第47話 移動都市
「あれ? 目印の移動都市の廃墟が二つありますよ。一つだって聞いていたんですけど……」
「ミュウ、もう一つの方は廃墟に見えないぞ」
「そう言われてみるとそうですね。妙に新しいというか……ちゃんと維持されていた?」
「人の手が入っているように見えますね」
大流砂が収まったということで、待機していた岩山地帯を出発した私たちであったが、地図に記載された目印代わりとなっている移動都市の廃墟を確認したまではよかったが、その隣にまだ稼働しているようにしか見えない移動都市の存在を確認してしまった。
「移動都市って、多脚構造なんだ」
隣の移動都市は、なにかの理由で上層部分の都市を支える脚の部分が見えていない状態だったので、直径一キロ程の都市がどうやって砂漠を移動していたのか、とても気になっていたのだ。
生きているように見える移動都市の下部に、昆虫の脚に似た人工のアームが数百本も生えているのが見え、これが歩いて移動都市を動かしているようだ。
「でも、どうしてここに?」
地図によれば、ここには廃墟と化した移動都市の残骸が一つあるだけのはず。
これが航行する船のいい道しるべとなっているのだが、もう一つは短期間でここに移動してきた可能性が高かった。
前からあったら地図に記載されるか、少なくとも船乗りたちの間で噂になっているはずなのだから。
「タロウさん、あの移動都市は砂獣に襲われているようですね」
「本当だ」
移動都市の方に目を凝らすと、数百匹ほどの異形な生物が飛行しながら、移動都市に襲いかかっていた。
「アレは?」
「『グレムリン』ですね。高度が高い岩山の頂上付近や、廃墟になった移動都市などに出る砂獣です」
確か地球だと、機械に悪さをする妖精であり、ノームやゴブリンの遠い親戚だと聞いたことがある。
第二次大戦中に軍用機を不調にし、パイロットたちを悩ませたとか。
空想の生物だろうが、この世界だと移動都市のような古代文明の遺産に襲いかかるわけだ。
「タロウさん、どうしますか? このまま放置しても構わないと思いますけど」
グレムリンを撃退し、生きているように見える移動都市を救ったとして、私たちに利があるとは思えないというわけか。
あれだけの巨大な移動都市なので、もし手に入れてもこの人数では動かせないかもしれないというのもある。
「グレムリンでも、倒せばイードルクにはなる。あの移動都市に、なにか面白いお宝があるかもしれない」
「遺跡探索、お宝探し。楽しそうですね」
「では、グレムリンたちを狩るとしようか」
ララベルが剣を抜き、私たちは移動都市に接近を開始した。
すると、私たちの船を見つけたグレムリンの多くがこちらに襲いかかってくる。
なるほど。
移動都市にのみに拘る砂獣というわけでもないのか。
などと思っていたら、ミュウの『氷弾』と、フラウの矢を受けて次々とグレムリンは消滅していく。
「一体二十万ドルクですね」
外の砂獣で、あまり強くもないからこんなものか。
「柔いな」
数が多いグレムリンであったが、私たちの船に接近できた多くの個体も、船の舳先に立ったララベルの華麗な剣技によって、次々と斬り捨てられていく。
「強くはないんだな」
さすがにレベル三百超えなので、私でもかなりスムーズに倒せた。
槍を使って、ララベルほどではないけど次々にグレムリンを屠っていく。
暫く戦うと、大分グレムリンの数が減ったようだ。
「タロウ殿、移動都市に上陸しよう」
「では、念のため私が船に残ります」
ミュウを留守番として、私たちはいまだ百匹ほどのグレムリンが取り付いた移動都市に接岸、上陸を果たし、残りのグレムリンを掃討する作戦を開始した。
「フラウ! 大丈夫か?」
「ララベル様、大丈夫です」
フラウは、私とララベルの後ろで矢を放ち続け、ララベルは自ら先頭に立ってグレムリンを挑発し、自分に襲いかかったグレムリンを斬り捨てていく。
グレムリンは飛行する砂獣だが、砂怪鳥と違って人間を見ると、地面近くまで降りて攻撃してくる。
ララベルの剣は大活躍していた。
相変わらず、惚れ惚れするほどの強さだ。
私は……珍しくほどほどに活躍していた。
「ララベル、グレムリンたちの主力は、あそこの扉をこじ開けようとしているようだな」
移動都市の中心部に、多分この移動都市をコントロールする部屋があり、その扉だと思うのだが、数十匹のグレムリンが扉を強引にこじ開けようとしていた。
「グエッ!」
「「「「「グエグエ!」」」」」
「なにか合意に至ったようだな」
どうせろくな内容ではないと思うけど……。
「タロウ殿、邪魔するお前らは殺すだと思うぞ」
「やっぱり?」
グレムリンたちは扉をこじ開ける手を止め、先に邪魔な私たちを始末しようと襲いかかってきた。
「フラウは、私の後ろに」
「はい」
一応格好つけてみたが、フラウは次々と矢を放ってグレムリンを倒していた。
「せめてもう一桁多く仲間を用意するべきだったな。やはり柔いな」
大半のグレムリンは、ララベルの踊るような剣技で次々と倒されていき、イードルクに換算されていく。
明日の私たちの胃と心を満足させる品の原資だな。
私も槍を振るって十数匹を倒したが、間違いなく私がいなくてもララベル一人で余裕だったと思う。
「これで終わりか?」
「なにも言わずとも、ミュウが魔法で探っているはずだ」
ここは遮蔽物が多い移動都市なので、不意を突かれると怖い。
私たちは警戒を続けながら、ミュウがここまで来るのを待った。
「お待たせしました。よほど私たちと、このこじ開けられなかった扉に未練があったんですね」
「移動都市の中枢、動力源だからか?」
なにしろグレムリンなので、機械に興味があったとか?
でも、私は古代文明の遺産である移動都市がどうやって動いているのか知らないんだよな。
「砂漠エルフは運用しているって聞いたけど」
「人間で移動都市を再稼働できた者はいないそうです。もっとも、バート王国ですら自称自領のすべてを把握しているわけではありません。ゼロとは言い切れませんが、砂漠エルフたちが多くの移動都市を再稼働させ、生活の拠点にしているのは事実です」
砂漠エルフにできて、人間にはできないなにかが、移動都市を再稼働させるポイントというわけか。
「再稼働云々はともかくとして、この扉の中になにがあるのか興味ありますね」
「そうだな」
単純な知的好奇心ってやつだ。
おっさんになっても、そういう心を失いたくないと思う。
「だが、開くのか?」
「数十匹のグレムリンが攻撃してもビクともしませんしね」
「鍵とかはないよね?」
数十匹のグレムリンに襲われたにもかかわらず、傷一つついていない扉。
なるほど。
古代文明とは高度な技術を有していたのだな。
「ララベル様の怪力で開けますか?」
「ミュウ、さすがの私でもそれは無理……」
などと話していたら、突然扉がなんの前触れもなく開いてしまった。
「タロウさん、罠ですかね?」
「いや、それはないだろう」
わざわざ扉を開けて私たちを誘い込まなくても、扉を開けなければこの移動都市の中心部は安全だ。
奥に誘い込むメリットがないのだ。
「なにか用事かもしれない。話を聞いてみよう」
「えっ? 移動都市の動力源がですか?」
「もしかしたら、この移動都市は私やミュウが思っているような仕掛けで動いていないかもしれない。入ってみよう」
「そうだな。中に入ってみなければなにもわからん。極力注意するので、入ってみよう」
私たちは突然開いてしまった扉から、移動都市の中心部、動力源の探索を開始するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます