第43話 巨大デンジ君
「ちょっと! このままだと負けるわよ!」
「全然討伐数が違うじゃない!」
「アドルフたちって無能じゃないの!」
気に食わないブスたちに土下座をさせて楽しもうとしたのに、始まった勝負は私たちのパーティが圧倒的に不利だった。
積まれたデンジ君の残骸を見れば、勝負の行方はあきらかだ。
このままだと、私たちが土下座をする羽目になってしまう。
あのドブスたちに、この美しい私たちが土下座?
絶対にあり得ないから!
「どうする? 討伐を手助けする?」
「そんなことできないわよ!」
もし手に傷でもついたらどうするのよ?
私たちの最大の武器は、この美しさ。
だから、後ろで見ているだけでアドルフたちがみんなやってくれるの。
下手に戦闘に参加して、跡が残る怪我でもしたらどうするのよ。
「私たち、レベルは結構高いけど、戦闘経験皆無だものね」
それもあるわ。
私たちの美しさは、貴族でも一目置くくらい。
それを失うリスクのある戦闘はせず、レベルアップの恩恵のみを受けることが大切なわけ。
レベルアップすれば、怪我や病気をしにくくなり、もしなっても完治が早くなる。
日焼けもしないで済むし、肌の張りもよくなってシミやシワも出にくくなるわ。
決して、戦闘のためのレベルアップじゃないのよ。
「そうだわ!」
「なにかいいアイデアでも思いついたの?」
「簡単なことよ」
二つのパーティが討伐したデンジ君は、ダンジョンの入り口に積まれている。
あのオッサンは、たまにしか討伐した残骸を置きに来ないし、アドルフたちも同じよ。
私たち以外誰も見ていないのだから、オッサンたちが獲得したデンジ君の残骸を、私たちのパーティの方に引き寄せれば。
「さすがにセコくないかしら?」
「じゃあ、このまま負けてあのドブスたちに土下座する?」
これまで散々バカにした、しかもドブスたちによ。
私は、プライドが許せないわ。
「バレないわけないと思うけど……」
「押し切ればいいのよ」
どうせ、難儀を背負い込むのはアドルフたちよ。
騒ぎのドサクサに紛れて、私たちは姿を消せばいいじゃない。
実にいいアイデアね。
「それに、もしこの件が大騒ぎになったとしてよ。みんなは、私たちとドブスたち。どっちの言うことを信じると思う?」
「それは私たちね」
「でしょうね。ドブスの言い分なんてみんな信じないわよ」
人は見た目がすべてよ。
勝負の結果を誤魔化したのはドブスたちだって騒げば、大半の人は私たちを信じるに決まっている。
だって、あいつらはドブスで、私たちはとても美しいのだから。
あいつらは、居た堪れなくなってオールドタウンを出ていくはず。
「あいつらを追い出してしまえば問題なしよ」
「それもそうね」
「手が汚れるし、傷がつくかもしれないけど」
「その時は、アドルフたちに高価な傷薬でも貢がせればいいわ」
そのための、アドルフたちなのだから。
彼らはブ男ばかりだけど、まあハンターとしては強いから、一緒に行動してあげている。
いまだ手すら握らせていないけど、こんな美女たちと一緒にパーティを組めるのだから、光栄に思わないと。
文句があるのなら、別にいいわ。
他に、私たちと同じパーティになりたい男性ハンターたちはいくらだっているんだから。
「とにかく、私たちのパーティの方に残骸を集めてしまえばいいのよ」
「そうね……重たいわね」
「ねえ、これって死んでるんだよね?」
「当たり前じゃない」
「いきなり怖いことを言い出さないでよ」
「でもさ、私たちの残骸の山が、今少し動いたような」
「気のせいよ。アドルフたちが、デンジ君相手にしくじるわけないでしょうが」
「それもそうね」
なにを動揺しているんだか。
早く私たちの残骸を高く積み上げて、この勝負は私たちの勝利だと偽装しなきゃね。
そして、あのドブスたちに土下座させてやるのよ。
いちいち反論してきて。
あのオッサンも、必ず土下座させてやるわ。
「ねえ、やっぱり動いているわよ」
「はあ? どうせ風でも吹いていたんでしょう」
「ダンジョンの中で? あり得ないでしょう」
「じゃあ気のせいよ。ちょっと小細工するくらいで怯えて。バカじゃないの?」
念のため、積み上げた残骸を確認してみたけど、別に動いていないじゃないの。
この程度のことで動揺して、私たちはレベルの高いんだから大丈夫よ。
「ねえ! 後ろ!」
「はあ? もういい加減に……」
もう一度振り返って残骸を見たら、なぜかすべての残骸が大きな塊となっており、さらに太い手足も生えていた。
まさにデンジ君の巨大化といった感じだ。
「デンジ君って、こんなに大きな塊になるの?」
「知らないわよ」
「逃げないと! ぎゃぁーーー!」
今、私たちの目の前で、仲間が一人デンジ君の巨大な足で踏みつぶされた。
完全にペシャンコにされ、地面には大きな血の跡が……。
「あんたがズルしようとするから! ぎゃぁーーー!」
続けてもう一人が、巨大なデンジ君の足で踏み潰される。
あそこまでペシャンコにされてしまったら、まず生きてはいないだろう。
「私はそう簡単にいかないわよ。だって、レベル百五十二だし」
こういう時のためにレベリングをしておいて正解だった。
いくら巨大化しても所詮はデンジ君。
レベルが高い私を踏み潰すなんて不可能なはず。
「やれるものならやってみなさい。私は……えっ?」
気がついたら、私はすでに巨大なデンジ君の足で踏まれていた。
体中が……まったく痛くない。
自分でもわかるほど体が潰れていて、血が大量に出ているのに……。
「私、死ぬの?」
考えられたのは、そこまでだった。
次の瞬間、私はさらにデンジ君の巨大な足によって踏み潰され、永遠に意識を失ってしまうのであった。
次も、美人に生まれてきたいものね。
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