第79話 極点到着
「ララベル、なにか見えるかな? 私はそれほど目がよくないんだ」
「岩と礫のみが堆積した島にしか見えない」
「ここに『なにかある』のですか」
「なにもないですよね?」
「砂獣もいないみたいだな」
数日後、私たちは『南西諸部族連合』に移住したばかりの、水上船を操れる砂漠エルフたちに極点のある島まで送ってもらっていた。
彼らは中央海で特別に許可を得て、水上船を使った漁業や運搬業を営んでいたそうだ。
だが次第に人間たちから圧迫を受け、このまま中央海沿岸で小さくなって暮らし続けるよりはと、移動都市ごと『南西諸部族連合』に移住してきたそうだ。
彼らもそうだが、確実に『南西諸部族連合』に参加する部族は増えているな。
そして、彼らの判断は間違っていなかったというわけだ。
なにしろ中央海は消滅してしまったのだから。
彼らはこちらに来てからその情報を知り、自分たちの判断は間違っていなかったのだと、安堵しながら私たちを送ってくれた。
「『南西諸部族連合』にはいまだ砂漠の領域も多く、砂流船を水上船に改造するのは現実的な方策ではないですな。水上船を新造した方が早いです。この海は中央海よりも広いので、もっと大きな船も必要です。どのみち船の新造は必要ですよ」
問題は、その船の材料である木材の確保だろうな。
グレートデザートにおいて木材は貴重な資源なので非常に高価であり、時にどんなに金を積んでも購入できないこともあったからだ。
「それは追々対策するさ。今は極点の調査が最優先だ」
「我々はここで待機します」
極点のある島に上陸した私は、すぐに『異次元倉庫』から一台の乗り物を取り出した。
「砂流船? ではないな」
「ララベル様、私がタロウさんと自作したんですよ」
使わない小型の砂流船と、『ネットショッピング』で購入した小型船のパーツや、車やバイクなどの部品、そしてミュウが自作した『魔導機関』を組み合わせた、『エアカー』モドキのような乗り物であった。
「岩や礫の上を走るのですか? 元は砂流船なのに」
「フラウはいいところに気がつきましたね。この乗り物は浮いて移動するんですよ。浮くから、どんな地形の上でも走れます」
小型の砂流船を改良、強化したものが、地面から数十センチほど浮いて走るのだ。
その動力は魔力で、以前ウォータードラゴンと戦った際に移動に用いたウニモグとは違って空気を汚さないということで採用された。
ウニモグも、現在ゴリマッチョが水素で走れるように改良しているけど。
ゴリマッチョ、マリリン、ウリリン、砂漠エルフたちから、『その乗り物は空気が汚れる!』、『世界樹によくない!』と言われてしまったら仕方がない。
そんなわけで、早速新しい乗り物をこの小さな島で試すことにしたわけだ。
長距離を移動するわけではないので、走行試験には最適なシチュエーションであろう。
「宙に浮き、滑るように走る。ちゃんと『魔導機関』に魔法陣を書き込んだので動くはずです」
「凄い乗り物だな。砂漠が減ると砂流船が走れなくなるから、今度はこれが普及するのか」
特に『南西諸部族連合』領内では、見つかった五本の世界樹の植樹と育成が始まっている。
砂漠の領域が減るので、水上船と空中船の普及はさらに進むはずだ。
「とはいえ、今は稼働時間に問題がありますけど。砂流船よりも頻繁に魔力を補充しないといけないんです。砂漠エルフはみんな多くの魔力を持つので問題ないですけど」
宙に浮いて進むので、どうしても砂流船よりも魔力を消費してしまうのだ。
稼動時間と燃費の向上はこれからも要研究だと、ミュウはアイシャに説明した。
「それじゃあ行こうか」
この中で誰が一番船を上手に扱えるかといえばアイシャなので、彼女に操船を任せて私たちは出発した。
「タロウ様、砕けた岩と礫しかないですね」
「まさにこの世界はグレートデザートだよなぁ……」
島になってしまった極点だが、海に囲まれたからといって急に自然が回復するわけでもない。
中心部に向かって進むも、ただ岩、礫砂漠が広がるのみであった。
「タロウ、極点ってなにかあるのか?」
「ないと思うよ」
目印でもあればわかりやすいのであろうが、地球の南極点にだってなにか印があったわけではない。
方位磁石を頼りに、自分たちで見つけるしかないのだ……と思ったら……。
