。

彼らは、コンクリートに囲まれた私を見て何を思うのだろう。


見惚れて足を留めていた。

すぐにでも、ここから抜け出そうと急いでいたのに。

誰もいない校舎に影が伸びていく音がする。

先生方も他の生徒もいない。

私だけがこの出来事を観測しているはずだった。

夕を振り切り、歩みを進めた。


目線の先に、白鯨を見た。

澄み渡る白の白さを何と語ろうか。

巨大な影は夕日が迫る校舎に落ち、悠然と存在していた。

その体躯は、夕闇の中で白く浩然と輝きとそして、私に目もくれず漂っていた。

またもや、私は足を留めて状況を固唾を呑んで目に映す。

白鯨の前に立ちすくんでいる一人の生徒を認めた。


あたりは、音が消え去り意識が引き伸ばされ、真黒な夜が私を取り囲んでいく。

誰もいないはずの校舎に、私と君と白鯨が取り残されていく。

日常が色使いを改め絵筆を変え、私に映す非日常。

誰も何も言わない。

君は私のことを気付いていないのだろう。

整然たる白鯨はそれでもなお、私達の前に姿を表した。


手のひらには、時間が私を置き去りにする感覚だけ。

背中の汗も、瞳に映る光景も、白く伸びる線を辿っていく。

線は果てしなく続き幾度も折れ、私を通り越しどこかに伸びていく。

立ったまま動かない君の後ろ姿を。

ふと、私が何かによって引き剥がされる感覚が。

君は白鯨に手を置き、触れていることだけを残して。


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