第71話 vs太陽神マアトマ2世⑧ ~太陽争奪リレー~




目指すはピラミッド最上段。


背後の被造獣ビーストたちから逃げながら――



「レーシェ気をつけろ、被造獣ビーストたちと距離を空けすぎるとやばい」

「さっきの神罰でしょ」


 レーシェが速度を落とす。

 フェイとパールを含むへ。 


「ついてきて。この地割れクレバスだってすぐ修復されちゃうから」


「……っく。行くわよみんな!」


 チーム『大天使アークエンジェル』のカミィラが、残り四人の仲間へと声を張り上げた。


 いずれも被造獣ビーストに襲われて全身砂まみれの満身創痍。


 ――人間チーム、残り10人。


 背後で轟音。

 走りながらフェイが振り返った先で、レーシェの拳が生んだ地割れがみるみる修復され、砂漠に戻っていく。


 ……レーシェの言った通りだ。

 ……ここはマアトマ2世の神々の遊び場エレメンツ。砂漠なんていくらでも再生できる。


 地割れクレバスを飛び越えてくる被造獣ビースト


 ピラミッドまでのレースもすぐに再開……と思いきや。


「あら?」

「何かしら?」


 先頭を走るレーシェとカミィラの二人が、進行方向を見つめて声を上げた。


 走って行くうちに――

 ゆらゆらと大気を揺らす陽炎が収まり、そこに隠れていたものが露わになっていく。


 砂漠に映える瑞々しい緑地帯が。


「森?」

「……い、いえ。あれはオアシスです、レオーレーシェ様!」


 地下水によって水源が生まれ、そこに植物が繁茂できる局所的な緑地帯。


 だが、あくまで自然世界の話。

 ここは神が創造した遊戯ゲームの世界。このオアシスも、マアトマ2世が何かを狙って用意したギミックのはず。


「……罠か?」


 ダークスの怪訝そうな呟き。


「ケルリッチ、あれをどう考える」

「迂回すべきでしょう。私たちの目的は奥のピラミッドです」


 褐色の少女が即答。


「私たちをおびき寄せるトラップゾーンの可能性もあります。このまま無視して――」



『はいはーい。お待ちしておりましたぁ!』



 オアシスの茂みから端子精霊ミィプが飛びだした。


『中間地点へようこそ。ここは人間チームのための休憩地点で、被造獣ビーストたちにも見つからない安全な結界となっております』


「結構です」


 ぴしゃりと断るケルリッチ。


「このままピラミッドまで直進します。さようなら」


『あ。言い忘れておりましたが』


 端子精霊ミィプがぽんと手を打った。


『このゲームには「熱射ゲージ」という隠しパラメータが存在します。この太陽争奪レースをさらにワクワクドキドキさせる要素として』


「?」


『砂漠の日差しを浴びるごとに蓄積。二十分以上連続で浴びると熱射ゲージが満タンに。皆さまは既に十八分経過していますから――』


「溜まるとどうなるのです」



『即死で全員脱落ゲームオーバーです』



「それはゲーム前に言えぇぇぇぇぇっっっ!?」


『言ったら「隠し」になりませんし』


 全員脱落ゲームオーバーまで残り二分。

 誰もが血相を変え、フェイたち十人はオアシスに転がりこんだ。 


 ――ふわり。


 瑞々しい緑の楽園。


 そこに一歩入った途端、心地よい冷風がフェイが首筋を撫でた。全身の熱がすっと引いていくこの感触。


 ……気づかないうちにこんな火照ってたのか。

 ……熱射ゲージってのも、あながち嘘じゃなかったらしいな。


 そして何と美しい緑地だろう。


 椰子の木の下には色とりどりの花が咲き乱れ、その奥には懇々と湧き水が染み出る泉が見える。


「……な、なんだか本当に安全地帯っぽい雰囲気ですね」


 恐る恐るまわりを見わたすパール。

 上着の切れ端を肩で結んで、かろうじて胸元を隠す応急処理も終わっている。


「みてみてフェイ!」


 レーシェが指さしたのは、砂丘を突き進む神の軍勢だ。


 自分フェイたちがオアシスに入った途端、被造獣ビーストたちが頭に「?」でも浮かべているように、きょろきょろと辺りを見回している。


 こちらを見失っている。


「ここを出るまでは見つかる心配ないってことか。なら……」


 作戦の練り直しだ。


 ピラミッドまでの距離はおそらく残り半分。ここまでに人数が十五人から十人になったことで作戦の微修正も必要だろう。


「俺たちが狙うのはピラミッド到達で、結局それって一人が達成すればいいんだよな。ってことは極論、九人が被造獣ビーストの足止めをして一人がピラミッドに直行するっていう策もアリっちゃアリか。いや、でも人数の差がありすぎるし……」


 その矢先に。


『皆さまー。給水のお時間ですよー』

『スペシャルなものをお持ちしましたー』



 茂みから、十体近くの端子精霊ミィプが飛びだしてきた。








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