第45話 短かかったダンジョン生活
「合計で、六十万ドルクですね。ご確認ください」
「デカデンジ君なのに?」
「デカデンジ君だからと言いましょうか……デンジ君の残骸には確かに使える金属もあるんですけど、取り出すのも面倒ですし、それほど高くはないのが実情です。ハンターにも人気がないので……」
「だと思った。結局私たち以外、誰も来なかったし」
夕方、私たちは苦労して分解、運搬したデカデンジ君の残骸をハンター協会に売却した。
その金額は、わずか六十万ドルク。
元々大昔の廃家電などに似た粗大ゴミなので、一部金属くらいしか価値がない。
それも、取り出すのに手間とコストがかかるので、あの大きさにしてはかなり買い取り額が安かった。
どおりで、私たち以外誰もあのダンジョンに入って来なかったはずだ。
死んだ女性ハンターたちは、勝負に都合がいいと思って指定したんだろうが、私たちとアドルフたちは骨折りだったわけだ。
討伐報酬自体が巨額だったので、まったく問題なかったけど。
「あっ、ターローさんではないですか」
ハンター協会を出ると、そこでアドルフたちに声をかけられた。
すぐに合流するが、途端に周囲のハンターたちから非難めいた視線を送られてしまう。
「私たちのために申し訳ない……」
「いえ(そんなにあいつらって、もの凄い美人なのか?)」
あのバカ女性ハンターたちの愚かな結末は、同じパーティメンバーであったアドルフたちが説明したので、ハンター協会もなにも言わなかった。
というか、元々ハンターなのでダンジョンに入れば生きるも死ぬも自己責任の世界なので、彼女たちの死に責任があるわけででもない。
ところが、女性ハンターたちが類まれなる美貌を持っていたことから……何度も言うようだけど、私からすれば彼女たちはまるで真逆に見えたけど……話がややこしくなった。
彼女とお知り合いになりたかった、同じパーティで活動したかった、できればおつき合い、結婚したかった。
と、思っていたハンターたちが、彼女を死なせてしまったアドルフたち及び私たちの責任は大きいと思っているのだ。
彼女たちは肌の美しさを保ち、加齢を抑えるため、レベリングのみ要求して砂獣は一体も倒したことがなく、それでも報酬は均等割りで、さらにアドルフたちに様々なものを強請っていたにしても、彼女たちは表向きは猫を被っていたので、その本性を知らない者も多かった。
彼らからすれば、オールドタウンのマドンナに等しい女性ハンターたちを死に追いやったアドルフたちも、彼女たちが死に至った原因である勝負の相手である私たちも非難すべき対象なのだ。
悪いことに、ララベルたちはドブス扱いだからなぁ……。
「ダンジョンに向かうハンターは、生きて一獲千金を得るも、失敗して死ぬも自己責任なのだがな」
ララベルの言い分は正しいのだが、残念ながら人間は全員が賢いわけではない。
フードを深くかぶったドブスの分際で、美しい彼女たちを死に追いやったことに責任を感じないのか?
いや、もしかしたら美しい彼女たちへの嫉妬から、謀略で暗殺したかもしれないなど。
おかしな陰謀論まで出る始末であった。
「私たちは、もうオールドタウンにいられません」
私たちよりも、独占していた美しい女性ハンターたちを死なせてしまったアドルフたちへの非難も多いそうで、彼らはもうオールドタウンにいられないと、明日には町を出ていく予定だそうだ。
「私たちは、ご覧のとおり平凡な容姿です。だから、どうにか女性にモテようとハンターとして強くなりました……」
彼らは上級ハンターの並といった実力だが、元々上級ハンターと評価されることこそ至難の業なのだ。
それだけ懸命に努力したということだ。
「だから、彼女たちに声をかけられて嬉しかったんです。いつか、彼女たちと結婚できるかもと……」
どうせ彼女たちと結婚したら、家庭に入ってもらわなくてはいけない。
そう考えたアドルフたちは、戦わないハンターである彼女たちを甘やかしてしまった。
元々性格も悪かったのであろう。
彼女たちは、それでますます図に乗ってしまった。
そんな連中、追い出せばいいと思う人も多いだろうが、それができないのも恋というやつである。
もしすべての恋愛が正しければ、破綻するケースなど存在しないのだから。
そして、そんな事情を察しないハンターたちが、アドルフたちや私たちに批判めいた視線を向けるわけだ。
「ここを出て、どこに行くのですか?」
「シップタウンに向かいます。あそこなら、ハンターの仕事はいくらでもありますから」
「そうですか……」
「迷惑をおかけしました」
アドルフたちは私たちに謝ってから、自分たちの宿へと引き返してしまった、
明日の朝、船便でシップタウンへと向かうそうだ。
「タロウ様」
「なんともやりにくい状況になったなぁ……」
美人ハンター三名の死に関わる、オッサンとドブス三名のパーティ。
ろくに真相も調べず、私たちに敵意すら向ける男性ハンターたちの多いこと。
彼らが彼女たちの実情を知ったら……死んでしまった以上無理か。
「タロウさん、この町を出ましょうか?」
「さらに南西に行けば、砂獣はもっと強くなると聞く。ダンジョン探索にそれほど利はないと思う」
私たちの場合、倒した砂獣が消えてしまうという点も悪い。
『ネットショッピング』の存在を知られると、私たちを利用する輩が出てくるかもしれないというのもあった。
「私たちも、明日ここを出るか……」
「私はタロウ殿の意見に賛成だ。なにより夫の意見だからな」
「私もその意見に賛成です。別にオールドタウンに魅力なんてないですよ」
「私は、タロウ様についていきます」
三人の賛成も得られたので、私たちも明日オールドタウンを出ていくことになった。
長かったのか、短かったのか。
よくわからないダンジョン探索生活だったな。
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