第50話 合体! 移動都市!

「うっ……これは……」


「決して気分のいい景色ではないな」


「ゴリさんの移動都市に比べて、土の割合が多いですね。だからスカルワームが繁殖しているようです。タロウさんはどう思われますか?」


「緑地、農地のエリアが広い農村型の移動都市のようだな。ゴリマッチョの移動都市は都市型というわけだ。露出している土の部分がほとんどないので、スカルワームが繁殖できる余地がほとんどない。その代わり、グレムリンに狙われたけど」


「タロウ様、ウネウネして気持ち悪いですね」




 船から廃墟と化した移動都市の上陸した私たちだが、そこはスカルワームの巣といっても過言ではなかった。

 あちこちに大小様々なスカルワームが跳梁跋扈しており、地球のミミズとは違って雨上がりくらいしか土の外に出てこないとか、そういう可愛げなところはないようだ。

 小さいものでも軽く全長二メートルはあるから、地面の下に隠れる必要がないからかもしれない。

 数は……数えるのも面倒だな。

 この移動都市は、どうやら緑地や農業生産を重視している移動都市だったようだ。

 人の気配も、死体や骨などもないので、住民たちは逃げたか、スカルワームの餌にされたか。

 廃墟となってかなりの年月が経っているので、どちらでも同じか……。

 ゴリマッチョは、この移動都市の電子妖精はすでに消滅したと言っていた。

 生きていればゴリマッチョと連絡を取り合えるので、間違いはないそうだ。

 間違いなく、スカルワームのせいでこの移動都市は滅んだのであろう。

 注意が必要だな。


「ミュウ、スカルワームってどんな攻撃をしてくるんだ?」


「主に巻き付いてきて、相手を絞め殺すんですよ」


「蛇みたいだな」


「おおむね、毒のない蛇だと思っていただければ。でも、そんなに強くはないです。サンドウォームよりも弱いですね。数の多さと繁殖力の高さが強みの砂獣です」


「じゃあ、ここでは強みを発揮できないな」


 移動都市の面積は限られている。

 スカルワームは外の砂漠では生きていけないので、他の生息地みたいに、危険だからといって他のエリアに逃げるという選択肢は採れないからだ。

 この移動都市の中で踏ん張るしかない。


「要は、増えるスピードより速く倒せばいいって寸法だ」


「スピード優先というわけだな」


「ただ、パーティの連携を重視しないと、一人で多くのスカルワームに取りつかれると危険です」


「わかりました。早く駆除を始めましょう」


 素早く作戦会議を終えた私たちはそれぞれに得物を構え、そのままスカルワームの群れに戦いを挑むのであった。




「どのくらいで駆逐できるゴリ?」


「二~三日じゃないかな?」


「早くないゴリか?」


「ちゃんと計算に基づいての予測だ」




 その日は夕方までスカルワームの駆除を続けたが、初日で八割以上は殲滅できたと思う。

 スカルワームは繁殖速度が尋常ではないそうで、ゴリマッチョは、私たちがスカルワームの駆除に五日はかかると踏んで、移動都市の再稼働を一週間後と言っていたようだ。


「ただ、あの移動都市から栄養ある土は消えるな。だから二~三日なんだ」


 スカルワーム駆除の難しさの一つに、大量に駆除したスカルワームの死体の処理という要因もあった。

 スカルワームを沢山倒したのはいいが、死体を全部回収できずに放置すると、その死体を新たな栄養に爆発的な速度で増えてしまうのだ。

 かといって、数千体ものスカルワームの死体をすべて回収するなんて不可能だ。

 ドロップする神貨以外は肥料にしかならないので、骨折りだから誰も討伐をやりたがらないという理由もある。

 結局、スカルワームの増殖速度以上で倒し続けて全滅させる。

 それしか方法がないわけだ。

 もっとも、砂漠以外の土地で繁殖するスカルワームは、駆除され続けて不利を悟ると他の土地に逃げてしまう。

 そこで再び大繁殖して舞い戻るケースがあとを絶たず。

 いくら駆除しても、スカルワームが全滅しない理由となっていた。


「その点、私たちには利点がある」


「倒したスカルワームが消えるからゴリね」


「知っていたのか? ゴリマッチョは」


「ララベル、そんなに驚くことじゃないさ。ゴリマッチョは、あの移動都市の電子妖精がすでに消滅していた事実を知っていた。つまり、あの移動都市で私たちがどう戦っているのかを把握しているわけだ」


 倒した砂獣が消えて、すべて電子マネーに変換されてしまうのをゴリマッチョに隠すのは難しい。

 だからこそ私は、彼のルール違反に激怒して移動都市を去ると言ったのだから。


「『変革者』の中では久しぶりに見た能力ゴリ」


「ゴリさん、『変革者』を知っているんですか?」


「実際に会ったのは、オッサンが初めてゴリ。そういう人種を、古代文明崩壊以降の人間が召喚しているのは知っているゴリ。彼らが召喚に使っている装置は、元々古代文明で使用されていた装置ゴリ。常温核融合のせいで水が不足していたから、別の世界からあの装置で水を召喚していたゴリ。人間を召喚できるように改良した人間は凄いゴリね。誰が改造したのかは知らないゴリが」


