第36話 イケニエ騒動の顛末

「離してください! 私がイケニエになれば、問題はすべて解決するんです!」


「お嬢さん、あたら若い命を散らせることはないですよ」


「だって、私には生きている価値がないのですから! 両親もすでに亡く、容姿が醜い私は『お前を嫁に貰う男なんているものか。家畜の豚の嫁が相応しい。いや、豚は貴重な家畜。お前はないわw』などとバカにされて生きていくのはもう嫌なんです! 私はあの世の両親の許に行くのです!」


「……」




 私の予想どおりであった。

 大アリジゴク討伐に備えて準備があると現場に残り、住民が誰もいなくなったので予定よりも早く討伐……討伐自体は、ララベルがフルパワーで予備の剣を巣の上から投げつけるのと、ミュウが巨大な氷の塊を落とすだけ。大アリジゴクなど、強いハンターから見れば大した砂獣でもないのだ……を開始しようとしたところ、巣の近くに潜んでいたフラウという少女が巣に飛び込もうとしたので、私が慌てて止めた次第だ。


「いくら普段ドブスだとバカにされていても、イケニエになればみんなも……」


「いやあ、敬意は払われないと思いますよ」


 ミュウが、望まれてもいないのにイケニエになったところで、リトルウォーターヴィレッジの住民たちはフラウという少女の献身に感謝などしないと断言した。

 自分も容姿のことで散々言われていたのもあって、この世の真理を悟ってしまったのであろう。


「美人がイケニエになれば、まあ絵にはなるし、悲劇性もあるので後世まで言い伝えられることもあるでしょうが、私たちのようなドブスがイケニエになっても、三日もすれば忘れられるでしょうね」


 イケニエは、美しい人が命を散らすから印象に残る。

 ブスがイケニエになっても、すぐに人々の記憶から消えてしまうであろうとミュウは断言した。


「むしろ、今飛び込むと批判されるかも」


「どうしてですか?」


「イケニエって、元々無意味なので……」


「そうなんですか?」


 大アリジゴクにイケニエを捧げたところで、羽化しなければいなくならない。

 ミュウによれば、この大アリジゴクが羽化するまでで最低でも三ヵ月くらいはかかるそうだ。

 フラウという少女がイケニエになってから三ヵ月も大アリジゴクがそのままだとしたら、住民たちは『ほれ見たことか。やはりドブスなフラウをイケニエにするのはよくないのだ』と言うのが明白であろう。


「大アリジゴクは、巣を確認できてから三ヵ月~半年くらいで羽化していなくなります。羽化に必要な栄養が得られればいなくなるので、イケニエはほとんど関係ないですね。人間一人分の栄養なんて、大アリジゴクの大きさから考えれば大した量でもないですし。大した影響はないです」


 リトルウォーターヴィレッジの住民たちが、大アリジゴクに対しイケニエが有効だと勘違いしているのは、このオアシスの閉鎖性と、大アリジゴク自体が実はそれほど数が多くない砂獣だからだ。


 羽化した大カゲロウは一年ほどしか生きられず、産んだ卵は他の砂獣の餌になりやすい。

 それを避けるために砂獣がいない場所に産卵すると、今度は乾燥のせいでなかなか羽化できない。

 誕生しても、巣を作れないで他の砂獣の餌になってしまう個体も多い。

 言うほど、大アリジゴクも強者というわけではないのだ。

 滅多に出現しないので、対処の知識と経験が蓄積されないから、とりあえず昔からイケニエと言っているから実行しているだけ。

 それが本当に効果的なのか、村人たちは冷静に判断できていなかった。


「美人をイケニエにして一ヵ月後に羽化していなくなれば『わずか一ヵ月で! イケニエは効果的だな』と思い、ドブスをイケニエにして一ヵ月後に羽化していなくなれば『一ヵ月もかかって! だからドブスをイケニエにするのは駄目なんだ!』となるのが人間の心情です。悲しいですけど」


