第76話 vs太陽神マアトマ2世 ~太陽争奪リレー~




神と人は、同時に動いた。



『神前である』


気まぐれな旅人ザ・ワンダリング!」



 マアトマ2世が手を伸ばす。


 その手がパールの首根っこを掴み上げる寸前に、金髪の少女は、黄金色に輝く転移門ワープポータルの中へと消えていた。


『――――ほう』


 瞬間転移。


 マアトマ2世は神であり、人間に神呪を授ける側だ。

 何よりも「神々の遊び」のなかで、パール以外の転移能力者テレポーターと戦った経験が幾度もある。


 看破は至極たやすい。

 この人間は、神を飛び越えてピラミッドの上部へ転移する気だ。


『そこか』


 錫杖を構えて振り返る。

 ピラミッド最上段に延びる坂道、そこに金髪の少女は――――


『……?』


 どこだ。


 金髪の少女が坂道のどこにも転移していないのだ。瞬間転移とはいえ移動距離には限りがある。いったいどこに――


「油断しましたね!」


 三十メートル上空。


 ピラミッド上部への転移したのではない。パールが転移したのは、それを予測して振り返るであろう神の頭上だ。


『……っ』


人間側アタシたちの勝利条件は二つある!」



【勝利条件1】太陽の花をピラミッドの最上段に捧げること。

【勝利条件2】



 マアトマ2世が持つ錫杖だ。


 その先端、ガラスの球体に納められた花。神がここまで大事に抱えている花が太陽以外にありえない。


 上空からのパールの奇襲に、神は反応が一手遅れた。


「この花を獲ればアタシたちの勝ちです!」


 空から落下するパールが拳を固める。その拳が、神マアトマ2世の持っている錫杖の先端を狙い違わず叩き割った。


 リィィィィィッッン……


 澄みきった音。透きとおったガラスの球体が千々に砕けて、そこに封じられていた花がパールの掌へと収まった。


「や、……やった!?」


 小さな花の蕾を天へと掲げて、パールは飛び上がった。


「やりましたよフェイさん! 皆さん! 神さまから花を奪いました!」


 蕾がゆっくりと開いていく。

 そして咲き誇る大輪の花。



 

 世にも毒々しい斑模様の、花が。




?」


 疑問の声を上げた途端、パールの全身が金縛りにあったように動かなくなった。


 五秒間の行動阻害スタン

 毒の花を奪ってしまったチームへの神罰デバフだ。


「……ど、どうして…………」


『我の持つ花が太陽であると。それは人間側おまえたちの抱いた願望であろう?』


 悠然と近づいてくる神マアトマ2世。

 全身動けなくなったパールへ、一歩また一歩と近づいてくる。


  …………いや。


 思えば僅かに。ほんの僅かに、パール自身にも悪寒めいた不安はあったのだ。


 これは知略戦。

 神が太陽の花を持っている。その可能性さえも罠だとしたら?


 マアトマ2世は、自分が持っているのが太陽の花など一言も言っていない。人間がただ都合良くそう「願って」しまっていただけ。


「……だ、だけど……」


『我が太陽の花の在処か? ならば特別に教示してやろう』


 パールの見下ろす大砂漠――


 その地平線で、突如、まさに太陽に似た黄金色の光が空へと立ち上っていく。


 神の軍勢の誰でもない。

 いま黄金色の光が上っている場所には、一体の被造獣ビーストもいないのだ。


 椰子や植物が、みずみずしく生い茂る――――


「まさかっ!?」


『木を隠すなら森であろう』


 端子精霊ミィプに呼びこまれて、人間チームが立ち寄った休憩ポイント。

 そう。





 太陽の花は、オアシスに咲く無数の花々の中に隠されていた――――








 端子精霊ミィプはこう言った。


「ルール1――自分の花を手放してしまうと、そのプレイヤーは失格になる」と。



 神は、太陽の花をオアシスに設置していた。 


 そして毒の花を新たに杖に仕込んだ。


 意味があったのだ。

 あのオアシスという休憩ギミックにこそ、最大の攻略ヒントが隠されていた。


 あまりにも大胆不敵に。

 パールのみならず世界中の観戦者にも丸見えの場所にだ。だが人間は誰一人として神の知略に及ばなかった。


「…………」


 思い知らされた。


 巨神タイタン、無限神ウロボロスでの連勝を経て、「今回もひょっとして勝てるかも?」という甘さが心のどこかに芽生えていたことに。


 その慢心が、打ち砕かれた。





 




















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