物語の破片

しれ

虹のたもとに君はいる。

『すげーんだぜ!お前のところから虹出てんの!』


久しぶり過ぎる電話から聞こえたデカい声で

連絡遅すぎだ!と僕が言う前にかき消された。


くっそ、この山男が。

はぁ…とため息をつくと


「いまどこにいんの?」

と聞いた。


『え、いま?いま、近くの丘からそっち見てんの!さっき通り雨で傘持ってなくて超びびったんだけど、その後晴れてきたからもしかしてと思ってさ!そしたらちょうどお前のところからさーー…』


「あー虹が出てたと、…ほう。」


『そう!』


こっちの気も知らないで…元気に返事すればいいってもんじゃないだろうに。

この能天気な野郎に振り回されながら、なぜこんなにこいつを待っているのだろうと自分自身が不安になる。


『あーぁ!すごく綺麗なんだよねぇ…一緒にお前んところから出てる虹見たかったぜ!』


「そりゃあよかった。僕も見たかったな。」


その答えが嬉しかったのか、

へへ…と笑った後


『でもそっちいにいけなくて残念だよ…』

ってはにかむように言った。


あーぁ。振り回されながらこの感じがいつも愛しくて愛しくてたまらないんだろう。


「ま、気長に待つから。寂しくなったらまたでんわしてきて。」

僕はいつも通り素っ気なく電話を切ろうとする。


『なあ、葉。』


いつもは『わかった!じゃあな!』って、すぐに切れてしまう電話から未練のある声が聞こえてきてギクリとする。


『俺、やっぱり葉のところに行っていいか?えぇっと…そこからの方が虹をもっと綺麗だな、って思いながら見れると思うからさ…。』


「はは、バカなの?虹はさ、そっちからじゃないと見えないんだよ。こっちに来たって見えないんだからさ。だから…」


あんたはいまさら僕から、こっちに来て欲しいなんて言わせる気なのか。


僕はこんなに我慢してるのに。


「また今度ね。」


そうして無理やり電話を切った。


知ってるさ。

僕のわがままでこうなってることくらい。

あいつをずっとずっと縛ってんのは僕だってことくらい。

でも寂しいんだ。


ごめんな…、ごめん。


そうそう…だからこれが一番正しいから。


ーーーーーー


虹のたもとに俺はいた。

行ったところで葉がいるはずない事はわかりきってるのに。


さっきまで晴れていた空が、通り雨でまた塗り潰されていく。

あの日俺はなんで葉を誘わずに置いていったのだろう。


…あぁでも葉、山嫌いだもんなぁ。


あの日、やっと踏ん切りがついて訪れた献花代に携帯電話が泥まみれになって落ちていた。

虹がかかった時限定なんて、お前…見かけによらずロマンチストだったんだな。


寂しいのはお互い様だろ?


君はいつ、俺を迎えに来てくれるだろうか。

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