第8話 追放
「タロウ! いけ!」
「はいっ!」
「ようし! 最低限の戦闘力はあるようだな」
私が、サンダー少佐の指導でレベリングを始めてから三週間。
今では、砂大トカゲくらいは倒せるようになった。
『とにかく力を込めて突き入れろ!』というサンダー少佐からの指示に従い、真正面にいる砂大トカゲに力いっぱい槍を突き入れると、砂大トカゲは消滅してしまった。
相変わらず、私及びそのパーティメンバーが砂獣を倒すと消えてしまう。
神貨も素材も手に入らず、砂獣の討伐報酬もないので、私はハンター業はできないなと実感するに至っていた。
討伐効率に関しては、死んだ砂獣に突き刺さった剣や槍の穂先を引き抜く時間や、神貨、素材を回収する手間は省けているのでとてもいい。
レベル上げも順調で、私のレベルはすでに八十七まで上がっていた。
かなりの成長度のような気もするが、実は大したことないのかもしれない。
正直、判断に悩むな。
「レベルの基準みたいなものってあるんですか? このくらいのレベルだと一人前とか?」
休憩中、私はサンダー少佐にどのくらいのレベルがあれば一人前とか、凄腕とか、そういう基準があるのか聞いてみた。
かなり個人差があるとは聞いていたが、目安があれば知っておきたかったからだ。
「一般人は、労働中に熱射病で倒れないようレベル三~五くらいには上げるものだ。大半の人は砂大トカゲにも勝てないな。兵士やハンターになれた者で、どうにか砂大トカゲを倒せる者がレベル十~三十ってところかな? これも個人差が大きい」
才能があれば、レベル五もあれば砂大トカゲは倒せる。
ところが逆に、頑張って砂大トカゲを倒し続けてレベル五十になっても、一生砂大トカゲから卒業できない者もいるそうだ。
それでも、ハンターになって砂獣退治で数をこなせば、人並み以上の生活は送れるそうだが。
「結局、才能次第ですか」
「一般人がレベリングをしてレベル三十まで上げたとしても、砂大トカゲに歯が立たないケースも多い。もっとも、なんの才能もない一般人がそこまでレベルを上げられないけどな。貴族や金持ちならともかく」
「金でレベリングをする貴族や金持ちがいるんですね」
砂獣を倒さねばレベルは上がらず、かといって砂獣を倒すのはとても難しい。
下手に戦えば、すぐに死んでしまうだろう。
そこで貴族たちは、砂獣を倒せるハンターを雇い、レベリングしてもらうわけだ。
要するに、金でレベルを買うわけだな。
「身体能力が上がり、一般人よりは強くなれるからな」
結局、貴族だからといって全員が軍人やハンターとしての資質を得られるわけがなく、だからコネで軍士官になるわけだ。
そして、部下であるベテラン兵士たちにレベリングをしてもらう。
この国は貴族の搾取が激しくて平民たちの不満も大きいが、彼らの大半はレベルが高い貴族に勝てないわけか。
強い兵士やハンターには少し飴を与えて反抗しないようにする。
なんとなくだが、この世界の実情が見えてきたような気がした。
「レベルが上がると、病気になりにくかったり、治癒が早かったりする。大物貴族なんて、赤ん坊にレベリングをさせるからな。子供は死にやすいって理由もあるけど」
医療技術や衛生環境の差もあるのだろうが、暑いので死んでしまう子供が多いのか。
それを防ぐため、貴族や金持ちは優秀なハンターに高額の謝礼を支払ってレベリングをし、赤ん坊が死なないようにするわけだ。
「それにしても、タロウはさすが『変革者』だな。こんな短期間で、砂大トカゲを余裕で倒せるようになったのだから」
「倒しても、神貨も素材も得られませんけどね」
レベルが上がった影響であろう。
灼熱の砂漠で一日中討伐を続けても、それほど汗が出なくなったし、熱射病にもならなくなった。
だが、いくら砂獣を倒しても神貨と素材が手に入らない。
倒した砂獣がなぜか消えてしまうのだ。
おかげで、王様を始め、貴族たちの私に対する評判は最悪だった。
私がハッタリでも貴族を名乗っていたのと、王様が臣下の前で約束したので一ヵ月間の支援は約束どおり続けられたが、それが終わったら役立たずは王都から出ていけと言われたのだから。
「あと一週間か」
「私は王都を出ますし、サンダー少佐も退役ですか」
貴族枠で入った若造を少佐にするため、歴戦のサンダー少佐を退役させてしまう。