「私がイケニエになっても無意味ですか……でも、私にはもうこれしか道がないんです! 毎日一人でドブスだとバカにされながら生きるのは嫌です!」


「「……」」


「フラウだったよね? 君はいくつなのかな?」


「十二歳です」


「ご両親はいつ?」


「父は生まれてすぐに、母は二年前に病で亡くなりました」


 この子は、物心つく頃から母子家庭で、二年前に唯一の肉親である母親を亡くして一人だったのか。

 それでも、あのセーラみたいに美しいのなら……相変わらず違和感があるなぁ……チヤホヤもされるのであろうが、この世界の基準だとフラウはドブスという扱いである。


 さらに、ここは狭いオアシスだ。

 一人で毎日辛かったのであろう。

 イケニエに志願したのも、リトルウォーターヴィレッジのためというよりも、半ば自殺願望だったのだと思われる。


「生きていると辛いので、イケニエになった方が楽かなって……」


 リトルウォーターヴィレッジは狭いオアシスだ。

 住民たちの考えは閉鎖的となり、一人の少女をドブスだとバカにして、住民たちの和を保つなどという酷いことを平気で行なってしまう土壌もあった。

 酷い話だが、こういうことは日本の過疎の村や小さな会社、組織などでもよくある話なのだ。


 一人をイケニエにして、他の住民の和を保つ。

 バート王国の王様にしたって、ララベルとミュウを貴族たちにバカにさせ、自分への不満を外に逸らそうとした。

 逆に、砂獣討伐で貢献している二人に対し狭量だと、現場のハンターや叩き上げの軍人たちからは批判されていたが、あの王様は大貴族を嫌いなくせに、貴族ばかりに気をかける人なので気がついていなかったけど。


「フラウ、死んでもなにも変わらないよ」


「でも、私はここにいても……」


「なら、外の世界に出ればいい。君はここに未練があるのか?」


「いいえ。ないです」


「ちょうど我々は、食事、洗濯などの雑用を行う人員を募集している。フラウがもっと大きくなったら、適性によってはハンターになっても構わないけど。船で商売もしているので、そちらを手伝ってもいい」


 あまりにも可哀想で、私はララベルとミュウに相談することなく、フラウを仲間に誘ってしまった。

 勝手に言ってしまったので、申し訳ないと思いながら二人を見たら、笑顔を浮かべながら了承してくれたのでよかった。


「(ちょっと、このまま置いていくと罪悪感がある)」


「(そうだな。私にはミュウがいたし、ハンターとしての適性があったので、外で砂獣を討伐していれば周囲からの罵詈雑言にも耐えられた。この子は一人で、誰も彼女を助けてくれないからな)」


「(私たちはタロウさんに救われました。これから、フラウさんみたいな人全員を救えるわけがないですが、ここで彼女と知り合ったのも運命でしょう。彼女には運があったのですよ)」


 二人は、小声でフラウを仲間にすることを賛成してくれた。

 

「外の世界にですか?」


「決して安全とは言えないけど」


 それでも、このオアシスのように閉鎖的で、毎日同じ面子にブスだとバカにされることはないはず。


「生まれつきの容姿は変えられないけど、それならば心は強くあるべきだ。不安はあるだろうが思い切って外の世界に飛び出し、強くなって他人がなにを言おうと無視できる。気にしない心の強さを身につけるべきだ。このままここに居続けてもなにも変わらないのだから」


「実は私、以前から外の世界に出たいと思っていたんです。でも、砂獣を狩って肉を納めないと叱られるんです……」


「あの連中、君にそんなことまでさせているのか」


 一見純朴な田舎の人たちといった雰囲気なのに、内部の弱い人間に対してはどこまでも非情になれるわけか。

 食料源である砂獣の肉をまだ十二歳のフラウに狩らせ、それに感謝するどころか、バカにして搾取している。


 そうすることでフラウに対し精神的な優位に立ち、自分たちの利益を確保する。

 そしてその酷さを、外部の人間には見せないようにしていた。


「確信犯的なクズたちだな」


 そうしないと、こんな小さなオアシスでは暮らせない?

