第78話 vs太陽神マアトマ2世 ~太陽争奪リレー~





 その声に。その姿に――



 神が。


 全世界の観戦者たちが。ネルが。

 さらには脱落したチーム『大天使アークエンジェル』とパールさえ、一斉に我が目を疑った。


 なぜだ。

 なぜ脱落していない。パールに花を譲渡したはずの彼が。


「フェイ!?」


 砂漠を駆けるフェイの姿に気づいたケルリッチが、同じく目をみひらいた。


 信じられない光景プレイを見た。


 彼の生存だけでない。

 彼の手に、煌々と輝く太陽の花が握られていたからだ。パールが毒の花を掴んだことで、ついに真の在処が世界中に知れ渡った。


「単純明解だ」


 広大な砂漠の砂を蹴り、そびえたつピラミッドをフェイは見上げた。



『っっ!』


 その一言で――

 マアトマ2世は全容を理解した。



 フェイ:太陽と砂を所持し、そのうちの砂をパールに投げ渡した。



 フェイが二本の花を持っている――


 この絡繰りを知らない神は、パールに投げ渡したものが太陽と思い込んだ。


 太陽の花を失ったフェイは失格だと、神は、太陽の花を持つパールの追跡を命じたのだ。ここまでがすべて計算内。


「なぜ俺が花を二本持ってるかだって?」


 神ではない。

 この戦いを見守る全世界へ。


「一人だけいただろ、被造獣ビースト



〝……ふん、くだらん茶番だ〟



 遠く、遠く。

 この戦いを見守る黒コートの青年の不敵な笑みが、見えた気がした。


 神の砂嵐によってダークスは脱落した。


 それが狙い。

 彼が狙っていたのは、のに一番自然な方法。


 その瞬間こそが――――



〝『気まぐれな旅人ザ・ワンダリング』、ダークスさん飛びこんで!〟

転移門ワープポータルに飛びこもうとする――――〟



 触れていたのだ。


 ダークスはあの刹那、自分の花を転移門ワープポータルに投げ入れてフェイに譲渡した。咄嗟の機転では間に合わない。だが――



〝ダークス、花を隠しておくべきでは?〟




 最初から狙っていたのだ。

 ダークスは自らが砂嵐に身を隠し、砂嵐の最中に花を投げ渡した。


 だが神(全世界)は?

