memory:『Ⅷ』- 異例-

軍基地に飛び級した少女。

軍に入った次の日、

まず、その術がどのくらいのものかテストすることになった。


情報部として配属はされるが、部隊の兵が何かの危機に会い、頭数が足りなくなった時に戦力になるかどうかを見極めるためである。


スノウ「……。」


異例の入隊者に、噂は広まり、

訓練場にはそれなりに見物しに来たものが面白半分で集まる。

周りには軍の上官や指揮官、隊員、養成所にいた教官。

さらにはあの"英雄"と呼ばれたものさえ運がいいのか悪いのか、たまたま見に来ていた。


「・・・」

レイゴルトに興味の有無は視線の中に含まれていない。

年齢、立場、奇異に映るはずのモノの要素を一切排除して、公平にソレを見ている。


「おいおい…まだちいせぇじゃねーか。いくつだあれ。」

「流石に可哀想じゃないかしら…保護施設にもどすか、養成所に戻した方が…」


小さくボソボソと隊員たちの間で聞こえる声に、少女は目を向ける。


「対戦相手は最近入ってきたコイツだ。」

上官は1人の兵士を連れてきた。

ガタイの良い、明らかに養成所に送り返すつもりでけしかけているのでは、と思う様な隊員を対戦相手として出してきた。


「嬢ちゃん、来るとこ間違えたんじゃねーかな。

養成所帰りたいなら今いいな。

悪ぃこと言わねーから。

お手柔らかにしてやりてーが、

ここはそんな甘いところじゃねーんだ。」

苦笑いしながら彼は、少女を見下ろしている。






(やだなぁ。)






「引く気は無いようだし、やってやりなさい。」

鼻で笑いながら、手をヒラヒラとして促す。

「後悔すんなよ、おチビちゃん…!!」

はぁ、とため息をして少女に近づいて、拳に力を込めた。

拳はバキバキと音を立てて肘から拳まで岩の塊のように変化していく。


「・・・。」


黙って見ている。

軍人としての態度は今のところ、確かに失格ものだが、今はそれを測る場ではない。


少女はただ動かず、周りの目に緊張しているようで脚が震えて前髪で目線が分からない。


そして、気づけば少女の目の前には振り上げられた岩の拳が瞳にうつった。


「すまんっ________!」


そして、その拳は少女に振り下ろされ、少女は殴られ…






「________ ッ、な?!」



ギリギリのところで横になんとか避けた様で距離を取る。


周りの1部はヒヤヒヤしていたのか、はぁと息を吐いた声がした。


「────気を抜くな。」


初めて、ここで口に出す。

呟きのようなソレだったが、その周りの気の抜きようが、致命的に感じたのだろう。

その一言で周りはハッとして気を引き締めて観戦をする。


一方戦闘中の2人は…


「クソっ、ちょこまかと…!!逃げてばかりじゃ意味が無いぞ!!」

「っ……!」


ひたすら少女はギリギリのところで何回もちょこまかと逃げ回る。






「戦にむいてないんじゃないか?

あれじゃあ仲間を守れねぇ。



_________"不幸にするだけだ"な。」



「_________ 」




逃げ回る最中、観戦していた隊員の1人に近づいた時、スノウの耳に入ってしまった呟き。


《お前が居ると不幸になる》



過去の声がそれと重なった。



瞬間_________、


空気はあたりの空気が凍りついたように涼しくなり、

冷たい風が、少女の前髪を揺らす。



追いついた対戦相手の彼はまた拳を創りあげ、振り上げて見下ろす。


「つかまえ_________ 」



揺れた前髪の向こうに、輝く青白い瞳と目が合った。






_________ そんなの、やだ。






突如少女の足元から突風と共に魔法陣が展開され、

振り下ろされた拳は地面から突き出た氷の塊に邪魔された。

その塊はあまりに硬すぎたのか、ヒビも入らずその拳に纏っていた岩の塊が砕け散るほどの強度を持っていた。


「お、おい、こんなヤバいやつだと聞いてない…っ?!?!?!」


叩きつけた拳は人の手に戻るが、今度は血の気が引いていくかのように冷たくなり始め、拳、腕と凍りつき始める。


「っ、うそだろ、!!!動け、なっ…?!」


気づけば魔法陣の上に立っていた彼の脚はパキパキと音を立てて凍りつき出していた。


「────。」


確かに、最初から侮ってはいなかった。

だが、ここまでの事は想定していなかった。

レイゴルトは腰に下げた七元徳を手に握る。



「っ、うらぁああ!!!」


バキャアッ!!


大きな音を立てながら力の限りその氷の束縛から抜け出し、1度身を引いてから、彼はもう一度走りだし、少女に挑む。

あまりに突然な攻撃に彼は危機感を抱き、全力でもう一撃、と少女目掛けて拳を振るう。


しかし、今度は何故かギリギリどころか、嘲笑うかのようにひょいひょいと滑るように避けられる。


「ッ、くそ!!このや、」


少女が後ろに回ったため、急いで振り返る。

しかし、振り返る前に強い激痛が後頭部に走った。


少女が、彼が振り返る前に少し飛び上がったと思えばそのまま回し蹴りをして頭を蹴り飛ばしたのだ。


「ぐ、ァッ?!」

それも少女にあるまじき強さで蹴られ、それでも彼は起き上がろうと地面に倒れながらも後ろを向く。


「_____________ ヒッ。」




思わずおかしな声をあげてしまった。


なぜなら、


彼の上空に、無数の鋭い岩石と、氷の針がこちらを向き、

少女は手を上にかざし、今にも振り下ろそうとしているのだから。



少女に見下ろされた彼は、その瞳を見て凍りついたかのように動けなかった。


「────仕方ない。」


戦意喪失と判断したレイゴルトは、隊員の前に一瞬で躍り出る。


まだ七元徳は抜いていない。

少女に顔を見上げる。

畏れはそこにはない。

告げるべきはただ一つ。


「君の力は、既に証明された。

勝負ありだ。矛を収めるといい。」


「ッ、レイゴルト大尉?!」


少女はぼーっとしているが、話が聞こえているのかはともかく、

その瞬間からゆっくりと宙に浮いていたそれは地面に離れた位置に降り、地表に触れた瞬間バラバラに砕け散った。


魔法陣もはじけて消え、あとは少女が突っ立っているだけとなった。


「・・・部隊での協力はともかく、単体での戦力は申し分ない。」


少女を見ながら、そう告げる。


「俺からの評価は参考にはなるまい。後は担当に委ねるとしよう。」


「………。」






この出来事により、少女をさらに分析した結果、

戦法の訓練もしつつ、情報部に配属されることになった。

この日、少女は高熱を出して倒れたため、その事を本人に告げたのは翌朝のことだった。




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