 水は豊富なのでそんなことはないはず。

 ただ単に、このオアシスの連中が腐っているのであろう。


「だから、私がリトルウォーターヴィレッジを出ようとすれば、邪魔されるはずです」


「そうか……」


 なるほど。

 ここの住民は、フラウがただサンドバッグになって、砂獣を狩ってくればいいと思っているわけか。


「酷い話ですね」


「これが、閉鎖的な集団の怖いところさ」


 一人や少数を迫害、搾取し、他の面々が利益を得て、集団の結束を維持する。

 酷い話だが、人間が生き物である以上、絶対になくならない。

 それを解決するには、その集団を出ていかなければいけないのだ。


「フラウ、外の世界に出たいか? 君が出たいというのなら協力するが、それでも出たくないというのなら、私たちはなにもできない。自分の人生を切り開くのは自分の意志なのだから」


「……私は、外の世界に出たいです!」


「よろしい、ならば協力しよう。フラウは、私たちのお芝居に乗ってくれ」


「わかりました」


「じゃあ、先に大アリジゴクを始末するか……その前に……」


 私は、ララベルとミュウに大アリジゴクの討伐を頼んだ。

 やはり、二人からすれば、さほど強くない類の砂獣だったため、ララベルが全力で予備の剣を投げ入れ、ミュウが上空から尖った巨大な氷の塊を落としたら、呆気なく倒されてしまう。


「遠距離から一定以上の攻撃力が放てれば、大アリジゴクはそれほど強い砂獣ではないですよ」


「もっとも、その遠距離からの一定以上の攻撃力を有するハンターが少ないんだがな。基本的に、巣の中に入って攻撃するので危険な砂獣ではあるのだ」


 大アリジゴクは無事討伐され、次はリトルウォーターヴィレッジの住民を騙す嘘を始めることにするのであった。




「違約金ですか?」


「そうだ! なにもなければ、私たちもこんなことは言わない! 十分に利益が出る討伐だったからな。それを、この娘が勝手に『イケニエになりたい』と邪魔したんだ!」





 翌朝、私は様子を見にきた住民たちを強い口調でなじった。

 普通に討伐すれば十分利益が出た討伐依頼だったのに、フラウがイケニエになることに拘って作戦を邪魔した結果、予想外の損害が出てしまったので違約金を払えと激高してみせたのだ。

 勿論それは大ウソで、フラウをリトルウォーターヴィレッジから外に出す作戦であった。


「お二人がいないのは?」


「綿密な作戦を邪魔され、この子を死なせるわけにいかないので通常の討伐に変更した結果、怪我をして船で寝込んでいる。治療費も貰わないと」


「しかし、そんな契約では……」


 住民の代表である老人の意見は正しい。

 私たちは、正式に契約書を交わしたわけではないのだから。

 だが、私たちは住民では歯が立たない大アリジゴクを討伐できるハンターだ。

 実際に、巣穴には顎にある二本の牙だけ回収した大アリジゴクの死体がある。


 今回だけは私がパーティから外れ、というかララベルとミュウをパーティから外し、二人だけで討伐させたので死体が残っていたのだ。

 わざわざこんな回りくどいことをしているのも、フラウをリトルウォーターヴィレッジから出す作戦の一環であった。


「フラウ、どうして?」


「私がイケニエになれば……」


「だから、討伐はこの方々に任せれば問題なかったというのに……」


「とにかく、違約金一千万ドルクをお支払いいただこうか? 怪我をした二人の治療費なども合わせれば、これでも随分と破格な値段にしている。この村の経済力を考えての譲歩だな」


