memory:『Ⅺ』-歪な歯車-
「君が、スノウ情報部員かな?」
「へ……あ、はい。」
資料を運んでいるとあるいつもの日常。
ひとりの上官らしき人物が話かけてきた。
「こんな小さい子が優秀だなんて、信じられんが、こうしてしっかりと貢献出来ているようなら事実として受け止めるしかないな。偉いね。」
「……どうも。」
頭を撫でられ、少し嬉しかったが引きこもりが多いため少し肩をビクつかせてしまう。
「おっと、ごめんね。わたしは白辰から転職して来たばかりなんだが、子供が好きでね。
怖がらせてすまないね。」
その手を離す。
「しかしまぁ、この位でびっくりしちゃあ、そのうち君、もっと優秀な子がきたら要らなくなるかもね。」
「え。」
「それじゃ、明日からよろしくね。」
その上官は去っていったが、スノウはそこから暫く動けないでいた。
次の日。
「今日から君の指導にあたる上官だ。頼みますね。」
「えぇ、幼くとも軍の一員ですから。
しっかりと厳しくしないといけません。」
スノウは息が止まったような気がした。
今日から新しい指導員が着くとは聞いていたが、まさか昨日の人物だとは思わなかったのだから。
その日からスノウはその上官の監視下に置かれ、指導されることになった。
「何だこの資料は」
1日目
「もっと早く!!…おそい!使えないな!」
2日目
「休むな!術をつづけろ!!」
3日目
「弱い!そんなんでここにダラダラと居座るつもりかこのお荷物が!!」
4日目
「なんだその口の利き方は!!」
さらに数日
「なんだ、遂に何も言えなくなったか?これじゃあ不幸ものだな!」
「スノウさん、なんか変わったね。」
「うん、大人しくなったというか、忠実さが増したんだけど…」
「前よりもやつれて来ましたよね…」
周りからの心配の目に気づいた他の上官が少し厳しすぎやしないかとスノウの指導員に説得をしてみたが…
「いえ、大丈夫です。あそこまで自由にここにダラダラと居座らせていてはいつか使い物になりませんから。
それに、ここにいる以上しっかりしてもらわないと情報をうっかり漏らされても困りますので。」
と、話を聞かなかった。
その結果、
他の隊員と上官達の話し合いにより、白辰から来たその指導員をスノウの担当から外すことに賛成の手があがり、
それの許可が司令官から降りた。
その事を翌日スノウ本人に伝える予定でいた上官達だったが……。
"もう耐えられません。
訓練に耐えられず、弱い私をどうか許してください。
私はスパイなどではありません、なので決して情報などの口外や流出はしないことを約束します。
皆さんの期待に応えられず、お荷物となってしまいもうしわけありませんでした。
私の部屋は燃やそうが壊そうが好きにしてください。
勝手ながら除隊させていただきます。
ごめんなさい。役にたてず、
本当にごめんなさい。
_________ スノウ元情報部員より"
伝えに来た司令官が翌朝にスノウの部屋に来た頃には、
涙で滲んだ手紙と大量の仕事跡や資料だけを残し、彼女はどこかに消えていってしまった。
その後、スノウの担当をしていた指導員は罰則を受けたが、
腕の良い人材だったため監視下のもと、軍に残った。
その指導員いわく、
「彼女は厳しさに耐えられなかった。ただそれだけの事で惜しいが彼女の判断。仕方の無いこと。」
だと言った。
帝国の軍は上層部に彼女の捜索依頼をだし、その後も捜索が続いているが彼女を見つけることは叶わなかった…。
誰も、その事に元指導員の彼の口元が笑っていた事に気がつくこともなかった。
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