第50話 vs遊戯の貴公子ダークス③ ―Mind Arena―
四人の
――フェイ「6」、ダークス「6」。
――パール「4」、ケルリッチ「1」。
フェイとダークスの数字が重なった。
観客のざわめきが轟くなか、自信ありげに頷いたのはダークスだ。
「やはりなフェイ。お前ならば臆せず6を選ぶだろう。ゴールに到達するのにもっとも大きい数を選ぶのは道理」
「お互い様だろ?」
フェイとダークスは6マス進むが、止まる青マスが重なったことで魔法カードを引くことができない。
パールは4マス進み、青マスで止まって魔法カードを一枚獲得。
そして厄介なのが――
「予定通りです」
黄金マスはカードを二枚引く。
そこを選んだケルリッチには、初期五枚に加えて計七枚もの魔法カードが。
……なるほど。ゴールする気は甚だないと。
……黄金マスだけを狙ってカードを補充する気か。
そして彼女の
攻撃カードのダメージを上げる火力特化型だ。
「このゲームは、
ケルリッチのまなざしが、こちらへ。
「フェイとやら。『6』を出したあなたとダークスが先手です」
「わかった、じゃあ俺から……」
手札五枚をあらためて一瞥。
一ターン目でダークスは「6」を出し、ケルリッチは「1」を選んだ。
ここから、両者の狙いが推測できる。
……ダークスの
……並行して、相方のケルリッチが黄金マスで手札を稼ぐ。
一方で、こちらも作戦は固まっている。
ゴール到達という勝利方法に適した
ならば対抗するには?
考えろ。
今後起こりうるあらゆる駆け引きを、想定し尽くせ。
「ダークス、一つ質問がある。このゲームは2VS2のチーム戦だよな。
「その通りだ」
「ってことは俺とパールは一蓮托生だ。互いの手札を交換するのはアリか?」
「認められません」
いかにも事務的な口ぶりで、褐色の少女ケルリッチが進み出た。
「プレイヤーのライフと手札は固有です。なお手札交換は、魔法カードにそうした効果のものがあります。それを引くことができたらご自由に」
「了解。俺も試しに訊いただけだ」
小さく頷き、ごくわずかな黙考。
その一瞬――
パールに対してわずか一瞬だけ目配せしたフェイの挙動を、スタジアムの観客は誰一人気づかなかったことだろう。
「俺はターンエンドだ。様子見でいい」
「まずは手を隠すか。だがフェイ、一つ教示してやろう。このゲームで受けに回るは悪手だ。特に魔法使いの
ダークスの咆吼。
「俺のターン! 俺が使うのは魔法使いの秘奥スペルだ!」
「っ、いきなりか!?」
数あるカードの中でも最上位にあたる「秘奥」。
魔法使いの秘奥なら、
「見せてやろう、俺は結界魔法『熱情の
フェイとパールの見上げる前で――
AR映像によってスタジアムが炎に包まれた。
『熱情の
ただそれだけだ。
魔法使いの秘奥なら、さぞかし恐ろしい特大ダメージに見舞われるはず。そう覚悟していたらしく、パールはむしろ拍子抜けした表情だ。
「……あ、あのぉ……」
パールがおずおずと手を挙げて。
「テキスト確認です。この『熱情の律動』ってカードは、追加ダメージを受けるのはあたしたちだけですよね」
「違う」
「……はい?」
「このカードは全プレイヤーが対象。つまり俺が攻撃されれば、俺も追加ダメージを等しく受ける。諸刃の剣となる効果だ」
「えっ? ど、どうしてですか!」
狐に摘ままれたようにパールが口を半開きに。
どういうことだ?
魔法使いは敵を倒して勝つのが勝利パターン。なのに、自分までダメージを受けるようなカードをなぜ発動させたのか?