 砂嵐に巻きこまれたダークスは花もろとも消えたと錯覚した。


 新たな一本。

 ダークスの花が、フェイに譲渡されたのだ。


「神は自ら奇跡を啓く者にのみ微笑む。どうだ、楽しいゲームになっただろ神!」


『愉快!』


 神が高らかに笑い声を響かせ、そして諸手を広げた。

 ピラミッドの最上段へと続く坂道――もっとも天に近き祭壇に立ち塞がる、強大無比の神として。


『太陽に続く道。見事超えてみせよ!』


 正真正銘の一騎打ち。


 フェイが祭壇にたどり着けば勝利。あと一つ、「神を超える」という最大最後の難関さえ突破することができるなら。


来たれ我が軍サモン キヤツツ


 神が錫杖を振り下ろして――――――――

 止まった。


『…………なに?』


 全身が動かない。


 全知全能の神マアトマ2世が杖を振り下ろせずに固まった。このゲーム空間を支配する神が、突如として力を発揮できなくなったのだ。


『……何だ……これは!』


 いや理解できる。


 これは五秒間の行動阻害スタン

 毒の花を奪ってしまったチームへの神罰デバフである。まさか――


あなたは、兵士すべてを止めるべきだった」


 ピラミッドから望む砂漠の大地。


 吹きこむ熱波に炎燈色ヴァーミリオンの髪をさらさらとなびかせて、元神さまの少女が陽光のなか振り向いた。


「フェイとパールが毒の花を持っていないとわかった時点で、三千体の兵士に緊急停止を下すべきだったのよ。毒の花を持ってるのは誰かしら」


『ッッッッ!』


「わたしが毒の花を


 レーシェの眼前。


 そこに立つ被造獣ビーストの手に握られているのは毒々しい斑模様の花。今まさに、レーシェが自分の花を力ずくで押しつけたのだ。


「わたしが毒の花を持っていた。でもそれって太陽の花とのカモフラージュじゃないわ。理想のタイミングで行動阻害スタンを発動させるため」


 竜神レオレーシェなら――

 毒の花を奪われることがなく、また逆に、いついかなるタイミングでも毒の花を力ずくで押しつけることができる。


 花を奪われてはならない。


 その固定観念の逆転。


 (押しつける)ことで、最適のタイミングで、五秒の行動阻害スタンを神側に強制させる。


 それがレーシェの役割だったのだ。


『……だが五秒など!』


 フェイはまだピラミッドの坂道の下段だ。祭壇にたどり着く前にマアトマ2世は全身の自由を取り戻す。


?」


 神に向かって駆け上がる少年は。

 動かぬ神を、大胆不敵にも指さししていた。


「数えてみろよ神さま。俺たちは何人だ?」


『なにっ』


「――私を忘れてもらっては困ります。神さまからすれば取るに足らない人間ですが」


 褐色の少女が、坂道を駆け上がるフェイの真後ろに追いついていた。


 神呪『練気集中オーラ・ドライブ』発動。

 その小さき拳に、強大な衝撃波を込めて。


フェイを祭壇まで殴り飛ばすくらい、できますから」


『――――――――――っっっっ!』


「飛びなさい」


 ケルリッチの声に導かれるままフェイは跳んだ。

 とはいえ、全力で走った加速度をつけてもたかが真上に二メートル。


「貧弱なジャンプですね。それでも超人型ですか?」

「だから頼むんだよ」


「フェイ、私、あなたにちょっとだけ嫉妬します」


 飛び上がったフェイの靴裏に、ケルリッチが拳を添えた。 

 その瞬間――無表情を常とする少女が、一瞬、ふっと微苦笑したのを確かに見た。


「あなたが現れて以来、ダークスの心はあなたに釘付けです」


「なんだって?」

「だから、これは私の憂さ晴らし!」


 衝撃。


 ケルリッチの拳に押され、フェイは空高くへと舞い上がった。ロケット噴射さながらの推進力で。神の頭上を飛び越えて――


ピラミッドの上空へ。


「……痛っっ! 本気で殴っただろ今の!?」


 こちらを見上げる神マアトマ2世、そして「どうだ」となぜかしてやったり顔で腕組みするケルリッチを見下ろしながら――


 黄金色の祭壇へ。

 フェイは、ピラミッドの最上段へと着地した。


 太陽の花、祭壇へと捧げ――。


「ま。俺たち全員の合同勝利っつぅことで」


『異存ない』


 太陽の光のなか、神マアトマ2世の姿が溶けるように消えていく。


 満足しきった。

 そうと言いたげに、言葉を弾ませて。


『人と神の遊戯ゲームに終わりはない。人間よ、新たな遊戯ゲームで待っている』


「楽しみにしてるよ」

『ゆえに、預けておこう』


 祭壇に捧げられた太陽の花が、一層力強く輝いて――

 フェイがまぶたを閉じた一瞬後。




 神とその軍勢は、大砂漠のどこからも姿を消していた。  




 

 



 VS太陽神マアトマ2世。

 ゲーム内容『太陽争奪リレー』、攻略時間54分19秒にて『勝利』。


 【勝利条件1】 神の祭壇に到達して「太陽の花」を捧げること。

 【勝利条件2】 神のチームから「太陽の花」を奪うこと。


 【敗北条件】  人間チームが「太陽の花」を奪われること

 【ルール1】  ゲーム開始後から自分の花を失ったプレイヤーは失格。

 

  勝利報酬ドロツプアイテム『太陽の花』。(入手難易度「神話級」)

  ※太陽を呼ぶ力があるとされるが、詳細不明。










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