第77話 vs太陽神マアトマ2世 ~太陽争奪リレー~




 思い知らされた。



 巨神タイタン、無限神ウロボロスでの連勝を経て、「今回もひょっとして勝てるかも?」という甘さが心のどこかに芽生えていたことに。


 その慢心が、打ち砕かれた。



 



 人間があらゆる知略を、読み合いを、心理戦の限りを尽くしても、それでも勝利できないからこそ「神」なのだ。


『毒の花の効果により人間側おまえたちの太陽の花が表示される。もつともお前以外にあるまいが』


「……っ」


 動けないパールの手から、二本の花がこぼれた。

 地面に落ちた花の蕾が、マアトマ2世の見下ろすなか開いていく。


 真っ白い花。


『一本目は砂か。これが毒ならば少々面白かったのだが』


 そして二本目。

 パールがフェイから託されて、死守を誓った花が、神に奪われて蕾が開いていく。


『これにて決着――――――――――――っ!』





 





『なにっ!?』

「……え?」


 花を奪われたパールさえ、足下で咲いた花の色を見つめて言葉が出なかった。


 自分が渡されたのは太陽の花以外ないと疑わなかった。


 だが実際は砂の花。


 ならば竜神レオレーシェ、ケルリッチのどちらかだ。人間側で残っているのが二人だけなのだから。にもかかわらず――


「……ど、どうして!?」


 花を奪われたことで脱落。現実世界に戻っていく寸前に、パールは確かに見た。

 毒の花の効果で、太陽の花のありかがわかる。


 だが。

 地平線の先にいるレーシェ、ケルリッチのどちらの花も反応しないのだ。




 残り二名は竜神レオレーシェ、ケルリッチ。


 




『何故だ……』


 神の念話に走る動揺ノイズ


 思えばあの時からだ。

 世界中の観戦者たちが度肝を抜かれた、衝撃のカミングアウトが起きた時から、何かが起こりそうな予感はあった。




〝太陽の花を持っているのは、俺だ〟

〝太陽の花を持っているのは、わたしよ〟




 神に対する挑戦状カミングアウト

 この時点で神も世界中の観戦者も、冷静に分析できていたはずなのだ。


 三通り。


 可能性1:フェイが嘘をついている(太陽の花はレーシェ)

 可能性2:レーシェが嘘をついている(太陽の花はフェイ)

 可能性3:二人とも嘘をついている(太陽の花は残る十三人の誰かが所持)



 だが真実は――――






 可能性4:






 あり得ない。

 ここまでの過程を思い返せば、それは容易に断言できるはず。


 ① ゲーム開始前、端子精霊ミィプは一人一本ずつ花を配った。

   (初期配置ではパールが太陽の花を持っていた)


 ② 十五本の花をフェイが回収し、それを全員に配り直した。


 ③  ②の時点で、人間側の「誰か」が太陽の花を持っているのは確定。


 誰かが太陽の花を持っていたのは間違いない。


 にもかかわらず――

 残り二名に、太陽の花を持っている者がいない。


『……何だこれは……』


 大砂漠が震えだす。激昂とも咆吼ともつかぬ神マアトマ2世の「激情」が、無限に広がる砂の世界にこだました。


『太陽はどこへ消えたっっ!』


 そこへ。

 脱落したはずの「少年」の声が、美しいほどに重なった。








「――教えてやるよ。答え合わせの時間だ、神!」












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