第55話 今のところ、特に意味はない
「オッサンにお願いゴリ」
「お願い?」
「これから、夜中に廃墟の移動都市と遭遇したら、ゴリが合体させるのを認めてほしいゴリ。屋敷に迷惑は及ぼさないし、静かに作業するゴリ」
「別にいいけど……」
キリンさんタウンと別れてから、ゴリさんタウンは砂漠を悠々と航行していた。
砂漠の海を走る移動都市というのは、見ているとなかなかに壮観だ。
私たちは、定期的に砂獣を退治してイードルクを稼ぎながら、あとは好きなものを『ネットショッピング』で購入し、四人で楽しむ生活を送っている。
今日は暑いので、夏バテ防止のため……グレートデザートの、特に砂漠ではあまり季節感はなく昼は暑くて夜は寒いけど……ウナギを購入して食べていた。
さすがに生のウナギは捌いて食べるのは難しいので、冷凍のカバ焼きを購入して食べている。
最近は、冷凍のカバ焼きでも十分に美味しいからな。
ララベルたちも、フラウ特製のウナ重を美味しそうに食べていた。
とそこに、ゴリマッチョが姿を現してこう提案してきたのだ。
「移動都市の廃墟ってそんなに多いのですか?」
「ミュウ様、むしろこの世界には電子妖精が消えて廃墟となった移動都市の方が多いゴリ」
そんな移動都市は、商人や砂族たちによって金になるものをはぎ取られ、世界中の砂漠に放置されているらしい。
ゴリマッチョはそんな元同胞?たちに同情し、せめて自分の移動都市の素材として生かす方針なのであろう。
「キャパは大丈夫なのですか?」
「それは心配ないゴリ。ゴリは、最新型の電子妖精ゴリ」
最新型ゆえに、巨大な移動都市の管理も可能というわけか。
だから、元同胞を吸収して大きくなろうとしている。
「オッサンも、ゴリさんタウンが巨大な方が鼻高々ゴリ」
「小さいよりは……と思わなくもないけど、必要性については疑問がある」
現時点で、このゴリさんタウンの住民はわずか四名。
元々移動都市の設備やインフラは、使う者がいなくて余り気味なのだから。
「でも、そこまで管理にコストはかからないゴリ。ゴリも、オッサンの金稼ぎに協力しているゴリ」
「確かに……」
どうしてゴリさんタウンが、私たちの金稼ぎに協力しているのか。
それは、移動都市が移動の過程でその巨大なアームを武器として砂獣を倒してしまっているからだ。
そのため、便宜上ゴリマッチョは私たちのパーティの一員であった。
ただ、ゴリマッチョは正式には生物でもない。
彼に経験値は入らないのでレベルは上がらず、それでも私たちも寝ている間にレベルが上がっていることもあるので、とても便利ではあった。
イードルクも普通に手に入るから、やめろとは言えないんだよなぁ……。
「移動都市の維持で困窮するような真似は避けてくれよ」
「それは勿論ゴリ。実は、この近辺は死んでしまった移動都市があちこちに放棄されているゴリ。だから聞いてみたゴリ」
我々への負担はないので許可を出したのだが、それからというもの、朝起きる度に移動都市が大きくなっているのを実感するようになった。
「合体というよりも吸収じゃないかな?」
「タロウさん、もう初期から比べたら三倍以上に膨らんでいますよね?」
直径だけで三倍以上なので、実際にはかなりの数の廃墟を吸収しているはずだ。
しかも、俺たちが寝ている間に。
「実はお願いがあるゴリ。今夜は迎賓館で寝てほしいゴリ」
「どうしてだ?」
「このゴリさんタウンも大きくなったゴリ。だから、屋敷も大きくするゴリ」
「この移動都市に相応しい領主館に増築するわけだな」
「そういうことゴリ。ララベル様は、王女様だから理解が早くて助かるゴリ」
移動都市が巨大化した分、それに相応しい町長屋敷に変更するわけか。
そういえば今の私は、砂漠エルフたちから『ゴリさんタウンを所有するゴリラ族の族長一家』という扱いだったな。
他の移動都市を有する砂漠エルフたちに舐められないよう、それに相応しい屋敷が必要というわけか。
