第17話 ついに

「タロウ殿、レベルはどうだ?」


「今、レベル百九十九ですね。あと一つで、レベル二百になります」


「教えてくれるのはありがたいが、いいのか?」


「ララベルさんに隠すことでもないような気もしますしね。それよりも、そろそろサンドスコーピオンを倒せるかどうか試してみたいです」


「万が一ということもあるので、レベル二百まで待った方がいいと思うな」




 ララベルさんとミュウさんの砂獣討伐に同行して二週間ほど。

 私のレベルは、ここに来た時から七十以上も上がっていた。

 随分と早いペース……実はそれすらわからない。

 なぜなら、この世界の人たちは他人に自分のレベルを教えたがらないからだ。

 昔からそういう習慣らしいが、もし他人にレベルを知られて相手よりも圧倒的に低いと、レベルが上がるまでその人の風下に立たなければいけない。

 レベルが高い人は、レベルが低い人を見下しがちだった頃の名残りだという説を、サンダー少佐から聞いたことがあった。


 そういえば、サンダー少佐も私にレベルを聞かなかったな。


 金でレベリングしてもらった人ほど威張り腐っている事実を知るに、今もそういう傾向が残っているのは確かであろう。

 だから、レベルは隠すものという習慣が残っているのだと思う。


 ララベルさんには『レベルサーチ』があるので、隠す意味がないと言われればそれまでなのだけど。


「ちなみに私は、レベル五百三十七ですよ」


「高っ!」


 ミュウさんが、私に自分のレベルを教えてくれた。

 私のレベルを知ったので、お互い様と考えたのか?

 彼女のそういうところに、私は好感を覚えていた。


「私たちは、幼少の頃から砂獣の討伐を繰り返していましたから。ここに来てからもっとペースが上がりましたよ。幼少の頃から高いハンターの資質を認められていましたし、この容姿なので他の貴族の子弟たちから『家に呼ぶとみっともない。ドブスが伝染る』と言われるので、外に出て砂獣ばかり狩っていましたから」


「……」


 そういう話を聞かされると、居た堪れなくなってしまうな。

 しかも、結構笑顔で話すから余計に痛々しいのだ。


「ララベル様と知り合ってからは、寂しくないですけどね」


「『ドブスは人間と戯れず、同じように醜い砂獣と戯れていろ』と兄が言うのでな。砂獣狩りは私たちからすれば、毎日の習慣みたいなものなのだ。ここに来たら、余計時間が余ってな」


「……」


 もう本当、涙が出そうなので、これ以上言わなくてもいいから。


「タロウさんのレベルアップも順調でよかったです」


「これも、ララベルさんとミュウさんのおかげですよ」


 これまでの成長ぶりからして、どうやら私はそれほど戦闘力が高くないようだ。

 それなら、この世界で生き残るにはレベルが高いに越したことはない。

 無償で手伝ってくれる二人には感謝の気持ちしかなかった。


「あっ、ちょうどレベルが二百になった」


 手のひらを確認してみたら、レベルが二百に上がっていた。


「レベル二百って、正直なところ高いのでしょうか?」


「そうですね。この世界の人たちはレベルを公表したがらないのですが、唯一レベルがわかってしまう時があります」


「死ぬと、手のひらにレベルが浮き出てくるのだ。この時は誰でもレベルが見えてしまう」


 生きている時は自分しかレベル表示が見えず、死ぬとみんなに見えてしまうのだ。

 その人が死んだ時にようやく、凄い功績を残したハンターのレベルがわかると。


「レベル二百だと、上位のハンターであることが多いな」


「勿論個人差はありますけどね。レベル二百まで上げても、全然弱い貴族とかいますしね」


 レベル二百でも弱い人は、金持ちが強いハンターを雇ってレベリングしているケースが大半だそうだ。

 普通の弱い人は、自力でそこまでレベルを上げられないから当然か。


「じゃあ、明日に早速サンドスコーピオンを……あれ? 『異次元倉庫』の下に新しい特技の表示が出た?」


 もう一度手のひらを見ると、徐々に文字が浮かび上がってきた。

 私しか見えないようだが。

 それと、どうしてか日本語表示なので、これも『変革者』の特性なのかもしれない。


「複数の特技持ちですか。凄いですね。ララベル様もそうですけど、私は一つだけなので」


 その代わりミュウさんは、水系の魔法で砂獣を大量虐殺できる強さがあるけど。


「(『ネットショッピング』? どんな特技なんだ?)」


 最初は格好いい魔法とか、華麗に武器を扱う能力とか、そんなものを期待していたのだが、よく見ると『ネットショッピング』と表示されていた。

 どう考えても、ハンターとして有利な特技とは思えない。


「(どんな能力なんだ? なになに……)」


 私の疑問に答えるかのように、脳裏に『ネットショッピング』の詳細が浮かんできた。


「(指定の画面から各ネットショップに飛び、そこに表示された品を購入できます。購入するとすぐに届きます。お支払いは、電子マネーの『イードルク』のみです。えっ? 電子マネー?)」


 この世界に、電子マネーなんてないと思うのだが……。

 唯一それっぽいのは、教会でお金の出し入れができることくらい。

 それにしたって、現金を使わずにお店で買い物などできないからな。


「タロウ殿、どうかしたのか?」


「戦闘では使えない特技ですね。オアシスに戻ってから検証してみます」


「そうなのか。たとえ戦闘に使えなくても、特技はいくらレベルを上げても習得できない人の方が多い。そう悲観しなくてもいいと思うぞ」


「そうですよ。私なんて一つだけですからね」


「別に落ち込んではいませんよ」


 とにかく一刻も早くこの特技を検証し、それが確認できたらララベルさんとミュウさんに意見を聞いてみよう。


「じゃあ、戻りましょうか?」


「そうだな」


「お腹も空きましたしね」


 レベルが二百となり、新しい特技『ネットショッピング』を覚えた私は、この日も無事に砂獣討伐を終えてオアシスへと戻るのであった。

 まあそうは言っても、相変わらず私は戦っていないのだけど。

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