第80話 捨てる神あれば拾う神あり



 神々の遊び七箇条ルール


 ルール1――神々から神呪アライズを受けた人間は、使徒となる。


 ルール2――神呪アライズを授かった者は超人型・魔法士型どちらかの力を得て、神々との頭脳戦ゲームに挑むことできる。


 ルール6――合計3回の敗北で挑戦権を失う。


 古より定められた人と神々の箇条ルール

 しかし同時に、「神々の遊び」を経て、人類が思い知らされた教訓がある。



 ――だ。



 捨てる神あれば拾う神あり。


 人間世界にそんな諺があるように、数多の神々のなかには、ごく稀に、脱落した使徒とも遊んでやろうという変わり者がいるという。





再挑戦リトライをかけた勝負。ああ、確かにあるよ』





 神秘法院マル=ラ支部。


 その十二階ゲストルームで、モニターに映るミランダ事務長が溜息を吐きだした。


 

 そんなミランダ事務長の内心が口ぶりからも丸わかりだ。


『神さまってのは遊び好きだから、挑戦を諦めない人間も見捨てはしないのさ。フェイ君よく覚えたね?』


「俺もうろ覚えですよ。だからミランダ事務長に確認したくて」


賭け神ブツクメーカーって呼ばれる神さまがいて、使徒の勝ち星を賭けて戦うことができるんだよ。具体的には、フェイ君の「一勝」を賭けて勝負して、勝てばネル君の「一敗」を帳消しにできる仕組みってわけ』




 通常の神:勝利すれば「一勝」を与える。敗北すれば「一敗」を与える。


 賭け神ブツクメーカー:勝利すれば「一敗」を消す。敗北すれば「一勝」を消す。




 多くの神は、勝利と敗北を「足す」力を持つ。


 賭け神ブツクメーカーはそれを「」のだ。


『ひねくれ者の神さまだけあって、賭け神ブツクメーカーは、特定の巨神像からダイヴすることでしか遭遇しないよ。賭け神ブツクメーカー専用の巨神像で、マル=ラ支部には置いてないみたいだね。ネル君が知らないのも無理はない』


 神秘法院で三十年以上戦った記録がない。


 その巨神像がマル=ラ支部に無いことも踏まえれば、マル=ラ支部の使徒だったネルが知らないのも頷ける。


「でも有るんですよね、ルインには」

『……まあねぇ』


 モニター向こうで、ミランダ事務長が二度目の溜息。


〝ではレーシェ様、ご覧ください〟


〝我が支部が保管している巨神像のダイヴ申請状況です。全部で五つありまして、使四つがフル稼働中なのですが〟



 ルイン支部にある巨神像の一つが未使用。

 これこそが賭け神ブツクメーカーに通じる巨神像――


『……ウチだともう四十年くらいかな。使われないまま埃かぶった巨神像だよ。あ、もちろん喩えだし整備自体はちゃんとしてるけど』


「事務長、そのあたり詳しくお願いします」


『詳しくも何も、今朝にフェイ君に送ったデータがすべてだよ』


 フェイの手元にある紙資料。

 今朝早くに、ミランダ事務長から送られたデータを印刷したものだ。




 賭け神ブツクメーカーは――


 一、使徒ネルと賭け神ブツクメーカーとの一騎打ちで遊戯ゲームを行う。


 二、賭け代ベツトは同行者の「一勝」。ここではフェイの一勝をチップとする。


 三、ネルが勝利すればネルの敗北数が一つ減る。

   通算三勝三敗から、三勝二敗へ。


 四、ネルが敗北すると賭け代ベツトしていたフェイの勝利数が一つ減る。

   通算六勝〇敗から、五勝〇敗へ。





 この神との戦いが――


 ネルの運命を決定づける。










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