第55話 vs遊戯の貴公子ダークス⑧ ―Mind Arena―


!……自分から罠を踏んでダメージを受ける気ですか!?」



 そう。


 フェイが進む先には青マス。

 パールは黄金マス。

 ケルリッチは青マス。


 そしてダークスが進む先は、まさかの紫マス(罠マス)なのだ。


「すぐにわかる」


 パールに対する、ダークスの鋭利なまなざし。


「さあフェイ、パール。お前たちが先にターンを済ませてもらおう」

「……え、ええと……」


 パールの視線が宙を泳ぐ。

 ここに来てターン先行が災いした。


 ダークス・ケルリッチペアが後攻である以上、あの罠を踏むという仕掛けから何を繰りだしてくるのかわからない。


「で、ではあたしのターンから!」


 パールがすごろく盤を勢いよく歩きだす。 

 その一瞬、ちらりと振り向いて後方のケルリッチを盗み見たのは、彼女の狙いを量りかねているからだろう。


 手札補充のために黄金マスは最善手。


 だから潰し合いも覚悟でケルリッチは6を出してくる。その予感が、まるで見透かされたかのように躱された。


「あたしは黄金マスで二枚のカードを引き、そのうちの一枚を使います。大魔法『パールバリア!』を展開!」


 おい。

 またか。


 フェイを含むスタジアム全員のツッコミが、心の内で重なった。


「パール……一応聞いておくけど、それも正式名称じゃないよな?」


「『漆黒の帳』というらしいです。このターン、これから受ける魔法一つを無効化します!これにてあたしは終了です」


仲間おれを混乱させてどうするんだよ……まあいいや。次は俺のターンだ」


 フェイが進んだ先は青マス。

 ここで初めて旅人の能力が活用できる。


「俺は、旅人の能力をここで使う。自分が出した賽子ダイスカードに+1マス。これで計7マス進ませてもらう」


 七マス目にあるのは黄金マス。

 パールと同じく二枚のカードを引き、これで手札は三枚。


「ターン終了だ」

「手札の温存ですか。妥当な策ですね」


 答えたのは、次に自ターンとなったケルリッチだ。  


「パール、あなたの大魔法も先読みとしては正解です。後攻を選んだ私とダークスが何かを仕掛けると踏んだ。ですが、それではまだ足りない」


 コツッ。

 褐色の少女が靴音を立ててすごろく盤を進んでいく。


 青マスに止まり、魔法カードを一枚引いて。


「フェイ、パール。あなた方の選択は間違っていない。ですが、たとえ正解を選んだとしても既に勝敗は決しているのです」


 その華奢な指先でカードを指さして。


「私は、『大火球メガフレイム』を詠唱」


「っ! あたしのパールファイア!?」

「『大火球メガフレイム』です」


 パールの訴えは無視された。


「対象はもちろんパールあなた

「そ、そう来ると思ってましたよ! ですが、あたしがパールバリアを展開したのを忘れてもらっては困ります!」


「『漆黒の帳』のことならそれも計算の範疇です」


 二つの魔法が消滅。

 その映像には見向きもせず、ケルリッチが自らの手札に目をやった。


「私の残り手札は四枚。ここで終了と言いたいところですが……私は最後にこの大魔法、『絶対平等資本』を詠唱します。全プレイヤーは手札が四枚になるまでカードを引くか、四枚になるまでカードを捨てて頂きます」


「っ!? ど、どういうことです?」


「あなた方は手札が四枚になるまでカードを引いて結構ですよ。最後に、私は、この時限魔法をセットします」


 ケルリッチの手札の一枚が、裏向きのままフィールドの中央へ。




 時限魔法「???」――フェイズ終了時に開示される。効果不明。




「パール」

「な、何ですか!?」


「私の詠唱した『絶対平等資本』で、私たちは計三枚、あなた方は計四枚のカード増加になりました。あなた方に有利なトレードと思うでしょう?」


「……違うとでも?」


「実際その通りです。ただし、あなたに次のターンが回ってくればの話です。次のターンが回ってこなければ引いてカードも意味がない。なぜならば、この第3フェイズですべてが終わるから」


 既に三人のターンが終了した。

 残すは――


「俺のターンだ」


 黒のコートを大きくなびかせて、肩で風を切るようにダークスが歩を進めていく。

 紫に塗りつぶされた罠マスへ。


「魔法カードが入手できず、自身は大ダメージを受ける。ここは損失デメリツトしかないマスだと、そう思っているだろう?」


 長身の青年が振り返った。


「この『Mind Arena』は、プレイヤーが好きな出目を出すことができる。自分の意思で罠を回避できる分、踏んでしまった場合の代償ペナルティーは高くつく。基礎ダメージが高い上に、何より厄介なのが、ことだ」


 その声音に滲む、勝利の自信。



「ゆえに知るがいい。この罠マスの真の扱い方というものを」















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