第57話 vs遊戯の貴公子ダークス⑩ ―Mind Arena―


 ――『死亡遊戯(ラストダンス)』発動。


 ――パール・ダイアモンド、全ライフを賭した最終ターン開始。




 ……この遊戯の勝利方法は二つ。

 ……だけどゴールまでは30マス以上。このターン内じゃ実現不可能だ。


 つまり自分たちの勝利ルートは一つきり。

 ダークスかケルリッチ、そのどちらかのライフを0まで削りきること。


 ただしパール一人で。


 ――拳を握る。

 大歓声がスタジアムに満ちるなか、フェイは、相方である少女の背を見つめた。


 ……

 ……あとは信じるだけだ。俺が選んだ相方を。


 この最終ターン。

 自分たちが溜めていたライフも手札も作戦も、「全て」を出し尽くせるように。





「あたしのターン!」



 パールの宣言とともに賽子ダイスカード、開示オープン


 パールが出した目は「6」。止まった青マスでカードを一枚追加。

 これでライフ3、手札は5枚。


「結界『怨嗟の鎖』をお忘れなく。あなたが使えるカードは一枚までです」


「それなら回復すればいいのです! あたしは大魔法『命の鼓動』を発動、ライフを4点回復しますが、現在ライフが3を切っている時にかぎり回復するライフは9点です!」


 怨嗟の鎖、熱情の律動の効果が発動し――

 パールのライフは残り11。


「信じろパール、全部使い切れ!」

「はいフェイさん!……あたしの手札にある攻撃カードは三枚。攻撃するのは、もちろんライフの少ないあなたです!」


 黒コートの青年を指さして。


「まず一枚目、大魔法『カウンターボルト』! 4点の基礎ダメージに加えて、熱情の律動の追加ダメージで計5点です。これが通れば――」


「ならば俺は高速魔法『応急処置ファーストエイド』により、そのダメージを軽減する」


 ダークス、残りライフ1。


「……あたしの攻撃魔法はまだ残ってます!」


 パールの手札はあと三枚。


「あたしの『パールファイア』、これが通ればお終いです!」

「私をお忘れですか?」


 ダークスを庇うかたちで。

 額にかかった青髪を振り払い、ケルリッチが前に進みでた。


「高速魔法『聖者のほどこし』を二枚使用します。ダークスと私に与えられるダメージを最大6点まで軽減。その余剰軽減分のライフを回復します」


「っ!」

「軽減できてしまうダメージが、この期に及んで私たちに通るとお思いですか?」


「……いいえ」


 パールが、弱々しく首をふる。


「わかっていました。あなたたちの手札の中にダメージ軽減のカードがあることなんて。だからあたしは、それが尽きるまで待っていたんです!」


 パールの指さしたカードが翻った。


 大魔法『古の言葉』――このフェイズに使用された攻撃カードの総数に等しいダメージを加える。


「あたしの与える総ダメージは7点! これで勝利です!」 

「――――」


 ダークスは沈黙。


 会場の観客が固唾を呑んで見守るなか、なんとこの男は突如として腕組みし、そして目をつむってみせたのだ。


「……な、何ですか!?」

「見事なゲームプレイだ」


 目を閉じたまま。

 ダークスが、静まりかえる会場でそう口にした。


「この最終ターン。相方であり本命であるフェイは動けない。その状況下、お前一人で、俺とケルリッチをここまで攻め立てることは想像できなかった。お前は、フェイの足手まといではない」


「……そ、それが敗北宣言ですか!?」


「一手差だ」


 ダークスの手札が、浮かび上がった。


「俺は残った手札を捨てて、高速魔法『運命転換』を発動! 俺が受ける全ダメージを、相方に移し替える!」


「なっ!?」

「ケルリッチの体力は8。受けるダメージは7点。よって俺たちは両方が生還する」


 ダークス残りライフ1、手札0。

 ケルリッチ残りライフ1、手札0。


 正真正銘、極限まで互いの資源リソースを使い果たした最終ターンと言えるだろう。追い詰めた、その言葉に誰一人として異論はない。



 だが――

 使



 これ以上、ダークスとケルリッチに対してダメージを与える手札はない。


「……あたしの……ターンは……終わりです」


 出し尽くした。

 パール自らの宣言によってターン終了は確定した。


 そしてパールは『死亡遊戯ラストダンス』の代償ペナルティーである20点を受けて、ライフ0。フェイたちのチームの敗北となる。


「……ごめんなさいフェイさん」


 パールがふっと微笑んだ。

 すべてを出し尽くして戦った、疲労困憊の姿でもって。


「あたし、フェイさんに頼らずに勝とうと頑張ったけど……まだ未熟でした……」


「なに言ってんだ」


 そんな金髪の少女へ。

 フェイは、とびきりの微笑でもって応じてみせた。


 十分だ。

 十分すぎる。




 いま――


 勝利に向かう最後の一手が、完成した。






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