 当然ララベルとミュウは怪我などしておらず、お芝居のために船の中にいた。

 あえて船に戻ったのは、重傷だと思わせるためだ。


「まさか、お支払いいただけないと? いいでしょう。この村のことは、ハンター仲間の間に噂として流しておきます」


「それだけは勘弁してください!」


 もしリトルウォーターヴィレッジの住民が無料で討伐依頼を引き受けたハンターの妨害を行い、挙句になんの補償もしなかったなんて噂が広がったら……。

 再び大アリジゴクが出現した時に、もしたまたまそこにハンターがいても、誰も討伐依頼を引き受けなくなってしまう。

 できれば、イケニエで対応するのは避けたいであろうから、他の方法を封じられると困ってしまうというわけだ。


 住民の代表である老人の顔にはそう書いてあった。

 悪いが、歳を食っていても外の世界を知らないので、世間知らずもいいところなのだ。


「では、違約金を。お金がなければ、他のものでもいいのですが……」


 とはいえ、このオアシスには水以外の特産品などない。

 あれば、もう少し発展しているはずだ。


「長! フラウが余計なことをしたのだから、フラウが自分で補償すべきだ!」


「そうだ! なにがイケニエだ!」


「大アリジゴクでも嫌がるような顔をしているくせに!」


「そうだ! 違約金はフラウが背負うべきだ!」


「お前が働いて返せ!」


 違約金一千万ドルクを払いたくないのであろう。

 老人以外の住民たちは、違約金はフラウが払えと言って彼女を糾弾し始めた。

 罵詈雑言が次々と飛んでくるが、フラウにはもう少し我慢してほしい。


「違約金はフラウが支払うから、我々は関係ない」


「この子がですか? なにか特技でも?」


「顔はご覧の有様だが、砂大トカゲくらいは狩れるし、一人暮らしだから飯炊きや洗濯くらいはできる」


「フラウが一生懸けて支払う。それでいいだろう?」


「……まあ、そういうことなら」


 この世界の常識では、フラウはもの凄いブスである。

 大借金を背負っても、女の部分では返済できないと住民たちは思っていた。

 ハンター見習い兼雑用で扱き使えばいいと、彼らは言ったのだ。


 人の人生を勝手に決めてしまう。

 閉鎖的な田舎に住む人たちの闇を見た気分だ。


「砂大トカゲが狩れるのならいいのかな? 料理や洗濯ができるのであれば……」


「じゃあ、交渉成立だな!」


 住民たちは、私がフラウのブスさ加減を嫌がって提案を覆すのを怖れたのであろう。

 急ぎフラウに対し、リトルウォーターヴィレッジを出ていくようにと命じた。

 これまで、砂獣狩りで頑張っていたと聞いていたのに、随分な追い出し方だ。


 とはいえ、ここまでは想定内。

 フラウにはもう少し我慢していてほしい。


「ああ、あと大アリジゴクの死体ですけど、この子に処理を任せようかな?」


「肥料になると聞くし、あとは我々がやっておこう」


 彼らは、私が提案を覆すのを怖れているようだ。

 一千万ドルクが惜しいから、フラウを一刻も早くリトルウォーターヴィレッジから追い出そうとしていた。

 倒した大アリジゴクの死体の処理も、彼らが自分でやると言ってきた。


 早く処理しないと砂大トカゲが集まってくるので、今日の彼らは死体の解体で一日が終わってしまうかもしれないな。


「では、我々はもうここを出るかな」


「オールドシティーかね?」


「ええ」


「それではよい旅を」


 私たちは荷物を纏めたフラウを押しつけられ、さらに水の追加補給も無料で受けて、まるで追い出されるようにリトルウォーターヴィレッジを出ていくのであった。





「フラウ、目的達成のためとはいえ、辛い思いをさせてしまってすまない」


 船が無事出航すると、フラウは次第に遠くなっていくリトルウォーターヴィレッジを眺めていた。

 辛い思い出があるとはいえ、彼女からすればこれまで過ごした故郷ということか。


「実は、あまり悲しくはなくて。私、外の世界に出たことがないので」


「そうか。ならいいんだ」


「それにしても、あのセーラという少女はいけ好かないな」


「自分の美しさに自信があるんでしょうね」


 私とフラウの会話に、負傷して寝込んでいたフリをしていたララベルとミュウも加わってきた。

 『ネットショッピング』で購入して体中にグルグル巻きにしていた包帯は、もうとっくに外している。


 荷を纏めたフラウがリトルウォーターヴィレッジを出発する直前、彼女に声をかけてきた人物がいた。

 最初にイケニエになると宣言した、リトルウォーターヴィレッジ一の美少女? であるセーラという少女だ。


 『この二人、実は親友同士で見送りに来た?』などと思った私がバカだった。

 セーラは、フラウが私たちの討伐を妨害した行為について、悪しざまになじり始めたのだ。

 勿論妨害行為云々はフラウを外の世界に連れ出すための嘘なんだが、それをセーラという少女に教えるわけにもいかず、フラウはただセーラの嫌味ったらしい悪口に耐えていた。


『だいたい、あんたみたいなドブスがイケニエですって? イケニエのルール知ってるの? このリトルウォーターヴィレッジで一番美しい乙女よ。フラウなんて一つも当てはまらないじゃない』


