第7話 銀行=教会

「タロウ、お前さんはこの前の服を売った時に貰った『代金符(だいきんふ)』をまだ持っているのか?」


「兵舎にいるとお金を使わないので、そのままですね」


「それはよくないぞ。盗難や強盗に遭うかもしれないから、これから教会に行こう」


「えっ? 教会にですか?」


「お金を預けるのなら教会だろう? タロウの世界でもそうだろう?」


「いえ、私の世界だと銀行ですね」


「銀行かぁ……初めて聞く単語だな。この世界だと、預金は教会へだな」




 レベリングは順調に進んでいた。

 相変わらず、私のパーティでは砂獣を倒しても神貨も素材も得られないのだが、それらを拾って処理する時間がないので、効率的に討伐ができたからだ。

 神貨と素材が手に入らないので貴族士官様たちは怒っているようだが、王様が一か月は面倒を見ると言ってしまった以上、まさか私を罰するわけにもいかず、歯ぎしりしている状態であった。


 私がレベリングを始めてから三日後、今日は初めてのお休みであったが、同じくお休みのサンダー少佐から教会へ行こうと誘われてしまった。

 私が紫色のスウェット上下を売却した時に貰った『代金符』という小切手のようなもの。

 持ち続けていると盗難の危険があるので、サンダー少佐に教会に預金しに行こうと誘われたのだ。

 

 この世界では銀行が存在せず、教会が預金業務を行なっているらしい。

 まさに、世界が変われば常識も……というやつである。


 サンダー少佐と一緒に王都にある教会へと向かうと、確かに教会というよりは銀行っぽい建物が見えてきた。

 金を扱っているからか、教会だからか、それともどちらもだからか。

 建物は非常に金がかかっていそうに見える。

 

「本日はどのようなご用件で?」


「『代金符』を預けたいのです」


「預金でございますね」


 建物のみならず、教会の神官も銀行員のようであった。

 当然、神官らしい神官もちゃんと存在するようだけど。


「こちらに手の平を載せてください」


 こういう中世ファンタジー風な世界で、どうやって預金者の特定をするのか不思議だったのだが、若い男性神官に言われて水晶玉に手のひらを載せると、もう預金者登録は終わっていた。


「カトウタロウ様ですね」


 私はまだ名乗っていないのに、その水晶玉は凄いな。


「神貨と合わせ、神が我ら人間に与えてくれたありがたいものなのです。この装置のおかげで、グレートデザートに一万四千七百六十九ヵ所ある教会すべてで預金、引き出し、借入れなどが可能です」


 地球にあるどの銀行よりも便利だな。

 それと、教会が銀行業をやっているおかげで、教会は国家と対等かそれ以上の力を持っている可能性が高い。

 それがわかっただけでも収穫だったな。


「お預けになる『代金符』は?」


「これです」


「二千万ドルクですか。大金ですね。もう一度手のひらをこちらに」


 もう一度水晶玉に手のひらを載せると、これでもう預金は終了だそうだ。


「あちらにある水晶玉に手の平を載せると、残高が表示されますので」


 若い神官に教えられた、まるでATMコーナーのように水晶玉が並ぶ場所に行って手のひらを載せてみると、『カトウタロウ 二千万ドルク』と水晶玉に浮かび上がってきた。


「便利ですね」


「俺は昔からこうだから、別に驚かないけどな」


 初めてということもあって、続けて若い神官から細かい説明を受けたが、預金は預け入れも引き出しも手数料は無料。

 その代わり、預金しても利息はつかないそうだ。

 どこの教会でも預け入れられ、引き出しができるとなれば、利息以上の価値があるから問題ない。

 利便性が段違いだな。


 借り入れもできるが、その利息はかなり高額だ。

 さらに金を借りると、『位置把握』の魔法が自然にかかって、返済しないで逃げるのは不可能らしい。

 どこに逃げてもその位置が把握され、取り立て専門の神官が文字通り地獄の底まで追いかけてくるそうだ。


「ちなみに、返済できないとどうなります?」


「教会指定の職場で、返済が終わるまで拘束されます」


 タコ部屋のような場所に閉じ込められ、働いて得た給金で借金を返済していく。

 返済が終わるか、労働が困難になるか、死ぬまで逃げ出せないそうだ。

 逃げようとしても、『位置把握』の魔法があるから逃げきれないのか……。


「この世界の神貨は、人が便利に使えるように神が与えたもうた神聖なるものなのです。借りて返さぬは、神に対する大きな罪なので……」


 金を返さないと神官が取り立てに来て、返せないとタコ部屋行きなのか……。

 この世界って、実は教会が一番の権力者なのかもしれない。

 ただ神貨は神が人間に与えたものなので、教会が管理してもおかしくはないのか。


「お金を借りる予定は今のところはないので」


「できましたら、それがよろしいかと」


 利息が高いらしいので、お金は借りない方がいいか。

 商売でも始める人は別なんだろうけど。


「じゃあ、兵舎に戻るか」


「はい」


 無事預金も終えたので、兵舎に戻るとしよう。

 せっかくのお休みなので買い食いでも……はやめておこう。

 兵舎を出ることになったら、嫌でも毎日お金を使わなければいけないのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る