第49話 vs遊戯の貴公子ダークス② ―Mind Arena―


 カード戦略系すごろくゲーム『Mind Arena』――


 

 これは、「サイコロを使わないすごろく」だ。

 全プレイヤーは、



「まずはクラスを選べ。俺とケルリッチは既に決めてある」


 ダークスの言葉と共に、空中の電子画面が切り替わった。


 先ほどフェイたちが見上げていた『基本ルール』の説明ページ。

 そこに再びクラスが表示されている。



  魔法使い:「攻撃」魔法を使用時、追加で+1ダメージ。

  旅人  :賽子ダイスで進む時、+1マスを選んでもいい。


  罠細工士:罠マス無効。かつ、自分が踏んだ罠を強化できる。

  治癒士 :「回復」魔法を使用時、「+1点」の効果を得る。



 レーシェが言ったとおり。

 この遊戯はおそらく、どのクラスを選ぶかで最適な勝利ルートが大きく変わる。


 大事なのは、フェイとパールのクラスの組み合わせだが。


「フェイさん、どれがいいとか決めましたか?」


「そうだな……ぱっと見、能力がシンプルなのが『魔法使い』と『治癒士』だよな。要するに攻撃特化と回復特化ってことだろ? で、応用の幅が広そうなのが『旅人』と『罠細工士』だよな。俺はこのどっちかにしたいけど、この二つのクラス


「……へ?」


 パールが呆気にとられた表情で。


「魔法使いと治癒士が逆なのはあたしにもわかりますが……旅人と罠細工士ってそんなに正反対ですか?」


「ああ。もうヤバいくらい正反対だろ。旅人と治癒士が同じグループで、罠細工士は魔法使いと同じグループだ」


「?」


 パールがきょとんと瞬き。


 旅人と治癒士が同じグループ?

 さらには罠細工士と魔法使いが同じグループ?


「フェイさん、ぜひご説明を……」


「勝利方法だよ。旅人はゴールに早く到達できる。治癒士も、自分のライフを守りきる=ゴールに到達して勝つための能力だろ。だからこの二つは『ゴールにたどり着いて勝つ』作戦を有利にするクラスになる」


「……あっ!? そ、そうですね!」


「それと正反対なのが魔法使いと罠細工士だ」


 わかりやすいのが魔法使いだ。


 魔法カードの火力増大ダメージアツプ。つまり「相手がゴールにたどり着く前にライフをゼロにする」。


 そして罠細工士もそう。


 注視すべきは「自分が踏んだ罠を強化する」。これは明らかに罠の大ダメージを相手に与えることが意図された能力だ。


「俺たち、クラスを決める前に、どっちの勝利プランを狙うか決めないとな」


「……ゴール到達を狙うなら治癒士か旅人で、相手を倒したいなら魔法士か罠細工士かというわけですね?」


「そういうこと。向こうはもう決まったみたいだけどな」


 フェイが見つめる先には、無言でこちらを見据える黒コートの青年。

 その不敵なまなざしを見返して。


 ……ほんと、わかりやすい表情してるよな。

 ……ゴール到達なんて悠長な勝利、さらさら選ぶ気ないんだろ?


 狙いは明確。

 ならばこちらが選択するものは――


「受けて立つよ」


 ダークス、そしてケルリッチ。

 聖泉都市マル=ラを代表する二人に、フェイは頷いてみせた。


「俺が選ぶのは『旅人』だ!」

「あ、あたしが選ぶのは……『治癒士』です!」


「なるほどな」


 ダークスが満足げに首肯。


「俺たちの勝利プランは察したか。ならば、俺のクラスは魔法使いだ!」

使


 続くケルリッチ。

 その言葉に、フェイは一瞬我が耳を疑った。


「……両方とも魔法使いか?」


 


 ケルリッチが魔法使いを選ぶのはわかる。


 だが自分フェイは、ダークスは罠細工士を選ぶと踏んでいた。

 クラスを分けることでゲームプランの幅が広がる。それを、この二人はあえて火力特化に戦略を絞ってきたのだ。


 ……魔法使いは、完全な火力特化のクラスだ。

 ……俺たちのライフを削りきる。それ以外の勝利プランを全部捨てやがった!


 究極の殺意だ。

 自分たちを絶対にゴールまでたどり着かせないという、これ以上ない意思表示。



『ゲーム開始による魔法カード・シャッフル――』



 運営オペレーターからの音声。


『これから皆さまに魔法カードを配布します』

『なお、このゲームはプレイヤー全員が一つのデツキからカードを引きます。使用し終えたカードは共通の封印庫ハンガーに格納されます』


「わっ!? す、すごいですフェイさん、あたしたちの目の前に……!」


 パールが興奮口調で目の前を指さした。

 映像化されたカードが十一枚ずつ、フェイとパールの前に投影されたのだ。


 魔法カードが五枚。

 そして1,2,3,4,5,6,と描かれた数字だけの賽子ダイスカードが六枚。


「ん? ああ、これがサイコロの代わりか。『全プレイヤーで1~6までの好きな数を選択する』っていう賽子ダイスカードだよな」


 どんな数字を出していい。

 6を出せば6マス進むし、1を出せば1マスしか進めない。


 そしてゴールを目指す『すごろく』である以上、当たり前のように6を選択するのが最適解に見えるのだが……


「あぁぁっ! あ、あたし凄いことに気づいてしまいました!」


 パールが素っ頓狂な声をあげた。

 彼女が指さしたのは、舞台グラウンドに描かれた巨大な盤面だ。すごろく盤だけあって何マス先に何があるのかすべて一望できる。


 1マス目:黄金マス(カードを2枚引ける)

 2マス目:紫マス(罠マス。ここで止まると大ダメージ)

 3マス目:青マス(カードを1枚引ける)


 4マス目:青マス

 5マス目:罠マス

 6マス目:青マス


「この一ターン目。6を出すのがゴールへの最速ですが、このゲーム、んですね!」


「……カードが引けなくなるな」


 基本ルールの通りだ。

 青マスと黄金マスは、二人以上が同時に止まるとカードが引けない。


 自分フェイとパールが目先のゴールだけを考えて6マス進めば、同じ青マスに止まってしまう。そうなればカードが入手できない。


「この魔法カード、一枚一枚がかなり強力っぽいしな。できるだけ集めたいし」


 自分の手札にあるカードの文面をざっと流し読みして、フェイは内心苦笑した。

 悪い方に予想が当たったと。


 ……このすごろくは、

 ……なるほどね。だから1マス目が黄金マスなのか。


 6の目を出せば大きく前進。

 だが1の目には、魔法カードを二枚引ける黄金マスがある。


 進むか、カードを優先するか。


 この一ターン目から早くも心理戦マインドゲームが発生する。


「面白いな。ちゃんとマス目の色も計算されてる。じゃあパール、

「わ、わかりました!」




『第一フェイズ、開始』




 ゲーム開始。


 全プレイヤーの選んだ賽子ダイスカード、開示オープン


「見せてみろフェイ! お前の選んだ数字を!」

「お手柔らかに」


 ダークス、続いて褐色の少女ケルリッチが手を挙げる。

 そしてフェイ、パールも。


 四人が選んだ賽子ダイスカードが、舞台グラウンドに向けて開示された。




 ――フェイ「6」、ダークス「6」。


 ――パール「4」、ケルリッチ「1」。



このダイスの目の選択が……


数ターン後、一つの運命の分岐点になることを、まだ誰も知らない。



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