 常温核融合に使う水を別世界から召喚するための装置を、人間用に改良した人がいるのか。

 古代文明が崩壊したあとで装置を改良したのだ。

 ゴリマッチョが驚いていて当然か。


「話を戻すゴリが、スカルワームが消えてしまうのであれば、栄養も当然消えているわけで、繁殖も抑えられるゴリ。早く駆除が終わるゴリね」


「そういうことだ」


「楽しみゴリ」


 翌日、さらに翌日と、船で廃墟となった移動都市にスカルワーム駆除へと出かけたが、日を経るごとにスカルワームの数が減っているのが確認できた。

 栄養満点の同胞の死体がないので、最大の強みである繁殖力の高さが活用できないのであろう。

 スカルワーム自体は弱いので、三日間にてスカルワームの駆除は終わってしまった。


「終わったのはいいが、大丈夫なのか?」


「大丈夫というと?」


「これと合体して、ゴリマッチョが管理している移動都市も悪くならなければいいが……」


 余計なものを抱え込んでしまったがために、元からあるものもおかしくしてしまう。

 王族であるララベルらしい心配事かもしれない。

 あの兄を見ていると、そういう心配事も出てくるようだな。


「それは大丈夫みたい」


「そういえばタロウさん、ゴリさんから余分に物資を要求されていましたね」


「そうなのよ」


 数百リットルの水と、触媒に使う金属、レアメタル、レアアース類に、そしてバナナが二十キロ。

 さらに、ガーデニングや農業に使う土壌改良剤、肥料の類も要求された。

 全部、『ネットショッピング』で揃えたけど。


「あと四日、新しく生まれ変わった『ゴリさんタウン』にこうご期待ゴリ」


「「「「はあ……」」」」


 屋敷のある部分以外は、移動都市を一から組み直すので外に出ないでくれと言われたので、私たちは四日間をノンビリと豪華な屋敷で過ごした。

 そして四日後……。




「新しいゴリさんタウンゴリ」


 新しいとあえて強調するだけあって、移動都市は都市部と農業区画の二つを兼ね備えた大きな移動都市になっていた。

 直径は一、五キロぐらいはあるか?

 あれ?

 おかしくないか?


「二つの移動都市の質量を考えると、こんなに大きくなるのはおかしいだろう」


 縦にも横にも高さも大きくなっているので、直径が一、五倍になるわけがないのだから。

 あきらかに物資の質量が足りないのだ。


「どうなんだ? ゴリマッチョ」


「その件ゴリか? エネルギーとナノマシンの材料が豊富なら、砂漠の砂からケイ素を採取して移動都市の基部を増やすことくらい朝飯前ゴリ。ただ二つの移動都市の素材のみで組み合わせるより、計算したらこちらの方が効率がよかったゴリ」


 私は文系なのでさっぱりその計算の内訳が理解できなかったが、電子妖精がそういうのなら正しいのか?


「農業系の移動都市を取り込むに際して、新しい設備を作ったゴリ。これがあると、水の節約になるゴリ。見てみるといいゴリ」


ゴリマッチョに勧められて屋敷の外に出ると、移動都市の上部が透明なドームで覆われていた。


「特殊アクリル製の防乾ドームゴリ。砂漠では水が貴重。これがないのに移動都市に農業区画の設置なんて無謀ゴリ。水が蒸発して逃げるのを九十九・九九九九九九九九九九パーセント防げるゴリ」


 あの透明なドームは、水を蒸発させないためのものなのか。

 確かに上が開いていると、いくら水を撒いても外に蒸発してしまう。

 この世界は砂漠なので、余計に水の蒸発も早いはずだ。

 農業区画には池の跡などもあったが、空だったのは水が蒸発してしまったからであろう。

 この世界の移動都市に、ドームは必要不可欠というわけか。


「あとは、完全常温核融合炉と、水のタンクも増強したゴリ。水は常にタンク一杯にしておいた方がいいゴリ。安全保障政策上必要な処置というやつゴリ」


 常温核融合炉の触媒さえ生きていれば、あとは水があればエネルギーを作り出せるので、水のタンクは空にしない方がいいというわけか。


「わかった。ゴリマッチョのバナナは?」


 これまでは一日五キロだったから、移動都市二つ分に容積が増えた分で二十キロくらいか?


「今までどおり、五キロでいいゴリよ」


「いいのか?」


「あの二十キロは、移動都市の合体で消費有機化合物が増えたり、ゴリを動かす有機スーパーコンピューターのメモリー増設と性能アップに使ったゴリ。一度構築してしまえば、あとは維持だけだからそこまでバナナは必要ないゴリ」


 バナナというか、炭素を含んだ食べ物なんだけど。

 ゴリマッチョは、ゴリラ型の電子妖精なのでバナナを美味しく感じるように作られたんだろうなと思う。


「これから出発ゴリが、暫くは移動都市での生活を楽しむゴリ」


 移動都市の航行もゴリマッチョがやってくれるから、私たちに仕事はないわけだな。


「では、出発ゴリ!」


 廃墟となった移動都市を取り込んだ『ゴリさんタウン』は、無事未知なる砂漠の海に向かって航行を開始するのであった。


 さて、これからどうなるやら。

 あと、できれば『ゴリさんタウン』を改名したいところではある。

 ゴリマッチョが変に拘るので、難しいとは思うけど。

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