第42話 デンジ君

「ダンジョンナンバー七百五十三。ここは、『デンジ君』の巣だ」


「デンジ君?」


「大昔の発掘品に寄生する砂獣でな。形も大きさもバラバラ。倒すと、神貨の他に残骸から金属類が手に入る。古代文明時代の金属なので、分別して鋳溶かすだけで高品質の金属が手に入るから需要は大きいそうだ」


「なるほど。砂獣でも死体じゃなくて残骸なのか」


「どっちなのか、たまに学者たちが結論の出ない議論をしていますけどね」


「どっちでもよくなってきた」


「みんな、タロウさんと同じ風に思ってますよ」


「タロウ様、狩りを始めましょう」




 自称美人ハンターたちのパーティと、私たちのパーティは砂獣狩りで勝負することになった。

 その理由は非常にバカらしく……そういえば、昔に会社の尊敬できる上司が言っていたな。

 『人間とは、自分が予想もつかないほど優れた人もいるが、またその逆もいる。これまでどうやって生きてきたんだ? というレベルの奴が本当にいるんだ。だから自分は、真ん中くらいにいれば上出来だと思えばいい』。

 そんなことを言っていたが、自称美人ハンターたちは予想もつかないバカだったということか……。

 なるほど。

 あの人の言っていたことは正しかったんだな。

 バカの底の底を見たような気がする。


「ちょっと! 私たちをずっと見つめてなんなのよ?」


「嫌らしい!」


「あんたみたいなオッサン、私たちが相手にするわけないでしょう!」


「(思いっ切りグーパンしたいなぁ……)」


 今は、勝負に集中するとしようか。

 あんな連中に土下座なんてしたくないし。

 でも、勝負で負けた方が勝った方に土下座するだけなんだよなぁ……。

 それにどんな意味が……彼女たちが満足するだけだろうけど……生産性もないことで寄生している男性ハンターたちを働かせ、生産性もクソもないという。

 本物のバカって凄いと思う。


「獲得した神貨の合計金額と、倒したデンジ君の素材の売却評価額で勝負を決めよう」


「私たちはそれでいいですけど」


「それでは、勝負開始だ!」


 男性ハンターたちのリーダーが合図をすると同時に、私たちは二つに分けれて砂獣退治を開始した。


「デンジ君って、名前が凄いな」


「大昔の遺物に寄生する砂獣なのですよ」


「スカルヤドカリとなにが違うの?」


「基本的には変わらないですね。大きさくらいでしょうか? あとは、本体がヤドカリではなく、寄生というよりも融合してしまっているんです」


 そのため、本体をある程度破壊しないと活動を停止しない。

 スカルヤドカリみたいに、狙える明確な弱点、本体はないということだ。

 そして、デンジ君という名前の由来は……。


「テレビに、手足が生えて動いている……」


 スカルヤドカリのように大きな遺物の中に籠っているわけではなく、遺物そのものが本体というわけか。

 古代文明にテレビがあったんだな。


「なので、簡単に倒せます」


 そう言いながら、ミュウが氷弾をテレビのディスプレイに貫通させると、デンジ君は活動を停止してしまう。

 その直後、活動停止をしたデンジ君の近くに革袋に入った神貨が落ちてきた。


「一万ドルクねぇ……安いのかな?」


「デンジ君は初級の上くらいの強さですよ。倒したあとの本体がどれだけ高く買い取ってもらえるかが重要ですからね」


 すべては、融合した遺物次第というわけか。

 高価な金属を多く回収できる遺物に融合していれば、それだけお金になるというわけだ。


「でも、どうしてこんなに弱い砂獣が勝負の対象なんだ?」


 ララベルたちは言うまでもなく、勝負を挑んできたパーティの男性ハンターたちは上位に属する連中だ。

 デンジ君なんて、弱い砂獣を相手にしなくてもいいはずなのに。

 効率を考えたら勿体ないだろう。


「あの女たちがいるからだろう。タロウ殿、あいつらが戦うと思うか?」


「あそこまでレベリングしていて、討伐に参加しないのか?」


「優秀な男性ハンターたちに寄生行為を行い、いわゆる姫プレイと呼ばれていることをしている女たちは、わざわざ自分で砂獣など倒さないさ」


「怪我でもして、自慢の美しい顔に傷が付いたら大変ですからね」


 その美貌を利用し、ただ強い男性パーティに寄生してレベルを上げてもらい、戦闘をすると傷つくかもしれないので、一切戦闘行為には参加しない。

 顔や肌に傷がついたら、美貌しか取り柄がない彼女たちのアドバンテージがなくなるから、間違った選択肢ではないのか……。

 寄生されている男性ハンターたちは、女性ハンターたちになにかあると困るので、守りやすい弱い砂獣の討伐しか行わない。

 それでいて、討伐報酬は頭割り。

