第54話 第二の電子妖精

「キリンさんタウンの電子妖精『キリンマン』キリン。あなた方の移動都市の電子妖精は、最新型でスペックに余裕があっていいキリンね」


「ええ……」


「(タロウ殿、首が長い変わった生き物だな。この生き物は、キリンと鳴くのか)」


「(いやあ、それは違うと思うな。彼だけだと思う)」


「(うちのゴリさんもそうですけど、どうして語尾が変なんでしょうかね?)」


「(親しみを感じてもらうためとか?)」


「(タロウ様がいた世界には、こういう生き物がいるんですね)」




 さて、挨拶も済んだので交易となったわけだが、キリンさんタウン側の要望するものは、果物、ジュース、果実酒、そして炭酸水であった。

 あとは、ドライフルーツも大量に所望された。

 果物好きの砂漠エルフにとって、携帯可能で簡単に果物が楽しめるドライフルーツは素晴らしいアイテムなのだそうだ。

 あとは、ナッツ類も人気であった。

 ニボシはいらないと言われたけど、ニボシは仕方がないかな。

 カルシウムが取れるんだけどね。

 そして、こちらが代わりに貰うものは魔法薬の類であった。

 砂漠エルフの魔法薬は怪我や多くの病気に対応できる優れもので、とても高価な品である。

 大量の果物を渡さなければと思ったら、他にお願いしたいことがあるそうで、これをやってくれたら果物は適量でいいと言われてしまった。

 その一環としてキリンさんタウンの電子妖精に会ったのだが、移動都市の名前どおりキリンの姿をしていた。

 全長二メートルほどのキリンが私たちに挨拶をしてきた。

 その名は『キリンマン』だそうで、ゴリマッチョ並に変わった名前であった。


「この移動都市の電子妖精が、私たちにどのような願いをしたいのです?」


「私のアップデートキリン。あなた方の移動都市の電子妖精ならできるキリン」


 キリンマンによると、最新の電子妖精の助けがあれば自分は性能アップができるそうだ。

 自分は古い方の電子妖精なので、是非性能アップをしておきたいと。


「性能が上がるのか。ということは、うちのゴリマッチョ並になると?」


「そこまでは無理キリン。あなた方の移動都市みたいに、他の廃墟と化した移動都市の吸収などはできないキリン。今の規模のまま性能アップが精々キリンね。私は古い電子妖精だからキリン」


 ゴリマッチョの助けがあればある程度性能アップできるが、ある程度が限界というわけか。


「ゴリマッチョは、最新型の電子妖精キリン。有機スーパーコンピューターの増設もできるキリンが、私には無理キリン。性能アップして、ドームを装備したいのが一番の目的キリン」


「ドームか……」


 移動都市を覆うガラス状のドーム。

 特殊な物質でできているそうで、これがあればドーム内の水分の蒸発をかなり抑えられる。

 外に逃げる水が減るので、水の補給頻度が劇的に減るそうだ。


「我々からもお願いします。代金として魔法薬をお渡ししますので」


「ドームがあれば、オアシスで水を購入する頻度が減ると?」


「我らは自給自足の農業や、魔法薬の材料である薬草栽培で大量の水を使うのですよ」


 今のドームがない状態だと、せっかく撒いても蒸発してしまう水が多いわけか。

 水はオアシスから補給しなければならず、当然無料ではない。

 水の補給頻度が減れば、ビタール族長たちも大いに助かるわけだ。


「我ら砂漠エルフたちは暑さにも弱いのです。人間に比べると、レベルアップの恩恵が少ないのですよ」


 砂漠エルフは、人間ほど体が頑丈ではない。

 移動都市での生活でも、体調を崩す者が人間よりも多いそうだ。


「温度を調整する魔道具もありますが、あれは高価で作るにも手間がかかるので、全世帯に普及していないのです。ドームがあれば、大型の魔道具を数台設置するだけで済みますので」


 あのドーム、ただのガラスではないので、砂漠の炎天下を移動してもドーム内が暑くならないのだ。

 日の光は通してしまうが、それは農業をするには都合がいいからな。


「わかりました。依頼をお引き受けしましょう」


「助かります」


 実際に作業するのはゴリマッチョだけど、断ることがないと思うので、私たちはビタール族長からの依頼を引き受けることにしたのであった。




「バナナが沢山いるゴリ」


「むしろそれで済むのか」


「キリンマンを動かす有機スーパーコンピューターを、今の大きさのまま性能アップさせるのは可能ゴリ。でもその作業を行うためには、ゴリ自身の有機スーパーコンピューターの大型化と、メモリーの増設が必要ゴリ。他に必要な原子は砂漠の砂から集めているから、有機スーパーコンピューターの材料であるバナナだけでいいゴリ」


「ゴリマッチョさん、感謝するキリン」


「同じく生き残っている電子妖精同士、仲良くするゴリ」


「他の電子妖精と合わせて、動物園みたいだな」


「オッサンの言うとおりゴリ。ゴリたち電子妖精は、通称『動物園シリーズ』と呼ばれているゴリ」


「じゃあ、他の電子妖精も動物なんだ」


「そうゴリよ」




 ゴリマッチョがすんなりと依頼を引きうけてくれたのでよかった。

 作られた存在である電子妖精たちだが、同胞愛は存在するようだ。

 ゴリマッチョは私からバナナを受け取ると、キリンマンの性能アップ作業に入った。

 一日かかると言われたので、その日はビタール族長の屋敷に泊めてもらい、翌日外に出ると、すでに移動都市にはドームが展開していた。


「早いな」


「電子妖精の性能が上がれば、このくらいは簡単ゴリ」


「ゴリマッチョさん、感謝します」


 ゴリマッチョにお礼を言うキリンマンだが、見た目では性能アップしたかわからなかった。

 電子妖精……正確にはアバターみたいなものだが……昨日とまったく外見に変化がなかったからだ。


「いああ、これでこの移動都市も過ごしやすく、農作物や薬草の生産量も上がります。カトゥー族長たちは、我らキリンさん族の友ですよ」


 喜んでいただけてなによりだ。

 それとこの世界に限って言うと、私からすれば、人間よりも砂漠エルフの方がつき合いやすいというのもあった。

 女性の好みも共通しているからな。


「魔法薬を沢山譲っていただいて感謝します。私では作れないので」


 ミュウは魔道具は作れるのだが、魔法薬は極簡単なものしか作れないそうだ。

 となると、万が一に備えて魔法薬の備蓄は必要だ。

 この仕事を引き受けてよかった。


「ところで、魔法薬はもっと必要ではないですか?」


「あれば欲しいですけど、そちらの備蓄は大丈夫ですか?」


「ご心配なく。我らは交易の民。外のものが欲しい時には代価がなければ買えません。それに備えているのですよ。ですから、果物や果実酒が沢山欲しいのです」


「そうですか……」


 それにしても砂漠エルフとは、本当に果物が好きなのだなと、私は実感してしまうのであった。

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