第61話 移動都市始動

「お頭もついに結婚ですか」


「めでたいな」


「祝ってくれるのは嬉しいが、オレはお前たちに言っておくことがある」


「「「「「「「「「へい、なんですか?」」」」」」」」」」




 新しく再稼働した移動都市を奪おうと船団で襲撃したんだが、オレは自分と同じくドブスなのに、男性と結婚して幸せ一杯そうな女剣士に敗れてしまった。

 剣の腕前や戦闘力もさることながら、やっぱり愛する夫がいる女性は強い。

 オレは、心でも彼女に負けてしまったんだ。

 手下たち全員が結婚して子供までできたというのに、オレは一人のまま。

 そのダメージも、オレの敗因の一つだろうな。

 でも、負けて悪い気はしなかったんだ。

 だって、こんなオレとタロウは手を握ってくれたし、キスまでしてくれた。

 しかも、まったく嫌がらないなんて。

 こんな素晴らしい男性、もう一生お目にかかれないはずだ。


 元婚約者なんて、オレによく『あまり近づくな!』、『人がいるところでは一緒に歩かないからな!』などと言う人だったのに。

 それを言ったら、タロウはとっても居た堪れない表情を浮かべていた。

 そんな優しいタロウと、オレは結婚できるんだ。


 こんなに嬉しいことはない。

 手下たちも移動都市の住民として受け入れてくれることになった。

 しかも、オレたちは砂賊として短期間だが、活動して名を広げてしまったので、これを受け入れるのに大きな障害があった。

 犯罪者だからな。

 でもタロウは、砂漠エルフたち経由でオールドタウン、シップランドの商人たちと連絡を取り、『私掠行為での損害と慰謝料を支払うので、指名手配を解除してくれ。これ以降は悪さをしないようにちゃんと管理するから』と交渉してくれたのだ。

 随分と損をさせてしまった。

 手下たちは犯罪者でなくなったことを喜んでいるが、こんな幸運そうはないし、これからは移動都市の住民となって町長であるタロウの命令に従わなければいけない。


 これまでのようないい加減な態度は許されず、今はせっかくタロウに買ってもらったウェディングドレス姿だが、言うべきことはちゃんと言っておこうと思ったのだ。


「いいか? オレたちはもう砂賊ではないんだ! タロウに迷惑をかける奴は、オレが容赦なく追放するか処断する。一人の無法で、他のみんなが迷惑するんだからな。それを忘れるなよ」


「へい。俺も子供が生まれるので」


「私は元々砂賊には向いていなかったんで、農地を貸してもらえて嬉しいです」


「俺も」


 故郷を逃げ出したはいいが、ハンターや砂賊に向いていない奴も多かった。

 なんとかレベルを上げ、集団で砂獣退治をしていたのだが、数が多いと犠牲は出にくいけど、弱い奴が多いと成果が上がらないからな。

 ハンターに向いていない奴は、家と一緒に空いている農地も貸与してもらって嬉しそうだった。

 狭いオアシスの出で継げる農地がなく、それで故郷を出た奴も多い。

 農業をやれて嬉しいのであろう。

 水、肥料、種子、栽培方法の指南など。

 タロウがちゃんと援助してくれるのもよかった。

 強い奴らは、船を動かして砂獣を狩り続けている。

 それにしても、この移動都市の港はいいな。

 オレたちの船をすべて収容して、まだスペースに余裕があるのだから。


「お頭こそ、前みたいに暴れすぎて旦那に愛想尽かされないでくださいよ」


「タロウは、女が強くても気にしないから大丈夫だ」


 戦闘の時はララベルが矢面に立つことが多いけど、そんな彼女を美しいと褒め、強さを褒める男だからな、タロウは。

 オレの元婚約者なんて、自分は弱いくせにオレが強すぎると文句ばかりだった。

 そのくせ、自分はろくに働きもしないのだから。

 タロウは戦闘は得意じゃないらしいけど、包容力があって大人の男性なのがいいと思う。


「お互いに、不得手なところを補い合うのが夫婦なんだよ」


「お頭、ノロケですか?」


「そのドレスはいいっすね」


 タロウが買ってくれたんだ。

 元婚約者は、『お前がドレス? 金の無駄でしかない』と言っていたのに、タロウはすぐに私にウェディングドレスを買ってくれた。

 ララベルとミュウも綺麗なウェディングドレスを持っているから、同じ妻として平等にというわけだ。


「オレは、結婚は難しいと思っていたからなぁ」


「話を聞くに、元婚約者が酷すぎですけどね。今度はちゃんと幸せになってくだせえよ」


「おうよ」


 随分といきなりの気がしたが、私はもうタロウに唇を奪われているわけで……手下たちのこともあるから、結婚は必要なんだよ。

 政略結婚の側面もあるけど、タロウは優しいし、オレにはまったく不満はない。

 それよりも、早く結婚式が始まらないか待ち遠しいぜ。




「前に、しゃしんを撮ったんだがな」


「新しい住民たちに、タロウさんの妻を全員お披露目というわけですよ」


「少し恥ずかしいな」


「他人の目なんてどうでもいいじゃないですか。タロウさんいわく、『自分がいかに楽しめるか』ですよ。ねえ、タロウさん」


「そうだな」




 日ごとに謎の拡大を続けるゴリさんタウンを襲撃してきた砂賊だが、私の活躍? 臨機応変な対応?

