第34話 再戦を誓う無限の神



 宙に飛びだしてきたのは――




 着物を羽織った、黒髪の少女だった。




 パールよりも小柄で幼い。

 見覚えこそないが、彼女の正体が何であるのかは直感的に理解できた。


 閉じた片眼。

 もう片方の眼は紅玉で、そこには爛々と好奇心の色が灯っている。


 神の精神体スピリチユアル


 ヒトに興味をもった竜神レーシェが人間に受肉したように、ヒトに興味をもった神は、ごく稀に、こうした幻影を投影することがある。


「……ウロボロスなのか?」


『――――』


 黒髪の少女が空を歩いて近づいてくる。

 フェイの眼前で止まって、じーっとこちらを見上げてきて。


 と思いきや。




『あっれー。負けちゃった。我のゲーム簡単すぎたかな?』




 何とも拍子抜けする可愛い声で、黒髪の少女が首を傾げてみせた。

 むー、と口をちょっとだけ尖らせて不満そうな表情も、これまた愛嬌にあふれて可愛らしい。


『やるねヒトちゃん』

「……ヒトちゃん」


『うん。今回は我の負けにしといてあげる。ま、たまにはね』


 何とも上から目線である。

 ただ相変わらず、見た目と声のせいでまったく威厳はないのだが。


『次はもっと難しいゲームを考えておくから。また遊ぼう』


 少女がにっこりと微笑んだ。

 着物の懐に手を入れて――


『あ、そうそう。これあげる。我の眼の欠片』


 言葉どおり、懐中から取りだしたものはウロボロス自身の瞳の欠片だ。

 空中に浮いている結晶の一つであろうものを、フェイに差しだしてくる。それを見て、パールが飛び跳ねた。


「あーーーーっ! ま、まさか『神の宝冠』!?」


 神の撃破報酬。


 神々の遊びに勝利して得られるのは「一勝」だけではない。

 神さまを満足させる戦いをした使徒には、特別な「ご褒美」が授けられるのだ。


『神の慈愛』――ゲーム中、一人の脱落者も出さずに勝利すること。

『神の宝冠』――無敗の神に初めて勝利すること。


 これは後者。

 無敗を誇っていたウロボロスに勝利したことで、神の宝冠が「ご褒美」として授けられることになる。


「神さまからのご褒美は貴重なんて言葉じゃ言い表せません! 世界中の使徒たちがコレを求めて高難度の神さまに挑戦してるんですよ!」


 パールがこくんと息を呑む。


しかもただの「ご褒美」ではない。

 世界中の神秘法院が攻略を諦めていた、無限神ウロボロスの撃破報酬なのだ。


「ど、どれほど価値があることか……」

「へぇ。俺も貰うのはさすがに初めてだけど」


 少女の手から紅玉色の欠片を受けとる。

 精神体スピリチユアルでありながら、少女の姿をした神の手はふしぎと柔らかく感じられた。


「で。ただの石じゃないんだろ?」


『ふふ。どんな凄い効果ちからがあるか知りたい顔だねヒトちゃん』


 その質問を待ってました――

 そう言わんとばかりに、黒髪の少女がニヤリと口の端をつり上げた。


『もちろんある。もう最高に凄い効果ちからがあるよ』


「それは……」


『我の眼の欠片を持っている時に、必ず我を「引く」ことができるのさ。これでいつでも我と遊べるから。


 神の宝冠『ウロボロスの眼』――


 神々の遊び場エレメンツへダイヴする時に、これを持っていれば確実にウロボロスを「引く」ことができる。他の神とは一切遭遇しない。


 そしてウロボロスは、次はさらに容赦なく難易度を上げると宣言している。


「……」

「……」

「……」


 フェイ、パール、レーシェの三人は無言。


 三人の表情がみるみる険悪になっていくのだが、その理由が、どうやら神さまには理解できなかったらしい。


『あ、あれ? 嬉しくない? いつでも我と遊べるんだよ、次はもっと難しいゲームができるんだよ? もうね、次はこの百倍難し――』


「誰がやるかぁぁぁぁっっ!」


「難易度を考えてください難易度を!」


「わたしも、さすがに服ぼろぼろにされるのは勘弁よ!」


 ウロボロスの遊び場に、怒れる三人の怒鳴り声がこだました。




VS『無限の成長』ウロボロス。


 禁断ワードゲーム。



【勝利条件】ウロボロスに「痛い」と言わせること

【敗北条件】参加者全員の脱落


【隠しルール1】ウロボロスの尾を攻撃すると、反撃。   

【隠しルール2】ルール1達成時、一定時間のみ天空鯨リヴァイアサンを使役できる。


勝利報酬ドロップアイテム】『ウロボロスの眼』。(入手難易度「神」)





 攻略時間11時間17分29秒にて、『勝利』。










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