第18話 『ネットショッピング』 

「さて、早速検証だな」




 私が作った夕食を食べ終わり、早速新しい特技『ネットショッピング』がどんなものか検証してみることにした。

 使い方を知りたいと願うと、脳裏にそれが浮かんでくる。


「なになに……。『ビジョン』と唱えると、ネットショッピングの画面が出てきますか……本当に画面が出た!」


 目前に、ネットショッピングのHPのようなものが浮かび上がってきた。

 画面のデザインは、地球で当たり前のように普及している世界的ネット通販ショップのそれによく似ている。

 

「検索は、脳裏に思い浮かべるだけですか……」


 いきなりこの世界に飛ばされて一ヵ月半ほど。

 なにがほしいかと言われると、やはりこの世界は暑いので冷たいものかな?

 水などはミュウさんが冷やしてくれるのだけど、やはりアイスクリームなどが食べたくなるのが人情とというか本能というものだ。


「(アイスクリーム、出ろ!)」


 脳裏で『アイスクリームが食べたいな』と思うと、検索機能の部分にアイスクリームと表示され、沢山の種類のアイスクリームが表示された。

 日本のやつも、外国のやつも。

 安い商品から、高級品まで。

 多すぎて選べないほどだ。


「この世界で地球の品を購入できるのか。これまでの『変革者』にも、そういう人はいたのかな?」


 今はそれを確認する術がないので、考えても仕方がないか。

 商品を調べてみると、通常のネット通販ページと同じで、商品の説明や内容量、価格などが記載されていた。


「そこで、円やドルじゃなくて、イードルクなわけか」


 イードルクは、ドルクと価値に差はないようだ。

 1イードルク、イコール通常の1ドルクのような気がする。

 

「でも、電子マネーなんてないよなぁ……」


 ドルクは稼げるけど……私以外はだけど……どうやって入金して使えばいいのかわからないで困ってしまう。

 と思っていたら、ページの上の部分にこう表示されていた。


「カトウ・タロウ、3億8759万5687イードルクって大金だな!」


 もし日本でしがないサラリーマンをしていたら一生稼げない金額だ。

 でもどうして私がこんなに電子マネーを?


「そうか!」


 だから私は、砂獣を倒しても素材も神貨も手に入らなかったのだ。

 全部換金されて、ここに入金されていたわけだな。

 素材もすべて消えるということは、素材の代金も込みという可能性が高いな。


「しかし……となると、この金額のかなりの部分がララベルさんとミュウさんのものってことになるな」


 この二週間ほど、私とパーティを組んだばかりに、二人は素材も報酬もまったく得ていなかった。

 正確にはここに入っているのだが、二人に返さないといけないな……返せるのか?


「引き出し機能はないのか……」


 残念ながら、一度イードルクにしてしまうと、もう二度とドルク貨幣には戻せないと脳裏に浮かんできた。

 つまり、入金は慎重にということだ。

 とはいえ、私及び私のパーティメンバーが砂獣を倒すと、勝手に入金されてしまうのだが。


「うん? 銀行口座からの入金?」


 もう一つ、新しい機能を見つけた。

 銀行の口座にあるドルク貨幣を入金して、イードルクに変更できるらしい。


「でも、私に銀行口座なんて……あったな!」


 そういえば、紫色のスウェットを貴族に売却した代金が口座に入っていたのだった。

 この世界では教会が銀行を経営しているので、教会ならどこからでも下ろせると、サンダー少佐に勧められて預けていたのだった。


「入金してみるか」


 どうせ、私が生きていることは隠さなければいけないからな。

 教会までお金を下ろしにもいけないので、全部イードルクに変えてしまおう。

 ちなみに、イードルクを銀行の口座に入れることもできないようだ。

 別に必要ないけど。


 早速入金してみると、銀行の口座は二千万ドルクからゼロになった。

 代わりに、イードルクの残高が4億759万5687イードルクとなっている。

 やはり、イードルクとドルクの価値は同じなのか。


「アイスを買ってみるかな」


 酒という選択肢もあったが、考えてみたら私はそこまで酒好きってわけでもない。

 飲まなくても問題ないが、とにかくこの世界は暑い。

 冷たいアイスクリームが食べたかった。

 『じゃあ、氷系なのでは?』と思われる方もいるだろうが、ミュウさんが水魔法の使い手なので、氷は簡単に手に入ってしまうのだ。

 かき氷はすぐに食べられる……シロップや糖類がないので、ただのかち割り氷だけど。


「これにしよう」


 某外国産高級アイススリームのバラエティーセットを選択し、買い物籠のところに入れていく。

 