「あるじゃん」
「なっ!」
『極点にはなにかある』という砂漠エルフの言っていたことは事実だった。
上陸してから巨大な岩や丘すらなかったこの島のほぼ中心部に、ポツンと金属製と思われるポールが立っていたからだ。
アイシャは急ぎ、ポールまで空中船を走らせた。
「なるほど。空中船の底にタイヤとやらを横にして貼り付けたのは、船底の保護のためか。岩・礫砂漠だと底が傷つくからな。タロウもミュウもよく考えるぜ」
「着地時の衝撃を和らげる効果もありますよ」
空中船は、地面に着地しなければならない。
木製の船底のみだと、着地地点によっては傷がついたり底が抜けたりするので、『ネットショッピング』で購入したタイヤを横にして一面に貼り付けていた。
クッション代わりというわけだ。
横にするのでタイヤの摩耗具合などどうでもよく、安い中古タイヤを買って経費を削減したけど。
「タロウさん、どうですか?」
「金属製のポールだね」
錆びていないので鉄ではないと思うが、太さ三十センチ、高さ二十メートルほどの金属製のポールが立っていた。
方位磁石を確認すると、ここが南の極点で間違いないようだ。
「ララベル、極点に到着した人の記録ってあるのか?」
「いや、聞いたことがないな。王城の書物にも、そういう記録が書かれたものはなかったはずだ。ミュウはそういう記録を見たことがあるか?」
「いえ、ないです。極南海が復活するまでの極点なんて、広大な無人の砂漠の囲まれた場所だったので、わざわざそんなところまで行く人はいませんよ」
「人類初の極点到達を目指してとか?」
「タロウ、それってなにか意味あるのか?」
過去の地球だと、初の南極点到達を目指して死者が出るほどの競争があったりしたのだが、このグレートデザートでは、人々にそこまでの余裕がないのであろう。
国家の威信……その前に、人々にパンと水を与える方が大切な世界というのもあるのか。
「じゃあ、これは誰が? 古代文明の誰かとか?」
「タロウ様、このポールって数千年もこのままで保つんですか?」
「だよなぁ……」
八千年以上もこの程度のポールが立ち続けるわけがない。
せいぜい数百年が限界か。
となると……。
「『変革者』の仕業かもしれないな」
私も『変革者』であり、自分がこれまでしてきたことを考えると、このくらいならできてしまうのであろうと思ってしまうのだ。
「わざわざ危険を冒し、手間暇かけて極点まで来てこのポールだけ建てて帰ったのか? 変な奴だな。オレには理解できないぜ」
「まさかな」
ポールを建てた人物は、なにか目的があってここに来たはずなのだ。
私にはそうとしか思えない。
「お宝を隠したとか?」
「フラウは意外と現金な奴だな」
「ですが、タロウ様と同じく『変革者』として色々と成し遂げた人物だとしたら、それなりの財を築いたはずです。それを隠すのに極点というのはいいアイデアかもしれませんよ」
「大昔の砂賊なら、辺鄙なところに財宝を隠すなんて話もよくあるけどな。『変革者』ってのは、それなりに功績を得て国家に優遇されている人も多いって聞くぜ」
普通に活躍した『変革者』なら、極点になにかを隠すなんてしない。
子孫を名乗る貴族や王族もいるし、築いた財産は子孫に継承されているはずだ。
「となると、このポールを建てた人は、この世界の人間に隔意があったから、ここになにかを隠したと考えるのが妥当ですね」
「ミュウ、ここにお宝がある保証なんてないぞ」
「ララベル様……」
「どうした? フラウ」
「ポールの傍に、金属製の扉のようなものがありますよ。ちょっとなにか見えたので、少し石をどかしてみたら見つけました」
「……少なくとも、このポールの下になにかがあるのだな。地下室か?」
「入って確認するしかありませんね」
フラウがポールの根元に金属製の扉を発見した。
それを開けるとその下には階段があり、地下へと続いている。
ここにお宝があるという説は、荒唐無稽な話ではなくなってきたようだ。
「入ってみるか」
私たちは『ネットショッピング』で購入した懐中電灯を手に、扉の向こうにあった階段を降りていくのであった。
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