第71話 ゴミ箱の使い方

「チェアーに寝そべってトロピカルジュースを飲む。なにもしない休日の贅沢なことと言ったらない」


「タロちゃん、私、ジュースのお替りなの」


「いいけど、遊ばないの?」


「マリリンはもう何万年も存在しているから、ララベルたちみたいにはしゃがないの。ガキじゃないの」


「そう……(見た目はフラウとそんなに変わらないのに……)」




 今日は休日であった。

 どうせ普段も、砂獣狩り以外の仕事はゴリマッチョとマリリンに任せきりなので、ほとんど遊んでいるが、この日は復活した砂浜にチェアーとパラソルを持ち込み、寝転がりながらトロピカルジュースを飲みながら休日を謳歌していた。

 若いララベルたちはビーチバレーで遊んでいるが、当然これらの品もすべて『ネットショッピング』経由で手に入れている。

 水着姿のララベルとミュウのチームと、フラウとアイシャのチームで元気よくビーチバレー対決をしていた。

 全員漏れなく高レベルなので、その身体能力を用いた白熱した試合が展開されている。

 ただマリリンのみは、『自分はもう年寄りなのだ』と言い張り、私の隣でチェアーに寝転がっていた。

 彼女は精霊なので、見た目で年齢を判断しても意味がないのか。


「海も大分回復したの。だから私はノンビリできるの。でも、そんな急に生物は大量に湧かないから、焦っても仕方がないの」


 私たちも頑張って『ネットショッピング』で購入した海の生き物の生体を放流してはいるが、極南海の広さを考えたら、復活には時間がかかって当然だ。

 特に大型の魚は、『ネットショッピング』で生体が購入できるわけがない。

 もっとバクテリアや海藻、小型の生物を増やしてから、中央海から移植するしかないか。


「へへっ、今日はオレたちの勝ちだぜ」


「やりましたね、アイシャさん」


「ララベル様は、ボールを飛ばし過ぎてしまうんですよね」


「力加減が難しいな」


 ビーチバレーを終えた四人が戻ってきたが、ビキニの水着姿がよく似合っている。

 とはいえそれは私の基準で、この世界だと痩せ過ぎという評価になってしまう。

 そのため、今いるビーチはカトゥー家専用のプライベートビーチという扱いになっていた。

 ゴリさんタウンの住民たちは、休みになると隣の砂浜で休みを過ごすことが増えていたので、分離したのだ。


「タロちゃん、スイカ割りしようなの」


「いいよ」


 早速『ネットショッピング』で、スイカ、木刀、目隠し用の布などを購入し、スイカ割りを始めた。

 まずは、ララベルからのスタートだ。

 目隠しをした彼女をその場でグルグルと回転させてから、スイカ割りを開始した。


「ララベル様、わかりますか?」


「ふっ、この私にかかればたとえ何回転させられたとしても、スイカの位置を失うなどあり得ない。我が心眼をお見せしよう」


 目隠しされているにもかかわらず、ララベルは真っすぐにスイカへと向かい、一撃でスイカを真っ二つにしてしまった。

 ここまで迷うことなくスイカへと向かい、見事に真っ二つにされると、逆に盛り上がりに欠ける気もする。


「ララベル様、なんか全然面白くないので次は私です」


 と言ってから新しいスイカを割ることにしたミュウであったが、彼女も魔法でスイカの位置を用意に探れてしまう。

 ララベルと同じくらい、スイカはすぐに割れてしまった。


「ミュウ様も、そんなに呆気なくスイカを割ったら盛り上がりに欠けますよ。次は私です」


 同じくミュウに注意したフラウであったが、彼女も弓の名手で気配の察知は得意だ。

 スイカは一撃で真っ二つに割れてしまった。


「オレだけしくじると、なんか嫌だな」


「普通は、一回で真っ二つなんてそうはないゲームなんだけどね」


 とは言ってみたものの、アイシャも一撃でスイカを真っ二つに割ってしまった。

 レベル高いからなのか、ハンターとして優れているからなのか。

 四人とも一撃でスイカを割ってしまうので、あまり面白くないスイカ割りになってしまう。


「スイカ、美味しいの」


「沢山あるゴリね。ゴリは、バナナでなくても大丈夫ゴリよ」


 割られた四つのスイカの大半は、マリリンとタイミングを見計らったかのように姿を見せたゴリマッチョが食べてしまったので、余らなくてよかったと思う。