「バニラ、チョコレート、イチゴ、抹茶、マンゴー、マカダミアナッツのカップアイスセットでいいな。価格は九千八百イードルクか」


 さすがは、外国産高級アイスクリームといったところか。

 ちょっと数が多いが、『異次元倉庫』入れておけば溶けないので問題ないと思う。


 それよりも、大きな問題が発覚したからだ。


「ええっ! 送料が同額かかるのか!」


 ネット通販には送料がかかるわけで、なんとその金額がかなり高額だった。

 脳裏に浮かんだ説明によると、購入した商品と同額の送料がかかる仕組みだそうだ。

 高額の商品ほど、それに比例して高額の送料がかかるわけだ。


「この世界で手に入らない品だから仕方がないのか……これは……」


 画面を見ると、『利用者へのお知らせ! お得なキャンペーン開催中!』とあったので、それを開いてみた。

 すると、そこにはこう書かれていた。


「『我がネット通販サイトをご利用いただきありがとうございます。そんなあなたに、この一ヵ月間だけのお得なキャンペーンを実施中です。10億イードルクを一括でお支払いの方に限り、永遠に送料無料キャンペーンを実施中! この一ヵ月間のみのお得すぎるキャンペーンなので、是非ご利用を!』か……」


 これはもの凄くお得なキャンペーンだ。

 購入したものの金額と同じ送料がかかるのが、一ヵ月以内に10億イードルクを支払えば永遠に送料が無料なのはありがたい。

 私が死ぬまでだろうが、どんな高額の買い物をしても実質半額というのは大きい。 

 チリも積もればどころではないので、是非購入しておきたいろころだが、問題は期限が一ヵ月しかないことであろう。


 あと一ヵ月で、10億イードルクを貯められるかどうかという問題が浮上してくる。

 しかも、このお金の大半はララベルさんとミュウさんが砂獣を倒して入手したものだ。

 私のお金ではないので、たとえ10億イードルク集められても勝手に使うわけにいかなかった。


「その辺も相談かな」


 新しい特技『ネットショッピング』の詳細もわかったことだし、ララベルさんとミュウさんに事情を説明すべく、まずは試しにアイスクリームのバラエティーセットを購入してみた。


 すると、私の所有残高が4億757万6087イードルクへと減少し、突然目の前にアイスクリームのバラエティーセットが出現した。


「早いなぁ」


 注文するとすぐに届くのは凄い。

 あと、消費税がないのもよかった。

 ただ、やはり送料が痛いな。

 9800イードルクの商品を購入して、送料が9800イードルクだからな。

 購入した商品の大きさや重さではなく、金額で送料が上がるという特殊性のため、高価な買い物がしづらいと感じてしまう。


「やはり、10億ドルク支払うのは得だな」


 これからのことを相談すべく、私は購入したアイスククリームのバラエティーセットを持って、ララベルさんとミュウさんのもとへと向かうのであった。 




「というわけなのです。試験ということで、勝手にアイスクリームを購入してしまって申し訳ないのですが……」


「ミュウ! そのチョコレートの味のやつは私のものだぞ! 一人で三個食べるのは反則だ! このアイスクリームという冷たいお菓子は絶品だな」


「王女様だったララベル様はどうか知りませんが、私くらいの貴族の令嬢でも、チョコレートなんてそうそう食べられないですからね。とんでもない高級品なので。タロウさんの世界には、こんなに美味しいお菓子があるんですね」


「兄は改革王を気取るケチなので、王女である私だってチョコレートなど二回しか食べたことがないぞ。輸入品で高いのでな。このちょっと酸味のあるピンク色のフルーツを使ったアイスも美味しいな」


「ララベル様、甘い物なんて三か月半ぶりですね。黄色いフルーツのアイスが気が遠くなるほどの美味しさです」


「そうだな。ミュウが魔法で作った氷を削り、それを口に入れて『削り氷プレーン味』などと言っていたことが大昔のように感じる」


「昨日食べたばかりではないですか。ただの氷なので、冷たいけど甘くはないですからね」


「この緑色のアイスは、ちょっと苦くて大人の味だな」


「ナッツっぽい味のアイスも美味しいですね」


「あの……私の話を聞いていますか?」


 どうやら、アイスに夢中なようでそれどころではないらしい。

 食べ終わって落ち着くまで待つとするか。

 どの世界でも、女子は甘い物には目がないのだから。

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