 自分がイケニエにならずに済んで、実は安心したのかもしれない。

 セーラは、口調まで変えてフラウを罵り続けていた。

 多分、このセーラという少女は、普段から美少女だと周囲がチヤホヤしているので、すっかり天狗になっているのであろう。


 私から見れば、かなりのクリーチャーが美少女をなじる、もの凄く勘違いな光景にしか見えないのであったが。


『もうおやめなさい』


『邪魔するの? 私レベルの美少女に相手にもされなさそうなあんたが。他にも、フラウといい勝負のドブスを二人も連れて。趣味悪いわね』


『なるほど。子供をちゃんと躾けないから、こんな醜い性格になってしまったのか』


『はあ? なにを言っているの? 私は……』


『心が醜いと顔まで歪むものなんだな。君やここの住民がどう思おうと勝手だが、私はララベルもミュウも美しいと思っている。だから妻にしたし、フラウも君の何十倍、何百倍も美しい。君はイケニエに相応しいな。大アリジゴクもさぞや食べ甲斐があるだろう』


『むむっ、なんか悪口を言われた気分……』


 この世界の女性は、とにかく太っていた方が『ふくよか』だと言われ褒められるからな。

 セーラもかなり太っていて、BWH全部同じサイズに見えるが、このさして生活が豊かでもないオアシスで彼女が太れたのは、フラウが狩った砂大トカゲの肉のおかげであろう。


『もう一つ』


『なによ! 平凡顔!』


『そのうち、君に報いが来るだろうね。それだけは言っておく』


『報い? どういうこと?』


『その時が来ればわかるさ。じゃあな』


『ちょっと! 報いってなんなのよ?』 


 セーラという少女に報いが訪れる。 

 彼女はそれがなんなのか首を傾げていたが、実はそれは確実に訪れる予定だ。

 その報いはミュウが昨晩見つけたものなのだが、あの大アリジゴクの巣から少し離れた場所に、実は孵化したばかりの大アリジゴクがもう一匹存在したのだ。

 ミュウによれば、それはあと一ヵ月ほどでまた大きな巣を作るらしい。

 しかも、その場所は確実に以前巣を作ったポイントである可能性が高い。


『フラウがいれば、彼女は毎日砂獣を狩っているので、小さな大アリジゴクに気がついたはず。すぐに殺されていたでしょうが……』


 ところが、フラウはリトルウォーターヴィレッジを出ていってしまう。

 さて、他の住民たちはいつ新しい大アリジゴクに気がつくのか?

 これまで数十年から数百年スパンでしか来なかった大アリジゴクが、一ヵ月後にまた巣を作ってしまった。

 これに対応できるかだが……あそこにそう都合よく高位のハンターは来ないので、今度こそイケニエが実行される可能性が高い。


 そして、イケニエは確実にセーラが選ばれるはずだ。

 最初に立候補したので本望であろう。

 そう思うことにしておく。

 もしかしたらその大アリジゴクが、リトルウォーターヴィレッジの近くに巣を作らない可能性もなくはないというのもあるか。

 ただ、この事実はフラウには教えない方がいいであろう。

 ララベルとミュウも、フラウには話さないだろうし。


「フラウは、これからのことだけ考えればいい。リトルウォーターヴィレッジでの生活は、もう終わった過去なんだから」


「はい。わかりました、タロウ様」


「様はいらないよ。私は偉くないから」


「いいえ、タロウ様は私を救い出してくれた恩人なので。そこは譲れません」


「(この子、意外と頑固なのかな?)」


 オールドタウンに向かう途中、私たちはリトルウォーターヴィレッジという小さなオアシスで美少女を……この世界の基準だとドブスなんだけど……を仲間にするのであった。

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