第59話 vs遊戯の貴公子ダークス12 ―Mind Arena―


『ゲーム終了』

『ダークスのライフ0。これによりフェイ・パールの勝利です』




 無言で佇むダークス。

 彼の頭上に表示されるライフが「0」へと切り替わっていた。


「や、やった? やりましたよフェイさん!」


 パールが飛び跳ねた。


「あたしたち勝ったんですよね! ここ聖泉都市マル=ラ支部の筆頭チームに、その代表二人に勝ったんですよ!」


「ああ」

「……あ、あれ? フェイさんあんまり…………あれ?」


 パールがぱちくりと瞬き。

 そしてふと、ある事に気づいてスタジアムを見回した。


 観客席からの拍手がまばら。歓声も驚くほどに静まりかえっている。


「あ……」


 パールがはっと息を呑む。

 ここは聖泉都市マル=ラにあるスタジアムで、自分たちは敵地アウェイで戦っていた。


 観客のほぼすべては――


 この都市の代表にして英雄である、ダークスたちの勝利こそを望んでいたのだ。だからフェイたちの勝利も心の底からは喜べない。  


 と――

 そう思われた、矢先のこと。




「ふっ、ふははははっ……はははははははっっっっ!」




 スタジアムに響きわたったのは、この都市の使徒筆頭たる男の声だった。


 なんとも晴れやかな清々しい笑い声。

 負けた直後だとは思えない、そんな底抜けに猛々しい笑い声を響かせて。


「なるほどな」


 腕組みし、そして大きく頷いてみせるのだが。

 ……何が「なるほど」なの?


フェイはもちろん、観客席のレーシェ、それに隣のケルリッチも不思議そうに首を傾げるなか。


「俺は理解したぞ!」


 ダークスの指先がこちらへ向けられた。




「フェイよ! やはり俺とお前は、終生のライバルとなる運命のようだな!」




 …………

「…………はい?」


「この日の戦いがまさしく運命の始まり。俺とお前の、幾万幾億におよぶゲームの伝説の始まりだったというわけだ」


「え? いや、あの……」


「百年後の歴史書にも、そう書かれているだろう!」

「どんだけだよ!?…………まあいいけどさ。俺も楽しかったし」


「やはり俺の目に狂いはなかった」


 うんうんと何度も頷いて。

 聖泉都市マル=ラの使徒筆頭は、何とも上機嫌だった。


「ゆえに見ていろ観衆たち! この戦を乗り越え、明日の俺はさらに強くなっていることを約束しよう。俺の伝説はここから始まるのだ!」


 一瞬しんと静まって。


 その直後――

 観客たちの怒濤の「ダークス!」コールがスタジアムを揺るがせた。


「あのぉ……何かあたし微妙に納得いかないんですが。なんか負けてる側のあっちの方が盛り上がってません?」


「まあ……な。楽しいゲームができたからいいけどな……」


 行こう。

 パールに目配せして舞台グラウンドから控え室に向かって歩きだす。


「フェイ!」


 その背中に、ダークスからの声が。


「また会おう。次は『神々の遊び』で!」

「ん?」


「すぐにわかる。行くぞケルリッチ」


 含みをもたせたその言葉を後に。

 黒コートをなびかせて、ダークス・ギア・シミターは舞台グラウンドから去っていった。


  

 遊戯ゲームの貴公子――


 その敬称にこれ以上ないほどの、清々しく力強い足取りで。





VS使徒ダークス・ケルリッチペア


 カード戦略型すごろく『Mind Arena』。


 攻略時間1時間5秒にて、『勝利』。


【勝利条件1】相手チームより早くゴールにたどり着くこと。

【勝利条件2】相手チームのライフを0にすること。



勝利報酬ドロツプアイテム】使徒ダークスからの生涯ライバル認定。

(入手難易度「……ダークスが久しぶりに楽しそうでした」※ケルリッチ談)






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