「ふと思ったのだけど、砂漠の砂を取り除くと土が露出するかね?」


「どうでしょうか? 岩かもしれませんよ」




 ゴリさんタウンの経営は順調だと思う。

 ゴリマッチョが分裂して、あちこち口や手を出しているからだ。

 今日は時間があったので、ゴリさんタウンから外に出て周辺の様子を探ってみることにした。

 午前中の大量討伐と、砂獣たちもこの近辺にいると私たちに狩られてしまうことを認識したのであろう。

 廃墟と化した神殿と移動都市の周辺には、砂漠しかなかった。

 これを緑地化してみる……難しそうな気がするが、成功したら楽しいかもしれない。

 駄目ならやめればいいし、ちょっと試してみることにするか。


「それにしても、この世界の砂漠は砂ばかりだな」


 砂漠というと砂というイメージがあるが、実は地球ではそれほど多くない。

 その多くが、岩盤が露出している岩砂漠、石や岩石の破片が敷き詰められている礫(れき)砂漠なのだ。

 ところがこの世界の砂漠は、ほぼ百パーセント砂砂漠だとゴリマッチョから聞いていた。


「砂ばかりということは、土はどこに行ったんだ?」


「砂の遥か下ゴリ」


「出たな」


 分裂するのであちこちに顔を出せるゴリマッチョが、私の質問に答えてくれた。


「完全常温核融合に使う水の過剰摂取で、剥き出しになった岩が徐々に砕けて砂になったゴリ」


「じゃあ、礫砂漠なんじゃないのか?」


「数千年の歳月は、そういう変化も引き起こすゴリ」


 礫がさらに細かくなり、砂獣という謎の異常繁殖をする生物のせいで栄養がある土地が減り、ついに全領域の八割が砂漠という世界になってしまったのだと、ゴリマッチョが説明してくれた。


「今は、三割が海ゴリ」


 極南海は、中央海の倍以上の大きさがあるそうだ。

 あくまでもゴリマッチョが測定した結果だけど。


「海が増えたということは、雨が降りやすくなったわけだな」


「そうゴリね。そう都合よくここに降る保証はないゴリが、それなりに降るはずゴリ」


 これだけの大きさの海の水が蒸発すれば、雨雲もできやすくなるか。


「となると、砂漠の緑化は成功しやすいかもな」


「多分大丈夫ゴリ。オッサンには、『ネットショッピング』があるゴリ」


「『ネットショッピング』で緑化に使える品を購入できるな」


「それもあるゴリが、『ゴミ箱』もあるゴリ」


「『ゴミ箱』がか?」


 この機能、『ネットショッピング』で購入した品はゴミが出やすいので、これに捨てると便利な機能であった。

 ゴミの素材が、わずかではあるがイードルクに変換される利点もある。


「ここに、砂を捨てればいいゴリ」


「できるのか?」


「試してみればいいゴリ」


「それはそうだ」


 私は『ネットショッピング』のウィンドウを開き、ゴミ箱の表示をクリックすると、近くの砂山を指定した。

すると、ゴリマッチョの予想どおり、大量の砂がその場から消えてしまう。


「残高は……百イードルク増か……」


 数十トンの砂が、日本円にして百円。

 これって、コンクリートの材料にでもするのであろうか?

 私には、『ネットショッピング』を主宰している側の事情はまるでわからないけど。


「砂を捨てられるとなれば、邪魔な砂を捨てればいいのか」


 えらくご都合的な展開だが、私は『ゴミ箱』を利用してその辺の砂を捨て始めた。


「量が多いな……」


「数千年の堆積ゴリ。仕方がないゴリ」


 試しに土が露出するまで砂を捨て続けてみるが、いくら砂をどけてもなかなか土の地面が露出しない。

 数十メートルほど砂をどけたところで、ようやく土の地面が見えてきた。

 えらく乾燥していて、あまり栄養もなさそうな土だ。


「土の層はあるんだな」


 ただ、軽く五十メートル以上は砂をどけないと土に届かないので、これまで誰も砂をどけようとは思わなかったのであろう。

 水がないので、土を見つけても手入れができないというのもあるのか。


「まずは砂をどけてある程度地面を露出させるのが先か……」


 私は、ひたすら砂漠の砂を『ゴミ箱』に捨てる作業を繰り返したのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る