第64話 神殿の復活
「……ボロっ!」
「長年手入れもされずに放置されて誰もお参りに来ないから、こんなものなの」
「辛うじて、神殿だとわかる作りですね」
「精霊信仰か……教会の元となった信仰だな。今の教会は、神貨を与えてくださる神への信仰の方がメインだが」
「タロウ、これを直すのか? 手下たちは船の修繕なら得意だけど、神殿はどうかな?」
移動都市は神殿に到着した。
以前は海岸にあったと思われる古い神殿だが、数千年も誰も手入れをしていないので状態は最悪だった。
廃墟と呼んでも差し支えないであろう。
「ゴリマッチョ? どうなんだ?」
「ゴリ、移動都市でない廃墟は直せないゴリよ。それよりも、すでにゴリさんタウンには神殿があるから、そっちに移転した方が早いゴリ」
「それがいいの。じゃあ、そういうことでなの」
「なあ、今まで住んでいた神殿に思い出とかはないのか? 持ち出したい品とかは?」
「ないの。だって、誰もお参りにもお供えにも来ないの」
「……」
アイシャ、そこは聞いてあげない方が親切ってものじゃないかな。
それを口に出すともっとマリリンが可哀想なので、私も声に出しては言わないけど。
「じゃあ、引っ越すということで」
これでいいのかという気もしなくはなかったが、古い神殿は呆気なく放棄され、海の精霊であるマリリンは移動都市内にある神殿に引っ越した。
「立派な神殿だな」
「古代文明では、精霊信仰が盛んだったゴリよ」
「タロちゃん、神殿の外側は立派だけど、中が寂しいの」
「誰も利用していない神殿だからなぁ……」
当然、まったく使われていなかった神殿内の内装や装飾は皆無なわけで、私は『ネットショッピング』でそれらの品を購入することにした。
それよりも、私は『タロちゃん』かぁ……。
年齢差を考えたら仕方がないのかな。
「どんなものが必要なのかな?」
「燭台があるといいの。ロウソクを立てて私に祈るの」
なるほど。
世界は違えど、そうお参りに差は出ないということか。
「どんな燭台がいいのかな?」
「そうだねぇ……あっ、こういうのがいいの」
「えっ?」
私はマリリンに『ネットショッピング』の閲覧の権利を与えていないのに、彼女は自力でメニューを開いてその中から一番気に入った燭台を選んでいた。
そういうところは精霊なんだと思う。
「タロちゃんは、便利なスキルを持っているの。私は誰にも言わないから安心してなの。で、これなの」
さすがは精霊というべきか。
私の特殊性にすぐ気がついてしまうなんて。
それはいいのだけど、選んだ燭台のデザインが……。
「これ、私の世界で仏教という宗教の神殿で使われる燭台なんですけど……」
神殿はギリシャのパルテノン神殿に似ていて、内部は教会みたいなのに、そこに置く燭台は寺院用の献灯台……私からすると、もの凄くチグハグなのだ。
「もっと高価なやつでもいいですよ」
「これが渋くていいの」
デザインが渋くて気に入ったのか。
祀られている精霊本人の希望だから、これでいいのだと思うことにしよう。
「これもいいの」
「それは、曼荼羅と言いましてですね……」
というか、こんなものまで『ネットショッピング』では売っていることが驚きだった。
マリリンが選んだ曼荼羅は五百万イードルクほどして、フラウとアイシャが素で引いていたけど。
「こんなものだろう」
「教会に飾る絵画みたいなものですよね? もっと高いケースものも多いですからね」
さすがは元王族と貴族の娘。
五百万イードルクの曼陀羅を見てもなんとも思わないのだから。
「これがいいの」
「木魚かぁ……」
「タロウさん、これってなにに使うんです?」
「こうやって、ポクポクと木魚バイで叩くんだよ」
「いい音しますね」
「マリリン、これ気に入ったの」
別の宗教の道具なんだけど、精霊であるマリリンが気に入ったからいいのかな?
他にも、鳥居とか、手水舎と柄杓とか……というか、柄杓はともかく手水舎なんて『ネットショッピング』で買えるんだな……。
他にも、掛け軸とか、おりん、十字架、焼香台、賽銭箱、ロウソク、お供え用の造花など。
統一性は皆無だが、祀られる本人が気に入っているのだから問題ない、ということにしておこうと思う。
「マリリンにはパワーアップが必要なの」
「パワーアップ?」
「人々から信仰されることなの。これをみんなに配るの」
と、精霊から言われて、私はゴリさんタウンの全世帯に小さな神棚を配布することになった。
そして、『一日に一度でいいから海の精霊様に祈ってね。ご利益あるから』と説明する羽目になった。
「ご利益あるんすか。ならいいですよ」
「無料で祀る棚を貰えましたので」
無料で神棚を配ったのがよかったようだ。
みんな、各家庭に神棚を置いてマリリンに祈りを捧げることを約束してくれた。
「ゴリさんタウンに、神殿と神様が来てくれたゴリ」
「マリリンは精霊なの」
「そんな細かいこと、大半の人は気にしないゴリ」
「それもそうなの」
「いいんだ……」
そりゃあ神様でも精霊でも、拝む対象がいれば内容はそんなに気にしないって人は、日本にも沢山いたけど……。
「ええと、これでいいのかな?」
「次は、枯れた海を復活させるべく、ウォータードラゴンを倒すの」
「大丈夫かな?」
この前の虚無に続き、またも名付きの砂獣と戦うことになった私たち。
私は戦闘力に自信がないのだけど、本当にウォータードラゴンを倒し、この枯れた海を復活させることができるのか。
上手く成功させたとしても、ララベルたちに被害が及ばないのか。
私はただ、それだけが心配であった。
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