 さらに男性ハンターたちは彼女たちの気を引こうと、高価な食事だの、プレゼントだのに大金を使うそうだ。


「これは、聞きしに勝るだな……」


 男性にチヤホヤされる美女たちだからこそ許された特権か……。

 私からすれば、摩訶不思議な印象しか受けないのだが……。

 どうしても本能で、『よくあんなドブスたちの我儘を聞くな』と思ってしまうからだ。


「当然、逆もいますけどね」


 美男子たちに寄生される女性ハンターたちもいるというわけか……。

 男も女も、色々と大変だなぁ……。


「今日に限っては、私も似たようなものか……」


 なにしろ、私及び私のパーティに所属している状態で砂獣を倒すと、消えて電子マネーに変換されてしまうので、今日はララベルたちはパーティから外れて砂獣を討伐していたからだ。

 私が倒すと砂獣が消えてしまうので、今日は後ろで見ているだけ。

 あまり彼女たちと変わらないかもしれないな。


「タロウ様は、あいつらとは違います!」


「そう言ってもらえると嬉しいな」


 フラウは優しい子だな。


「しょうもないことに巻き込まれてしまったからこそ、一日で終わらせないとな」


「一杯倒さないとですね。でも、運搬が面倒ですね……」


 あの連中に、『異次元倉庫』と電子マネー変換を悟られるわけにいかないので、今日は倒した砂獣をダンジョンの外に運び出す羽目になっていた。

 これだけでも、私たちは大いに迷惑しているのだ。


「私が運ぶよ」


 一番の暇人だし、レベルに比して戦闘力が低いとはいえ、一人でもデンジ君には負けないので、私がララベルたちが倒した砂獣の死体? 残骸? を運び出すことになった。

 リアカーを『ネットショッピング』で購入してあったので、これにデンジ君の残骸を載せてダンジョンの入り口近くに運び出していく。


「見て見て、ひ弱なオッサンが荷運びをしているわよ」


「汗臭ぁーーーい」


「あの程度の顔でも、ドブスたちは喜んで働くのね」


 入り口に向かう途中で、男性ハンターたちのみに戦わせて、ただ見ているだけの自称美少女ハンターたちがいた。

 まさか、本当になにもしないとはな。

 美人だから、みんながチヤホヤしてくれるのか……。

 この世界の美人には、いつまで経っても慣れないな。

 性格も悪いから余計にだ。


「……あんたらは戦わないのか?」


「それこそが、ブサイクの発想よね」


「そうね。私たちは美しいから、命じればみんな喜んで働くのよ」


「私たちのような美しい女性に奉仕することこそが、男性の喜びなんですもの」


 と、なんかイボイノシシみたいなのがブヒブヒ言ってるな。

 この世界では事実というか、実際に奉仕している男性ハンターたちがいるから否定はしないけどね。

 私は、死んでもゴメンだけど。


「……」


 これ以上彼女たちを相手にしていると、私の中の常識がおかしくなりそうなので、彼女たちは無視することにした。


「頑張って働きなさい、オッサンは」


「どうせアドルフたちが、私たちに勝利をプレゼントしてくれるわよ」


「そうしたら、オッサンも含めてドブスたちの土下座を見られるわね」


 一応、討伐したデンジ君の総評価額が少ない方が土下座をする約束をしたはさっき説明したとおりだが、彼女たちには見えているのかな?

 あきらかに、ララベルたちの方が沢山デンジ君を倒していることを。

 最初、男性ハンターたちはララベルとミュウを見て怯えていた。

 彼らは上級ハンターで強いが、そんな彼らですら勝てないと怯えたのがララベルたちなのだ。

 その辺を理解……できていたら、こんなことにならないか……。


「(顔だけで、きっとバカなんだろうな)」


 しかも、これまで多くの男性たちにチヤホヤされてきたので、完全に調子に乗っているのであろう。

 この手のバカたちはいつか自滅するので、明日以降は関わらないのが吉というわけだ。


「なんだ。圧勝じゃないか」


 ダンジョンの入り口付近に両パーティが倒したデンジ君の残骸が置かれているが、その量はララベルたちの方が圧倒的に多かった。

 最初からするだけ無駄な勝負だったな。


「問題は、あの連中が本当に土下座をするのかだな」


 まあ、それも夕方になればわかるか。

 今日の私は、リアカーでデンジ君の残骸を運び続ければいい。

 レベルアップの影響か、ほとんど疲れないのが素晴らしいな。


「自分のパーティがピンチなんだから、ちょっとは手助けすればいいのに……」


 ララベルたちが、あんなに性格が悪くなくてよかったな。

 私はそう思いながら、リアカーを引き続けるのであった。

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