第83話 ケーキタイム
「タロウ殿、『あーーーん』だ」
「ケーキは甘くていいなぁ」
「タロウ殿は、お酒よりも甘い物が好きなのだな」
「酒は仕事でのつき合いがメインで、甘い物は心身の疲れを癒すから」
「男性貴族でも、甘い物が好きな人は多いがな」
「なぜか隠しますけどね」
「甘い物が好きなのは女性だという、古くからのイメージがあるからだろうな」
「別にどっちでもいいと思いますけどね。タロウさん、このミルフィーユもイケますよ。あーーーんしてください」
「あーーーん、甘さが控えめなのがいいね」
「私は、タロウ様に初めてケーキを食べさせてもらいましたけど、これはいいものですね。タロウ様、あーーーんしてください」
「あーーーん、チョコケーキもいいなぁ」
「このチーズケーキもイケるぜ。あーーーん」
「あーーーん。レアチーズケーキもいいけど、こういう定番のチーズケーキもいいね」
ウォーターシティーでの仕事が終わった私たちは、ここ数日ノンビリとしていた。
大金をかけた世界樹の植樹と成長作業が終わり、砂をどけて土が露出した土地を移住希望者たちが懸命に耕し、さらなる植樹と、農業を始めていた。
砂漠エルフたちは、環境に適応すべく今の砂漠エルフへと進化したが、森や自然への憧れは捨てていない。
世界樹を中心に植えた七ヵ所の開拓地において、さらに集まってきた多くの砂漠エルフたちが移住し、大喜びで定住のために働いていた。
砂漠が減り、土の大地が増えた影響で、徐々に砂流船が使えなくなる未来が予想できたので、先日ウォーターシティーに向かうため私とミュウで改造した、宙に浮く空中船の研究と量産も始まっている。
移動都市を再稼働できた砂漠エルフは人間よりも技術力があるので、私とミュウがやるよりも早く実用性に長けた空中船の改良に成功していた。
必要な部品などを『ネットショッピング』経由で販売し、他にも開拓に使える品がよく売れている。
ゴリさんタウンに関しては、ゴリマッチョとアイシャの元手下たちが真面目に働いているので問題ないであろう。
彼らは、故郷に居場所がなくてアイシャの砂賊に参加した経緯がある。
アイシャから『ここを追い出されたら、もうお前らの居場所はないからな!』と言われたそうで、真面目に生活していた。
子供が生まれる人も多いので、真面目にならざるを得ないという事情もあるのか。
そんな中で私たちは、ノンビリと『ネットショッピング』で購入したケーキを楽しんでいたけど。
「ゴリは、『バナナケーキ』でゴリ」
「これがあるから怖いよな。ほれ」
もはや突然現れても驚かなくなったゴリマッチョの希望に応え、私は『ネットショッピング』で購入したバナナケーキを彼に渡した。
「バナナケーキも美味しいゴリ。あーーーん」
「いや、いいや……」
どこの世界に、ゴリラに『あーーーん』されて嬉しい人がいるものか。
「ノリが悪いゴリ。ただこの美味しさを伝えたかったゴリ」
「それはよかったな」
ゴリマッチョのAIは、ジョークにも対応できるのか。
素晴らしい性能だな。
「『南西諸部族連合』の開発も順調で、バート王国は新領土の取り込みで忙しいゴリ。まだ時間は稼げるゴリ」
「油断はできないけどな」
あの新王のことだ。
突然なにかを思い付きで始められると、私たちでは予想できないので困ってしまう。
「防衛するだけなら大丈夫ゴリ。攻め手は守り手の三倍の戦力が必要ゴリよ」
「そうなんだけどな」
そもそも、『南西諸部族連合』がバート王国軍に攻められる時は、すでにシップランド・オールドタウンが陥落しているはずだ。
その前に手を打つから、過剰な危機感を抱く必要はないか。
「シップランドからの情報はなにかあるか?」
「バート王国の王都で活動するハンターの税金が七割に上がったゴリって」
「なんでお上の取り分の方が多いんだよ」
それでは、凄腕のハンターほどやる気をなくすだろうに。
他の町に逃げる可能性も高かった。
「なんでも、王国軍を強化するから問題ないということゴリ。王国軍に所属すれば、給料の他に、五割の税で済むゴリ」
なるほど。
有望なハンターたちを王国軍に所属させ、レベリングで軍人全員を底上げする意図があるのか。
だからドロップする神貨や素材の売却益で税を優遇……以前と同じだけど。
逆に、フリーを貫くハンターたちには大幅に増税するわけか。
「わかりやすい強兵政策だな」
「そうゴリね。フリーで優秀なハンターはシップランドに逃げ出しているゴリって」
軍は強化できるが、バート王国の経済にはよくない政策のような……。
今はとにかく、自分の手足となる王国軍の強化が先と見ているのか。
そして、力をつけた王国軍の矛先は……。
「シップランドか」
「タラント殿は警戒しているゴリ。ただ、補給をどうするのかゴリね」
この世界は、大軍を動かすのが難しいからな。
砂流船で移動しなければ、砂漠特有の気候のせいで死者が多く出てしまうし、さらに到着した時には疲労困憊になってしまうはず。
平時の戦闘力はあまり期待できないであろう。
食料もそうだが、人間は一日に決められた量の水が必要になる。
砂漠を進むのだから、余計に水の量が必要なのだ。
これを補給できなければ乾き死にするが、水は嵩張る。
魔法箱を使う手もなくはないが、アレは高価だし製造が難しいのでなかなか手に入らない。
商人が買い占める傾向にあるので、バート王国はそんなに持っていないはずだ。
「どうやってシップランドに大軍を送るのか……」
「わからないゴリ。普通に考えたら無理ゴリ。今はそんなに焦らなくてもいいのではゴリ?」
「まあ、最悪この国の開発が進めばな……」
なにか予想外の手でシップランドに危機が訪れた時、こちらに避難させるという方法もあった。
他の廃墟と化した移動都市を吸収したゴリさんタウンは、十万人ほどは人が住めるのだから。
「今は時間が欲しいなぁ」
「やることはやっていますし、あまり考えても仕方がないですよ。タロウさん、このモンブランも美味しいですよ。あーーーんしてください」
「あーーーん、これも美味しい」
その日の私たちは、ノンビリしながらケーキやご馳走を食べ、日頃の砂獣退治で疲れた体を癒したのであった。
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