第16話 レベルジャンキー
「まずは一匹! これだけあれば、暫く食料に困らないであろう」
「タロウさんの『異次元倉庫』があれば、無駄に腐らせることもないですしね」
私たちは小型の砂流船に乗り、サンドウォームの巣の内側、サンドスコーピオンの大量生息地へと到着した。
まずは私とパーティを組まず、船から颯爽と飛び降りたララベルさんが剣を振るって一匹のサンドスコーピオンを斬り捨てた。
その剣の動きは私には見えず、ただその速さに驚くばかりであった。
「剣の動きが見えなかった。ララベルさんは凄いですね」
美人が剣を振るうと絵になるものだ。
そして度肝を抜く強さ。
間違いなく、サンダー少佐よりも強いはずだ。
私などとは比べものにならないであろう。
彼女が斬り捨てたサンドスコーピオンは食料にするため、私が『異次元倉庫』に仕舞った。
これまでは、保存が難しいのでほとんどの身を腐らせていたそうだが、これからは効率よく食材を使えるはずだ。
神貨も同様で、袋には五万ドルクが入っていた。
かなりの大金だが、確かにここにいるとお金なんて使わない。
貯まる一方というわけだ。
「では、レベリングを開始する。『パーティ』」
「「『パーティ』」」
これで三人はパーティとなり、早速レベリングを開始する。
「はっ!」
「『アイスランス』!」
すでに二人は、サンドスコーピオンを効率よく狩る方法を完全に習得していた。
ララベルさんが、砂に足が沈まないよう高速で移動を続けながら、まるで踊るようにサンドスコーピオンを次々と斬り捨てていく。
船に残ったミュウさんは、魔法で氷の槍を大量に作り出し、それをサンドスコーピオンの頭上から落として急所を一撃して倒す。
私とパーティを組んだので、死んだサンドスコーピオンは次々と消滅していく。
神貨も落ちてこないのは、これまでとまったく一緒であった。
「本当に、倒した砂獣は消えてしまうのだな」
「実際に見ると驚きです」
「得られるものがなくてすみません」
完全な無料働きなので、私は二人に申し訳がなかった。
サンダー少佐の時も同じ風に感じたので、私はレベリングが苦手になっていた。
私が日本人的な小市民のため、申し訳なさを感じてしまうからだ。
「レベルは上がるから問題あるまい」
「サンドスコーピオンの身と殻を得ても、売りに行けませんからね。別にいらないですよ」
「むしろ、消えてくれるので討伐がしやすいな」
「いつもなら、倒したサンドスコーピオンたちが邪魔で移動しますからね」
二人は、討伐の効率が上がったことをとても喜んでいた。
もしかして、レベルアップに喜びを見出しているのであろうか?
いわゆるレベルジャンキーというやつか?
会社の同僚で、貯金が趣味で通帳の数字が増えるのことに喜びを見出していた人がいたが、二人はレベルが上がるのが楽しいのかもしれない。
食料は食べるだけあればいいし、神貨をいくら貯めてもオアシスだと買い物ができないから、そんなにいらないというわけか。
「どんどん来い!」
「タロウさんは後ろで、私たちを守っていてくださいね」
「はい(守れって言われてもなぁ……二人の方が圧倒的に強いからなぁ……)」
とはいえ、今の私が前に出ても戦闘で役に立てる保証もなく、ミュウさんに言われたとおり、夕方まで二人の討伐という名のサンドスコーピオンの大量虐殺を見守って、その日の活動を終えるのであった。
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