第53話 vs遊戯の貴公子ダークス⑥ ―Mind Arena―
「私とダークスのターンですね」
ケルリッチの視線に、鋭さが増した。
「パール、あなたの高速魔法に割り込みされましたが、ここからは『6』を出した私とダークス、そしてフェイのターンなのをお忘れなく」
「俺から行くぞ!」
ダークスが、自らの手札を指さした。
「パールとやら。お前から受けた痛みをそっくり返してやろう。俺は『ダークスサンダー』を詠唱する!」
…………
……しん、と静まる会場。
ダークスサンダー?
またしても聞いたことのないカード名が登場だ。もちろんフェイやパールは知らないし、会場の観客たちも困惑気味でざわめくなか――
「…………
相方の少女ケルリッチが、消え入りそうなほどの小声でそう呟いた。
恥ずかしそうに赤らめた顔で。
「……たぶん、先ほどのパールファイアへの対抗心かと……ダークスは負けず嫌いなので」
「パールとやら」
ぎらり、と。
ダークスの熱いまなざしが金髪の少女に向けられた。
「驚いたぞ。今まで何十戦とこの『Mind Arena』で戦ってきたが、カード名に自分の名をつけた者は初めてだ。その類い希なアイディア、見事とほめてやろう」
「そうでしょう!」
「ならば俺も受けて立つ。俺はこのカードを『ダークスサンダー』と名付ける!」
張り合うんだ?
あと
そんなフェイの小声の呟きは、スタジアムの歓声に掻き消された。
ダークスサンダー(※
合計6ダメージ。
「ってあたしの体力もう残り8点じゃないですか!? まだ始まって二ターン目なのに、これじゃあ次かその次で本当に追い詰められて――」
「追い詰められる? いいえ」
ケルリッチが、自らの手札を指さした。
「当然に二フェイズキルのつもりです。パール、私が6を出してあなたは3を出した。私に先行ターンを許したのが判断ミスです。大魔法『天の振雷』を詠唱。私自らが2点のダメージを受けるかわり、対象プレイヤーに4点のダメージを与える」
「……4点!?」
パールの声が裏返った。
基礎ダメージ4点に加えて、魔法使いと熱情の律動の各効果がさらに追撃。
「7点のダメージを受けてもらいます。あなたの残りライフは1になる」
「あ、あたしだって高速魔法があります!」
パールの叫び。
「回復魔法『富を希望に』! あたしの手札を一枚ゲームから除外します。そのうえで、残り手札×2までのダメージを軽減します。このカードを含めてあたしの手札は4枚。これで最大8点までのダメージを軽減!」
「引っかかりましたね」
「え?」
「――『強欲の代償』、発動」
黒コートをなびかせた青年の、厳かなる言葉。
「相手が回復魔法を詠唱した時のみ発動可能、その回復を打ち消して無効にする」
「っ!?」
「回復魔法を使わせたのはわざとです」
ダークスの言葉を継いだのは、褐色の少女ケルリッチだ。
「あなたの魔法は無効化された。これで私の7点ダメージが通り、あなたのライフは1。さらにあなたが使った『富を希望に』により、結界魔法『怨嗟の鎖』が発動。あなたは追加で2点のライフを失う」
回復魔法をわざと消費させたのだ。
その手札消費が
宣言どおりの二フェイズキル。
「それともパール。残る三枚の手札に、まだ高速魔法が残っていますか?」
「……そ、それは……!」
「無ければお終いですね」
法廷で罪状を読み上げる裁判官のごとく。
定められた「敗北」を突きつける褐色の少女。
「『怨嗟の鎖』の2ダメージを受けて、パール、あなたの体力は尽き――――」
「焦るなよ」
その罪状を。
フェイは、自らの手札を指さすことで覆した。
「パールの手札に無いからって、俺に残ってないと誰が決めた? 高速魔法『心に包帯を』。対象プレイヤーへのダメージを軽減する!!」
「……邪魔をっ!」
「こんな早くゲームが終わったらつまらないだろ?」
パールの残りライフ、1点。
致命傷すれすれでの生還だ。
……わかっちゃいたけど向こうの戦術は火力特化型。
……パールに集中砲火するのは当然だな。厄介だけど理に適ってる。
このゲームの勝利条件は二つある。
味方のどちらかがゴールに到着するか、相手どちらかのライフを0にすること。
ライフを0にする標的は一人でいい。
ならばライフが減っていたパールに、ダークスとケルリッチ二人分の火力を集中するのは
だが
「やはりそう簡単には終わらせないと。だがフェイ、この場では味方を助けることが自らを苦しめることを忘れるなよ!」
ダークスの指が突きつけられた。
「お前が手札を消費したことで、結界魔法『怨嗟の鎖』が発動。『熱情の律動』と合わせて2点のダメージを受けてもらう!」
「望むところだ」
「なに?」
「俺は、俺自身が受けたダメージを
天軍の剣――
自身がダメージを受けた時にのみ発動可能。対戦相手に5点のダメージを与える。
「ダークス、計6点のダメージを受けてもらう」
「……何ですってっ!?」
ケルリッチが瞼を見開いた。
「まさか先ほどの回復魔法、そこまでを計算して……」
そう。
この『天軍の剣』は、本来フェイの手札で「死に手」だった。
自分がダメージを受けた場合のみ発動可能の大魔法。そしてダークスとケルリッチは、ひたすらパールを集中砲火した。
攻撃されないフェイは、このカードは永遠に使えないはずだった。
「その『天軍の剣』は、攻撃を受けた時の反撃用。まさか『怨嗟の鎖』からの被ダメージを
押し殺した声の、ケルリッチ。
「……そしてフェイ、あなたの自ターンは終了ですか?」
「いいや。俺はもう一つ、大魔法『魂の犠牲』を使う。俺の手札から不要なカード一枚を捨てる。『魂の犠牲』と合わせて二枚を
集中砲火を受けるのはパール。
ならば道理は単純だ。こちらも回復をパールに集中すればいい。
「パール、ターン交代だ」
「え? あ、はい!」
パールの手札は三枚。
高速魔法こそ無いが、自ターンのみ使える大魔法は残っている。
「あたしは大魔法『オアシスの水』を二枚詠唱して、ライフを8点回復します。治癒士の能力を足して計10点です!」
ただし、このカード消費にも『怨嗟の鎖』・『熱情の律動』が発動する。
パールが回復するのは差し引き6点。
「あ、あたしは行動終了です!」
第2フェイズ終了時。
フェイ―― ライフ13点、手札1枚、現在地12(ゴールまで32マス)。
パール―― ライフ10点、手札1枚、現在地7
ダークス―― ライフ7点、手札2枚、現在地12
ケルリッチ――ライフ16点、手札4枚、現在地7
この「手札」と「ライフ」の差が。
両チームの勝敗を分かつ、運命の引き金――――
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