第56話 vs遊戯の貴公子ダークス⑨ ―Mind Arena―



「俺が罠からのダメージを受ければ敗北……だが俺は高速魔法『ダブルトラップ』を詠唱。このカードによって罠のダメージ先を変更する!」




「えっ!?」

「そうくるよな……!」


 パールが口を半開きに。

 その隣で、フェイは奥歯を噛みしめていた。


「罠を自分から踏むなんて、そのダメージを他人におっ被らせる以外にない」


「その通りだフェイ、だが言っただろう。

「っ!」


「察したようだな。つまり俺の『ダブルトラップ』で移されたダメージは、このターン、回復魔法では対応できない。パールのライフは8、そして罠からの反射ダメージは7だ。熱情の律動の追加ダメージで8となる!」


「……そのための大火球メガフレイムか!」


 罠のダメージは軽減できない。

 ただし軽減できずとも無効可能だから、パールの『漆黒の帳』ならば防げる。


 ゆえにケルリッチは先んじて『大火球メガフレイム』を撃つことで、『漆黒の帳』のバリアを消費させていた。

 完璧なコンビプレイだ。


「終わりだ!」

「いいやまだだ!」


 ダークスの言葉を遮り、フェイは吼えた。


「俺の手札が四枚になったのを忘れてもらっちゃ困る。高速魔法『双子の痛み』、これで、パールが受けるダメージの任意分を俺が肩代わりする!」 


 ダメージは軽減できない。

 だがダークスがやったように、そのダメージ対象を移し替えることはできる。


「パールが受けるダメージは3点。そして俺が5点だ!」

「……なるほど。対応する手札はあったか」


 ダークスの表情は揺るぎない。


 自分フェイの妨害によってパールを仕留め損なったにもかかわず。その瞳には圧倒的強者の光が滲んでいる。


「フェイ。お前がカードを発動するのを待っていた」

「……何だって」


「俺は高速魔法『沈黙の言葉』を発動! このフェイズ終了まで、今後お前のあらゆるカード使用を封印する!」


 ……カード使用封印!? 俺のカード使用を誘因トリガーにしたカウンターか。

 ……だけど、このタイミングで?


 第3フェイズ。

 既に全プレイヤーのターンが終了しているのに?


 フェイ  :ライフ6点、手札3枚、現在地18(ゴールまで26マス)。

 パール  :ライフ5点、手札4枚、現在地13。


 ダークス :ライフ3点、手札3枚、現在地16。

 ケルリッチ:ライフ12点、手札3枚、現在地12。


 このフェイズはもう終わる。


 定石セオリーで語るなら、このタイミングで自分フェイのカード使用を禁止する意味がない。


 だが熟練者エキスパートは――

 しばしば定石セオリーを超越したプレイを繰りだすことを自分フェイは知っている。


「フェイさん!?」

「落ちつけパール。俺一人が動けないだけで、お前のカード使用まで封じられちゃいない。何よりこのフェイズはもう終わる」


「――――いいえ」


 ケルリッチの否定が、フェイの声を遮った。


「言ったでしょうこのフェイズで終わりだと。フェイ、カード使用を封じられたあなたは、もはやパールを救えない」


「なにっ」

「フェイズ終了につき、私の時限魔法を開示オープン!」


 裏向きのカードが翻る。

 その正体に、フェイとパールの表情は同時に凍りついた。




 時限魔法『運命』――


 ①フェイズ終了時、全プレイヤーは引いた手札の数だけダメージを受ける。

 ②引いた枚数が「4」以上だった場合、当該プレイヤーは10点のダメージを受ける。このダメージは軽減できない。



 

 ……そういうことか!

 ……ダークスが罠マスを選び、ケルリッチが黄金マスを選ばなかった真の理由!


 この時限魔法きりふだのため。

 カード獲得をあえて抑えたのだ。


 フェイ3枚(黄金マス+『絶対平等資本』で1枚)。

 ダークス2枚(『絶対平等資本』で2枚)

 ケルリッチ2枚(青マス+『絶対平等資本』で1枚)


 そして。


「…………そ、そん……な……」


 金髪の少女の唇が、みるみると血色を失って青ざめていく。


 


「悟ったようですね。私たちが、あなたに大量のカードを引かせた真の理由。すべてはこのフェイズ終了のための布石」


 パールの眼前で。

 場に置かれた時限魔法『運命』に、炎が灯った。


「このダメージは回復魔法では防げません。それともパール、あなたの手札にダメージの対象を移し替えるカードはありますか?」


「…………」


 パールが唇を噛みしめる。

 その沈黙が答え。


「無いでしょうね。やはりフェイを封じておいて正解でした」

「っ!」


 カードが光り輝いた。

 軽減不可能の10点ダメージがパールへと迫って――


「これにて私たちの勝利です」


「あたしは……あたしは、いつまでもフェイさんたちの足手まといじゃない! まだこのフェイズは終わらない! 終わらせません!」


 パールが吼えた。

 その手で、手札四枚の左端を指さして。


「これがあたしの切り札。高速魔法『死亡遊戯ラストダンス』を詠唱!」


「なっ!?」

「それは……!」


 ダークス、ケルリッチの双方が身構えた。

 危険を察したのだ。


 この第3フェイズの終了とともにパールの敗北は確定する。だがこのカードには、その運命さえ覆す可能性が確かにある。


「高速魔法『死亡遊戯ラストダンス』で、あたしだけが追加の一ターンを得ることができます!」


「……悪あがきを!」


 パールを睨みつける褐色の少女。


「強いカードには代償リスクがある。この追加ターン内であなたが勝利できなかった場合、あなたは20点のダメージを受けて敗北するのですよ! 相方フェイがカード使用を封印された今、あなた一人で私たちのライフを削りきるとでも!」


「……負けることは怖くない」


 金髪の少女が奥歯を噛みしめ、顔を上げた。 


「あたしが恐れるのは、ゲームから逃げてた自分のままで終わること! ここで逃げたら、何も変われないから!」




 これが。

 勝者と敗者をわかつ、最後の攻防ターン




ゲーム『Mind Arena』


【勝利条件1】追加ターン内に、ゴールに到達すること。

【勝利条件2】追加ターン内に、ダークス・ケルリッチどちらかのライフを0にすること。


【敗北条件 】勝利条件を達成できなかった時。

※『死亡遊戯(ラストダンス)』による代償ペナルティーダメージ20点によりパール脱落。





 ――『死亡遊戯ラストダンス』発動。



 ――パール・ダイアモンド、全ライフを賭した最終ターン開始。












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