この国はどうしようもないなと思ってしまった。
むしろ追い出された方が安全かもしれないけど。
「あと一週間だ。強くなってくれよ」
「はい」
それから一週間、私は砂大トカゲを狩りに狩りまくった。
レベルは九十八まで上がったが、さすがにここまで上がるとレベルも上がりにくくなるな。
「レベル二十くらいにはなったか? ああ、レベルは他人に言わない方がいいぞ」
「この前聞いた、砂大トカゲは余裕で倒せそうなレベルですよ」
「惜しいな。神貨と素材が獲れれば、俺のパーティに誘ったんだが……」
お世話になったサンダー少佐に嘘をつくのは心苦しいが、私のレベルを知ったせいで思わぬトラブルに巻き込まれるかもしれず、『砂大トカゲは余裕で倒せるレベルの基準くらい』と言っておいた。
彼はこれからも、王都周辺でハンターとして砂大トカゲを狩っていくはず。
恩義を感じているからこそ、私のような異物とはあまり関わらない方がいいのだから。
「最後に、陛下がなんの用事だって?」
「わからないです。嫌味でも言われるのでしょうか?」
「ありそうだから困るよな」
「ですよね」
訓練とレベリングが終わり、私は同じく退役するサンダー少佐にお礼と別れの挨拶をしてから、兵舎を出て王様のいる謁見の間へと向かう。
するとそこには、あからさまに不機嫌そうな顔をした王様が玉座に座り、頬杖をしながら待ち構えていた。
「せめて神貨と素材くらい貢献すればいいものを……『変革者』なので変わり者だとは理解していたが、マイナスで役立たずだな。一ヵ月間も無料飯を食わせてやった余の寛容さに感謝し、『ウォーターシティー』へと向かうがいい。船代くらいは出してやる」
「ウォーターシティーですか? それはどういう町なのでしょうか?」
「おい」
王様は説明したくないようで、下座に控えていたシュタイン男爵に顎で『説明してやれ』と命令を出していた。
自分の偉さを誇示したいのはわかるけど、男爵にあの態度はないよな。
あえて臣下をぞんざいに扱うことで、自分を偉く見せようとしているのだろうけど、かえって反感を買っているような……。
「ウォーターシティーは、このグレートデザートの中心部に位置する海の真ん中にある島国です。独立した都市国家で、統治は大商人たちの合議制というのが特徴です」
「ふんっ! 拝金主義のくだらない国だ」
どうも王様は、ウォーターシティーが嫌いなようだ。
豊かな国のようで、だから王様は拝金主義だと嫌味を言っているのであろう。
王様や貴族がいないらしく、商人たちが統治しているので下に見ているというのもあるのか?
「そこなら、お前のような無能でも食えるくらいの仕事はあるはずだ。ハズレ『変革者』を引いた余は、統治者として忙しい。即刻消えるように」
「わかりました。お世話になりました」
「ふんっ」
ここまで嫌われている以上、この国に残るのはよくないだろうな。
とっとと船代を貰って王都を出ることにしよう。
「タロウ殿、すまないな」
謁見の間を出ると、同じくそこから出てきたシュタイン男爵に謝られてしまった。
この人は本当にいい人だな。
だからこの国では出世できそうにない、可哀想な人なのだけど。
「事実上の追放になってしまったからな」
「結果的には、それが最良なので気にしていませんよ」
中途半端に才能や特技があって、あの王様に利用されるよりはマシというものだ。
それに、私がこれから向かうウォーターシティーには仕事が多そうなので、砂獣の討伐で稼げない私には一番いい場所かもしれない。
「ウォーターシティーまでは、まずはこの王都から『砂流船(さりゅうせん)』でバート王国領である『中央海』の港『リリス』へと向かう。あとは、水上船でウォーターシティーまで移動だ」
まずはここから、砂流船で移動か。
名前からして、砂を走る船があるのか。
「砂を走る船とは珍しいですね。私の世界にはないものですよ」
「そうなのか。グレートデザートでは砂流船の方が多いのでな」
砂漠が八割なのだから当然か。
「チケットの手配はしているので、乗り遅れないようにしてくれ。あとは、これがリリスから出る水上船のチケットだ」
他にも、通常船のチケットも渡され、私は一か月ほど過ごしたバート王国の王都を離れることになった。
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