「俺のターンは以上だ。パールとやら次はお前だ」
「あ、あたしのターンは……あたしも手札は温存します!」
「では最後に私の番ですね。さて」
ケルリッチの手札は七枚。
自ら出目「1」を選択してまで黄金マスに止まり、魔法カード二枚を引いた。そこからどんな魔法が詠唱されるのか。
「お見せしましょう」
ケルリッチの手が大きくひるがえる。
目の前に浮かぶ七枚の手札を指さして。
「正真正銘、今度こそ攻撃魔法です。私は『双雷撃』を詠唱。フェイとパールあなた方に1点ずつダメージを与えます」
「……あ。なんだ1点ですか」
パールがほっと胸をなで下ろす。
なにしろ初期ライフは20点。1点のダメージなど微々たるもので――――
「いや、違う」
「え?」
「……なるほどね。パールこれやばいぞ。『熱情の律動』、魔法使いの秘奥カードってのは伊達じゃない」
冷たい汗が頬を伝っていく。
その汗を拭う余裕もないままに、フェイは頭上の電子ボードを見上げた。
――『フェイに4点の攻撃。残りライフ16点』。
――『パールに4点の攻撃。残りライフ16点』。
「は、はいぃっ!? ど、どういうことですか! だ……だって1点のダメージしか受けないはずの魔法カードですよ!」
パールが両手を振り回して必死の抗議。
「計算が間違ってますよ!」
「落ちつけパール、ダメージ計算は適正だ。魔法使いは、ダメージを与えたら1点の追加ダメージがある。そこに『熱情の律動』のダメージ1点が加算される」
「そ、そうですが……それでも3点のはずじゃあ……」
「いや4点だ」
「どうしてです!?」
「熱情の律動の効果が二回発生したんだよ。攻撃魔法のダメージと魔法使いのダメージそれぞれで」
つまり、こうだ。
①:双雷撃の1点ダメージ。
②:ケルリッチの魔法使いの能力が発動して1点追加。(計2点)
③:①のダメージを
④:②のダメージを
そう。
この「熱情の律動」という結界魔法は、魔法使いの能力と噛み合わせることで極悪の火力コンボを生みだすのだ。
本来、双雷撃のダメージは合計2点。
だがこのコンボで、ダメージは計8点にまで爆発的に膨れあがった。
「しかも永続的にだ。割と洒落にならないかもな」
「そ、そうでした……これ、あたしたち毎回同じダメージ計算でライフを削られていくんですよね……!」
その瞬間。
フェイたちへの大ダメージが表示された途端、何万人という観客の喝采が、スタジアムを揺るがせた。
空が割れんばかりの「ダークス!」コールが。
「わ、わわっ!? やっぱりあたしたち完全に
「そりゃあな」
事務長曰く、
都市のプライドを背負った
……俺らがダメージを受けて、ダークスたちが優位に立つ。
……そりゃあ観客からしたら盛り上がりどころか。
予想できていたことだ。
「パールも気にするな。ゲームを楽しめるなら構わないだろ?」
ゲームに集中しよう。
そう自らに言い聞かせようとしたフェイの、すぐ背後から。
「が、がんばれ! フェイ殿!」
観客席の最前列で、拳を握りしめる黒髪の少女がいた。
ネル・レックレス。
つい先ほどスタッフ通路を走って行った少女が、必死の形相で声を張り上げていたのだ。
「ネル?」
「お、応援させて頂くと言っただろう!……そりゃあ何万人の応援には勝てないが、せめてフェイ殿の戦いを見届けさせてもらうから!」
「……そっか。よくわかった」
「な、なんだフェイ殿?」
「あんた変わり者だけど良い奴だな。ありがとう」
ふっと微苦笑で手を振り返す。
「…………はうっ!」
「っておい!? ネル!?」
気絶した。
ネルが胸の辺りを押さえて、観客席の手すりに寄りかかってくずおれていく。
「くっ。す、すまないフェイ殿。まさかの突然な告白に耐えきれず……」
「俺がいつ告白したんだよ!?」
「…………ふぅん」
じーっと。
とても冷たい目でこちらを見つめてくるレーシェが、いつの間にか、そんなネルの隣の席に座って腕組みしていた。
なぜか、とても高圧的なまなざしで。
「フェイ」
「……な、何かなレーシェ」
「応援はわたしがしてるから。わたしがね。だからゲームに集中しようね?」
「……はい」
にっこりと微笑むレーシェ。
有無を言わさない神のまなざしに背中を刺されて、フェイは頷いたのだった。
そして――
ケルリッチのターンはまだ終わらない。
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