第62話 ウンディーネの巨神像

 

 都市ツアー、四日目。


 神秘法院マル=ラ支部のビル、地下一階ホールで。


「来たぞ! この日が遂にやってきたな!」


 事務長バレッガが、地下の非常階段を降りてやってきた。すぐ隣に昇降機エレベーターがあるのだが、あいかわらず健康に気遣って階段を使ってきたらしい。


「竜神レオレーシェ様、フェイ氏、パール。君たちゲストを招待したこの都市ツアーも、いよいよ本番というわけだ」


「またあたしだけ呼び捨て!?」


 そんなパールの訴えは、この場の誰にも届かなかった。


「神々との知恵比べだ!」


 バレッガが指さすのはホールの中央――

 そこに並ぶのは四つの巨神像。


 秘蹟都市ルインの像はどれも巨大な竜だが、この都市の像は、精霊ウンディーネを象ったと姿らしい。


 そのウンディーネが抱えている水瓶から、まばゆく輝く水があふれ出ている。


 これが、神々の世界に続く門。


 光をくぐることで、霊的上位世界「神々の遊び場エレメンツ」に突入ダイヴできる。


「我が都市マル=ラの住民はもちろん、生放送ストリームでも世界中が見守っていることだろう。秘蹟都市ルインでも事務長ミランダが観戦しているらしい。そしてフェイ氏」


 サングラス姿の巨漢が、こちらに横目を向けた。


「君たちは現状三人チームだ。本部の定める推奨十人を満たすよう、こちらの支部からも使徒十二人を選抜した。いずれも熱意ある有望な若手だ」


「俺たちを加えて合計十五人ですか」


「そういうことになる。彼らは一足先に突入ダイヴして君らを待っている」


 予定の突入ダイヴ時間は、午後一時半。


 あとはフェイたちが巨神像に飛びこめば、そこで待ち構えている神との遊戯ゲームが始まるというわけだ。


「用意ができているならさっそく――」


「……あ、あの……事務長……」


 ホールの隅っこから上がった小声。


 私服姿のネルが、なんとも気恥ずかしげにこっそりと手を挙げていた。


「な、なぜ私がここに……引退済みの身分で、このダイブセンターに来るのは少々気恥ずかしいというか……」


「お前は観戦だ」

「も、もちろんそれはわかってますが……」


 ネルの端切れが悪いのも頷ける。


 このホールにも観戦用の大型モニターがあるが、一昨日のスタジアムにはもっと巨大な観戦モニターが常設されている。


 なぜなのだ?


 この地下ダイヴセンターは、現役の使徒しか立ち入らないのが常識なのに。


「……フェイ殿、昨日のあの話はいったい……」


「一番近くで応援するのがチームメイトだろ」

「っ!?」


不満だろうけど、今だけは応援しててくれ。一昨日のスタジアムの時みたいにさ」


「!? ど、どういう意味だフェイ殿! 昨日に続いて今日も――――」


「さあ行くわよ!」


 どこまでも澄みきったレーシェの一声が、ダイヴセンターに響きわたった。


「ゲーム開始よ!」


「ってレーシェさん、急にあたしの背中押さないでぇぇぇっ!?」


 背中を押されたパールが、転がり落ちるように飛びこんで。

 すぐ後ろに続くレーシェ。


 最後に。


「…………フェイ殿!」


 黒髪の少女が、うわずらせた声を響かせた。


「わ、私には正直……フェイ殿が何を言っているのかわからない。わからないが……ここに来た以上は腹をくくる。全力で応援させてもらうから!」


「ああ、


 一度大きく頷いて。

 フェイは、精霊ウンディーネを象った巨神像へと飛びこんだ。







 ――神々の遊び場エレメンツばくばくたる砂の古戦場」




 VS『太陽の導き手』マアトマ2世

 ゲーム、開始。

  













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