第49話 珍しく怒ることもある
「ゴリさん」
「ミュウ様、なにゴリ?」
こいつ、私の呼び方ははオッサンのままなのに、ミュウは様つけって……。
かなり女性贔屓のようだな。
「私たちが乗ってきた船ですけど、置いていくのは忍びないです」
「それなら、この移動都市にある船着き場に隣接する港につければいいゴリ。クレーンで持ち上げて、格納庫に収納するゴリ」
港までついているとは、さすがは移動都市だな。
あとで船を収容してもらおう。
「私たちが住む屋敷の確認をしようか?」
「それがいいゴリ。ゴリは、これから出航準備で忙しいゴリ」
ゴリマッチョは移動都市の再稼働準備で忙しいようなので、私たちはこれから住む屋敷を見に行くことにした。
屋敷は、移動都市の中心部、一番高い位置にあり、まるで小さなお城のような造りであった。
「一国一城の主になったみたいだな」
「それどころか、タロウ殿がこの移動都市の長であろう。ゴリさんタウン……名前は……まあ……」
「そのネーミング、微妙ですよね」
微妙なんだけど、変に改名するとゴリマッチョの機嫌を損ねるので、名前くらいは妥協してあげた方がいいと思う。
「ゴリさんは、その名前に深い思い入れがあるのかもしれませんからね」
フラウ、それはどうだろう?
ゴリマッチョは機械というか、AIみたいな存在だからな。
ただ単に、町の名前を変更できないように設定されているのかも。
古代人のネーミングセンスは微妙だな。
「まずは引っ越しが先だな」
「そうですね」
早速屋敷に入ってみるが、まるで掃除をしたかのように埃一つなかった。
ナノマシンの仕事なのかな?
「タロウ殿、部屋数が多いな」
多分、二十以上は部屋があると思う。
これなら、みんなに個室が行き渡るな。
「タロウさん、船の荷物を運びましょうか?」
「そうだった。船もクレーンで釣り上げてもらわないといけないのだった」
私たちは急ぎ移動都市に接岸させていた船に戻り、すでに稼働を開始した港へと向かう。
そこに船を止めると、港に設置されてクレーンが船を持ち上げ、屋根つきの格納庫に収容してくれた。
「タロウ殿、この移動都市で生活するとなると、もうこの船はいらないかもしれないな」
「ちょっとした移動には使えるから、あっても困らないと思う」
「その移動都市で、オアシスに近づくわけにいかないか」
「それもあるかな」
収容された船から、これまでに入手して使用していた生活用品を運び出し、それぞれに割り当てられた部屋へと運び込んだ。
「パソコン……あれ? これコンセントじゃねえ? 電化製品も使えるのか?」
そういえば、この移動都市は完全常温核融合でエネルギーを得ているはず。
となると、大量に発生したエネルギーにより発電もおこなわれているのか?
コンセントがあって、その形が日本とまったく同じなのは凄い。
「でも、微妙にコンセントの大きさが違うかもしれないし、その前に電圧も確かめないとパソコンが死ぬか」
あとで、ゴリマッチョに聞こうと思ったその時、私の部屋にフラウが飛び込んできた。
「タロウ様、ゴリさんが用事があるそうです」
「用事?」
自分の部屋を出て屋敷のリビングに行くと、大きなテーブルの上にゴリマッチョが浮いていた。
管理者だから、移動都市内なら自由に出現できるというわけか。
「どうかしたのか?」
「『スカルワーム』を退治してほしいゴリ」
「スカルワーム?」
「砂獣の一種です。大きなミミズですよ」
ゴリマッチョの代わりに、ミュウがスカルワームについて説明してくれた。
砂獣の一緒らしいが、私は見たことがないな。
「本来、砂漠ではなく土のある場所に出る砂獣なのです。畑を荒らすこともあるので害獣扱いですね」
なるほど。
ミミズって土を作るので益虫扱いだと思ったら、この世界のミミズは害獣扱いなのか。
逆に栄養を持っていかれるんだろうな。
砂獣なので、大き過ぎるのかも。
「この移動都市にいるのか?」
それなら、急ぎ退治しないと。
「それが、隣の廃墟になった移動都市にいるゴリ」
「えっ?」
じゃあ、別に退治する必要はないのでは?
ここを離れてしまえば、この移動都市に侵入されることもないのだから。
「スカルワームは、この移動都市を狙っているのか?」
「それはないゴリ」
「じゃあ、どうして?」
「廃墟となった移動都市と合体するためゴリ」
「それは必要なのか?」
そもそも、移動都市同士って合体できるのか?
そういう連結装置がついている?
「ゴリがそうしたいゴリ」
「お前がか?」
電子妖精のゴリマッチョが、町長にも諮らず勝手に移動都市同士の連結を目論み、そこに砂獣がいるから退治を依頼する?
いくら管理者とはいえ、勝手にそんなことをされたら困る。
下手をしたら、こちらの命にも関わるのだから。
「自分勝手にもほどがある! 契約違反だ!」
私がそんなことをされて、怒らないとでも思ったのか?
