物語の破片

今日も彼女は

「ねぇみた？昨日のみーちゃんの動画！」

「みたみた！すごく楽しかった！」

聞こえてきた会話を聞こえないふり。

みーちゃんこと三嶋美春は今をときめくネットアイドルだ。

そして

「あ！みーちゃんおはよう！」

「昨日のすごく面白い放送だった！」

ざわざわと集まる人の中心に彼女はいた。

「へへ、ありがとう！」

いつも照れくさそうに笑う彼女は

私にとってとても綺麗な透明だった。

そうしてわたしは、そっと携帯を取り出す。

昨日の放送を少しだけさかのぼって

コメントを見返していく。

あ。

あった

キモい、なんで続けてるの？、ブサイク、やめろよ、しね、しね、しね

そうしたコメントを見て

ほくそ笑むわけでもなく、ただ無表情にひたすら文字を追うのだ。

そうしてわたしは安心を買う。

そうしてわたしは安定を貰う。

静かに私は携帯を閉じた。

深呼吸をした後、人に埋もれた美春を偶然見つけたように

「おー！おはよう美春！」って手を振る。

そのあと彼女は汚れた言葉に触れていた手を

「おはよー！」って握るのだ。

濁った文字を透き通った彼女が触れるのだ。

それを飽きもせず

わたしは毎日繰り返す。

それでもいつも通り

今日も彼女は綺麗な透明だった。