「でも、住民は四人のままですけどね」
「だよね」
フラウの言うとおりで、今の屋敷でも使っていない部屋の方が多いからなぁ……。
意味があるようなないような……。
「あっ、でも。このお屋敷もあまり掃除をしなくても綺麗なので、私はどちらでもいいです」
この移動都市は、ゴリマッチョが生産したナノマシンで常に新品同様に保たれている。
屋敷が無意味に大きくなっても、私たちがそれで困るということはないのだ。
「じゃあ、今夜は迎賓館で休むよ」
「荷物も運び出してくれゴリ。そのままにすると、ナノマシンが分解して全部元素にしてしまうゴリ」
「いいけど。私が『異次元倉庫』を持っていてよかったな」
そのまま屋敷に置いておくと、購入した家具や家電などが消えてしまうと聞いたので、私たちは屋敷の荷物をすべて『異次元倉庫』に仕舞ってから、迎賓館で一晩を明かした。
「むにゅ……タロウさん、お屋敷ってどのくらい立派になっているんですかね?」
「移動都市の直径が三倍になったので、ここは三倍になったと考えるのが妥当かな?」
「そんなものですかね」
翌朝、昨晩はミュウと一緒に寝ていたので、彼女は起き抜けから増築された屋敷のことが気になっていたようだ。
裸のまま、私にどんな屋敷になったのであろうかと尋ねてきた。
「まあ、外に出て見ればわかるさ」
「そうですね」
お風呂はそのあとでいいであろうと、二人でガウンを着て……シルク製で高級品だ。当然、『ネットショッピング』で購入している……外を見ると、そこには衝撃の光景が広がっていた。
「城か?」
「もう屋敷じゃないですよね?」
移動都市が大きくなったのに合わせて、屋敷を大きくするという話だったのに、朝目が覚めてみたら移動都市の中心部に巨大な城が鎮座していた。
私とミュウは、一気に目が覚めてしまう。
「ララベル!」
「私も目が覚めて驚いた口だが、まあそうなってしまったものは仕方がないかなと思う」
昨晩は一緒に寝ていないので、早朝から剣の稽古をしていたララベルだが、屋敷が巨大な城になっていてもあまり驚いている様子はなかった。
元々王女様だからか?
「おはようございます、タロウ様、ミュウ様。あのお城、お台所が使いやすいといいですね」
朝食の準備をしていたフラウも、屋敷が城になっても驚いている様子がなかった。
意外と大物なのかもしれない。
「以前の屋敷の三倍どころじゃないな」
移動都市の面積に比して、随分と城が大きいような気がする。
「そこは、効率を重視ゴリよ」
「「うわっ!」」
いきなり後ろからゴリマッチョに声をかけられ、私とミュウは思わず変な声が漏れてしまった。
幽霊じゃないんだから、突然後ろに現れないでほしい。
「効率?」
「ゴリは、進路上に十七の廃墟と化した移動都市を確認しているゴリ。これも吸収すると、このお城でもちょうどよくなるゴリ。生産効率が悪いと、製造者に怒られるゴリ」
「そうか」
古代文明の人たちは、現代日本に比べると融通が利くんだな。
私の会社だと、若い人が業務改善案を出しても、年配の部長あたりが『手抜きだ!』と激怒して潰してしまうケースも多かった。
私は生産効率が上がっていいような気がするのだが、向こうは『昔からうちの会社はこうなんだ!』と言って譲らない。
大企業あるあるではあるな。
そんな融通が利くはずの古代文明も、滅んでしまえば意味はないけど。
「あと一週間もすれば、ゴリさんタウンはもっと大きく成長するゴリよ」
「人口は相変わらず四人だけどな」
一週間後、ゴリさんタウンは直径にして最初の五倍の大きさと、中心部に巨大な城を持つ、大規模移動都市へと成長を果たしたのであった。
ただし、ほとんどの設備やインフラは使われていない。
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