 とにかく無事に争いを治めることに成功し、私たちは砂賊の長アイシャ以下砂賊の連中を移動都市に受け入れることを決めた。

 彼らは元々オアシスの住民だったので、お城以外すべて空いている家を貸し、それぞれに適性のある仕事を割り振った。

 狭いオアシスを追い出されるか、居づらくなって出て行くことを決めた連中なので、大半は農家の出だった。

 そこで過去の経験を生かし、空いている農業区画に配置して農作業をやらせている。

 必要な農器具、種子、肥料などは『ネットショッピング』で購入し、農業指導は農業書などをフラウとミュウが翻訳し、必要な部分を印刷して配ってあった。

 成功するかどうかわからないけど、『ネットショッピング』以外での食料の入手手段を模索しておいた方がいいだろう。

 一応移動都市持ちになった私の、安全保障政策というやつだ。


「町長と奥さんたちの結婚式を見せて、住民たちを安心させるゴリ」


 ようやくゴリさんタウン……ゴリマッチョが意地でも改名を許さないのでそのままだ……が落ち着いてきたので、今日は私たちの結婚式を行うことになった。

 アイシャと、写真を撮っただけのララベルとミュウも参加し、フラウも横で『成人したら、私も結婚しますので』とアピールしつつ、巨大なお城のテラスに立つと、元砂賊である住民たちが一斉に歓声をあげた。

 居場所がないので船で生活をしていた人たちなので、居場所ができて嬉しいのと、女性としては……だが、とても面倒見がいい元船団長アイシャが私と結婚するので、みんな喜んでお祝いをしているのだ。


「お頭、おめでとう!」


「ゴリさんタウン万歳!」


「名前はちょっと変だけど、他の移動都市もそうだからいいか」


「そうだな」


 移動都市がみんな変な名前である理由。

 それは、電子妖精が自分の姿に比した名前にしてしまうからだ。

 ビタール族長の移動都市も、『キリンさんタウン』だからなぁ……。

 もう諦めているのか、改名しようとする素振りもないし。


「タロウ様、みなさんにお配りするお祝いのお酒と紅白餅ですけど、凄い量ですね」


 せっかくのお祝いなので、『ネットショッピング』で購入したのだが、住民全員に配るのでもの凄い量だな。


「今日は特別だから」


「それもそうですね」


 ゴリさんタウンには教会がないので、私のタキシード姿、ララベル、ミュウ、アイシャのウェディングドレス姿を披露し、お祝いを配って終わりだったが、みんな喜んでくれてよかった。


「雨降って地固まるゴリよ」


「お前が言うな!」


 色々と裏で画策しやがって。

 昨晩、我慢の限界がきたら逃げると言ってやったんだが、果たして効果があったのかどうか。


「これで企みは終わりゴリ。移動都市は、住民が生活してこその移動都市ゴリよ。だからオッサンが、砂賊の連中を受け入れるように動いたゴリ」


「……」


 このゴリラ、どうも信用できないというか……。


「無節操に人は入れないゴリよ。町が混乱するゴリ。砂賊の人たちは、アイシャ様のコントロールが利くゴリ」


 確かに、世話になっていたアイシャに逆らう砂賊はいないか。

 戦闘力も桁違いだからな。

 それにしても、このゴリラ、私をオッサンと言うのをやめないな。


「なににしてもおめでたいゴリ」


 結婚式が終わり、私たちは移動都市の中で新婚生活を始めることになった。

 とはいえ、千人を超える住民の管理があるので忙しい……かと思ったら、そうでもなかった。


「船置き場に揚げた船は、ちゃんとメンテナンスするゴリ」


「その野菜は、あまり水をあげては駄目ゴリ。土が乾燥したら、少しでいいゴリ」


 さすがは、有機スーパーコンピューターが作り出した電子妖精というか、ゴリマッチョは分裂し、住民たちに農業のやり方から、船の整備、効率的な砂獣狩りの方法などをその傍で伝授していた。


「ちゃんとやらないと、また故郷を失って放浪の身ゴリよ。この都市が維持できているのは、オッサンに特別な力があるからゴリ」


 どうやら私たちに出て行かれると困る自覚もあるようで、住民たちに私がこの移動都市の主である理由を説いていた。

 反乱を防ぐためだろうが、私たちは楽できるから問題ないだろう。

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