いくら管理者とはいえ、勝手に廃墟となった移動都市との合体を目論み、なにかの間違いで寝ている間に砂獣の群れにでも襲撃されたら目も当てられない。
いくら移動都市の設備が優れてても、安心して暮らせないではないか。
「ララベル、ミュウ、フラウ。ここを出よう」
「出ちゃうんですか? タロウ様」
「管理者が身勝手にもほどがある! もし寝ている間にこいつが毒ガスでも流したら、私たちは死ぬのだから」
信用できない管理者が管理する移動都市で暮らすなど、地雷の上で生活しているようなものだ。
それなら、船で暮らしていた方がマシだ。
「そんなゴリ」
「私は、この移動都市は動き出すのに一週間かかると聞いた。それは、この移動都市が単独で再稼働するのにかかる時間のはず。私たちの誰も、隣の廃墟と化した移動都市を動かすとは聞いていないからな。嘘をつかれたのだから、もうここにはいられない」
「この移動都市にいれば便利ゴリ」
「便利でも、信じられない奴が管理するところより、不便でも自分たちで暮らした方がマシだ」
補給はしてやったんだ。
私たちがいなくても動けるのだから、あとは別の町長なり管理者を探せばいい。
「ララベルは私の考えに反対か?」
「いや、勝手に隣の廃墟移動都市を吸収しようとし、砂獣がいるから私たちに倒せという。信用ならないな」
「そうですね。事前に相談でも受けていれば別でしたけど。これ以降も勝手になにかを目論まれ、私たちが命を落とすこともあるとなれば」
「そういうことだ。これで手切れだ」
私たちは、この移動都市からの撤収を決めた。
「待つゴリ」
「他の人を探してくれ」
私たちは、バート王国の王様にその存在を知られると不都合が出てしまう。
これ以上のリスクは必要ない。
「砂漠エルフにもでも拾ってもらうんだな」
「オッサンでないと困るゴリ!」
「お前は困っても、私たちは困らない」
「そんなゴリ……」
いくら落ち込まれても、後悔先に立たずだな。
廃墟移動都市の吸収とやらは、自分だけでやればいい。
「あのぅ、ゴリさん」
「なにゴリ? フラウちゃん」
「どうして廃墟になった移動都市なんて吸収しようとしたんですか? 今は動かないゴミじゃないですか」
確かにもう動かない移動都市なんて、悪い言い方をすれば廃墟、よくて古代遺跡がいいところだ。
そこまで価値があるとは思えない。
「……新旧の差があっても、移動都市たちは同じ電子妖精で動く仲間ゴリ。あの廃墟と化した移動都市にも、昔はゴリと同じく電子妖精がいたゴリ。もう今は消滅したゴリが……。同胞の無念を晴らすため、電子妖精の復活は不可能でも、移動都市は合体すれば連れて行けるゴリ。だから……」
すでに消滅したであろう。
廃墟となった移動都市の電子妖精の無念を理解し、せめて移動都市だけでもということなのか?
人工的に作られた電子妖精が?
「勝手なことをしたのは謝るゴリ。お願いだから、あの廃墟と化した移動都市に巣食うスカルワームを駆除してほしいゴリ」
そう言うと、ゴリマッチョは私たちに土下座をした。
「タロウ様、可哀想な気がします」
「お前、電子妖精なのに感情があるのか?」
「感情かはわからないゴリ。でも、電子妖精は作られた時期や、型番、性能に関係なく、同じ考えを共有しているゴリ。移動都市を管理しきれず廃墟としてしまうのは、電子妖精の恥ゴリ」
その電子妖精の考えがプログラミングによる影響なのかは知らないが、少なくとも私たちに事前報告もしないで合体をしようとする要因にはなっているわけか。
「今後、二度と勝手な行動は許さない」
「わかったゴリ、今後はちゃんと報告して合体するゴリ」
「いや……そんな無秩序に移動都市を巨大化して大丈夫なのか?」
主に、管理者である電子妖精のキャパの問題で。
一つの移動都市に一体の電子妖精が配置されているってことは、一人で複数の移動都市の管理が難しいことの証明なような気がするのだ。
「大丈夫ゴリ。ゴリは最後に作られた電子妖精で、一番の高性能タイプゴリ。遠くない将来、古代文明の崩壊が避けられない頃に作られた電子妖精だから、数百の移動都市でも一人で管理できるゴリ」
つまり、私たちは当たりを引いたと見ていいのか?
見た目はゴリラだけど……。
「まあ、その辺はあとで確認すればいいか。早速、廃墟になった移動都市でスカルワームを駆除しに行こう」
「そうだな、タロウ殿。領土拡張のチャンスだ」
領土拡大ねぇ……。
そういうところは、ララベルも王族らしいというか……。
私に言わせると、生存圏の拡大かな?
「スカルワームですか……増えやすい砂獣なので、嫌われ者の筆頭ですね。神貨は得られますけど、死体は肥料にしかならないので」
土をよくせず、ただ栄養のみを奪ってしまい、死体も肥料にする以外使い道がないのか。
厄介なミミズなんだな。
「タロウ様、となるとまた船を出さないといけませんね」
「そうだな」
下手に移動都市同士をくっつけると、こちらにスカルワームたちが乗り移ってしまうかもしれない。
船で廃墟となった移動都市に上陸するしかないか。
「では、急ごう。何日かかるんだろう?」
私たちは、一度格納庫に収納した船を降ろし、すぐ傍で停止している移動都市に向かうのであった。
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