第52話 vs遊戯の貴公子ダークス⑤ ―Mind Arena―



「パール!」




 隣の相方に向けて、フェイは叫んだ。


「迷うな、!」

「は、はい!」


 全プレイヤーの賽子ダイスカード、開示オープン


 四人が出した数字に、観客がどよめいた。




 ――フェイ「6」、ダークス「6」、ケルリッチ「6」、パール「3」。




 フェイとダークスが再び青マスで潰し合い。


 だが真に注目すべきは、後者。


 前フェイズで4を選んだパールが3。前フェイズで1を選んだケルリッチが6。

 つまり合計7マス目。


 パールとケルリッチが、二つ目の黄金マスに並び立ったのだ。偶然ではない。明らかに、こちらも


「……っ」


 褐色の少女が、ぴくりと眉を動かした。

 水のように涼しげだったまなざしが、ここでわずかに揺れた。


「狙ってきましたね。私が黄金マスを片っ端から狙っていくのを見越して、同じマスを選んで手札補充をさせない気ですか」


「と、当然です!」


 ケルリッチをにらみ返すパール。


「魔法使いの火力は脅威ですが、魔法カードがなければ使えません。あなたがどのマスを選ぶのか、当然に黄金マスを狙ってくるのは読めました!」


 フェイとダークスが同じ青マス。(12マス目)

 パールとケルリッチが同じ黄金マス。(7マス目)


 止まるマスが互いに重なったことでカードは入手できない。手札に残っているカードも使い続ければいずれは尽きる。


 これは、ゴール戦略を狙うフェイとパールに有利に傾く。


「二ターン目で対応したのは見事です。だから私は宣言しましょう。私は次から黄金マスを狙いません」


「……何ですって」


「次から私の狙う目が読めないでしょう? 意図的にマスを重ねることができない以上、私のカード入手を妨げる手立てはありません」


「……そ、そんな心理戦には乗りませんってば!」


 パールが奥歯を噛みしめた。

 相手の言葉に呑まれまいと、自らを鼓舞するように片手を振り上げる。


「あたしだって攻撃しますよ! 高速魔法『パールファイア』で!」


 ……パールファイア?

 フェイ、ダークス、ケルリッチ。それに観客席が一斉に首を傾げた。


 


 聞いたことがない上に、そもそもパールの名前がついたカードがあるのか? 


「なあパール、それは……」


 訊ねるフェイの目の前で、パールの指さしたカードが表向きにひっくり返った。


 大火球メガフレイム

 対象のプレイヤーに2点を与える、と書かれたカードが。


「カード名違うじゃん!?」


「いいえフェイさん、これは『パールファイア』です、大火球メガフレイムなんて格好悪い名前では、あたしを満足させることはできません!」


「いや格好いいかどうかじゃなくて、仲間の俺が混乱して困るか――――」


「というわけでパールファイア!」


 立体映像の炎が吹き荒れた。

 ダークスに3点ダメージ。


「ふふん? どうですかフェイさん、通常2点の大火球メガフレイムも、パールファイアと名付けることでダメージアップです!」


「……一応言っておくけど『熱情の律動』の追加ダメージな。あとパール、わかってると思うけどお前も2点ダメージ食らうぞ」


「へ?」


 瞬間、パールの目の前で火花が迸った。


「きゃぁっ!? な、なんですか!」


 結界魔法『怨嗟の鎖』、発動。


 カード使用が誘因トリガーとなり、パール自らが1点のダメージを受ける。さらにこのダメージ発生を誘因トリガーに、『熱情の律動』が追加で1点だ。


「ど、どうしましょうフェイさん!? あたし……ライフを守るはずがまた2点も失ってしまいました!?」


「……忘れてたのか」


 結界『怨嗟の鎖』と結界『熱情の律動』。


 この二つが場にあるかぎり、手札を消費するごとに2点ダメージが発生する。


 魔法使いの火力に抵抗しようとこちらも反撃すれば、ますます自分のライフ減少を早めてしまうことになる。 


「ああそっか。手札を使うたびに2点ダメージってことは、ライフを2点回復する魔法を使っても差し引きゼロになるな。1点回復ならむしろ逆効果だ」


「っ!? 治癒士のカウンターじゃないですか!?」


「パール、お前もああいう結界魔法ないか? たとえば手札を引くたびにライフを回復するなんてのは」


「……っ。引けてません」


 パールが奥歯を噛みしめる。


「フェイさんは?」

「俺もだ」


 自分フェイの手札は五枚。

 回復カード二枚、移動カード一枚、そして


 ……俺もパールも、結界魔法は引けてない。

 ……できれば相手の結界どちらか一つは潰したいところだけどな。


 特に厄介なのが『熱情の律動リズム』だ。


 魔法使いの秘奥だけあって、こちらの想定したダメージ計算が大きく狂う。だが、まだ対抗できるカードは引けていない。




 さあ――


 場を支配する二枚の結界カードに、どう対抗する?










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