第33話 vs無限神ウロボロス⑩ ―禁断ワード―
その日。
神々の遊びを見守る世界中の人間が、歓喜した。
秘蹟都市ルイン、その神秘法院支部による
使徒のみならず、市民も。
世界中の人類が戦いを見守っていたのだ。
神の撃破。
それも相手は無限神ウロボロス。
過去のあらゆる聖人や天才が倒すことができなかった無敗の神を相手に、だ。
「…………いやはや、これホント?」
緊張で乾ききった喉。
息をするのも忘れてモニターを見つめていたせいで、頭は酸欠を訴えて軽い頭痛がする。
それでも事務長ミランダは、
むろん一緒に見ている部下たちも同じ反応だ。
外もそう。
深夜にもかかわらず、街中の高層ビルに取り付けられた表示される巨大スクリーンの下には何百人という観客が集まっている。
「あの『三大不可能』の一つ。ウロボロス引いた時は諦めたけど……はは、やっちゃったよ彼ら。勝っちゃった……」
大歓声。
奇しくもミランダが我に返ったのと時同じくして、部屋の部下たち、そして外の街角からも割れんばかりの拍手と大喝采が響きわたった。
おそらくは――
世界中の都市でも同じ現象が起きているだろう。
たった今、世界同時視聴者数のあまりの急増で、運営本部のサーバーが落ちたという報告さえ入ってきたほどだ。
「……ふぅ。感動に浸りたい気持ちは山々だけど、事務方としてはすぐに仕事に取りかかろっか。フェイ君たちの努力を無駄にはできないね」
弾みをつけてソファーから立ち上がる。
神々の遊びは一度きりではない。
またいつかウロボロスを「引く」可能性がある以上、ここから攻略法の
フェイたちの攻略を分析し、どんな使徒でも再現できるよう最適化。そして広めることも神秘法院の仕事である。
「もちろん簡単じゃないだろうけど、ま、やり甲斐はありそうだし……ああ君たち、今日は徹夜するから、珈琲淹れてきてきてくれる?」
部下に口早にそう告げて。
事務長ミランダは、振りかえるように天井を見上げた。
「
◇
神秘法院ルイン支部。
その地下一階『ダイヴセンター』で。
「…………」
二十人近くもの使徒が、一台のモニターを食い入るように見つめる姿があった。
チーム『
完璧だ。
完璧な勝利としか言いようがない。
だが何よりも刮目すべきは、それを成し遂げたのが使徒フェイと竜神レオレーシェ、さらに最後の逆転を担ったのが元チームメイトであるということだ。
「……ははっ、なんてことだ」
膝からくずおれるようになりながら。
モニターに映る金髪の少女を見上げて、隊長オーヴァンは苦笑を禁じ得なかった。
「パールが勝利した。神々の遊びは一蓮托生……つまり同時に挑んだ私たちもウロボロスに勝利したことになる……」
無限神ウロボロスの勝利記録に名を連ねる。
どれほど名誉なことだろう。
あの時の一敗が、まさかこんな形で、こんなにも大きくなって返ってくるなんて。
「完敗だ。パール、私の負けだ……見事だった」
大きく息を吐きだして、隊長オーヴァンはやれやれと肩をすくめてみせた。
部下たちにも伝わるように。
「諸君、見てのとおりだ。我々は間違いなく『借り』を返してもらった。少し大きすぎて困ってしまうがな」
そして思う。
あの三人ならば本当に。
前人未踏の、神々の遊びの
◇
霊的上位世界『
無限に広がる真っ青な空と雲海に満ちた世界で――
「レーシェさん、服、服! あ、あたしの上着貸してあげますから!」
「ん? 別にいいよ。現実世界に戻った時に修復されるし」
「あたしが恥ずかしいんですっ!」
いまのレーシェは真っ裸。
先ほどの神の閃光を受けて、服が燃えつきてしまったからだ。
「あたしたちの映像、いまも
「わたしは構わないけど」
「そこは恥じらって!? フェイさん、フェイさんはまだこっち見ちゃダメですからね!」
「あー、はいはい」
裸のレーシェに背を向けているのはフェイだ。
どのみち――
振り返らずとも、いまは頭上の光景から目が離せない。
バラバラに砕け散った紅玉色の「眼」。
神の眼だった結晶体が、色鮮やかな千々の欠片になって宙に浮かんでいる。
キラキラと光を反射しながら。
まるで何千何万という紅玉を空に浮かべたかのよう。真っ青な大空が、ここだけ夕焼けになったかのような色彩になっている。
と。
「っ、何だ?」
巨大な咆吼が轟いた。
ついさっき悲鳴を上げたはずのウロボロスが、再び声を発したのだ。
「な、何ですか!? まだ何か起きるんですか!」
「まさか
「フェイさんそれ冗談でも言っちゃいけないやつです!? も、もう無理です。レーシェさんも服ボロボロだし、あたしも限界ですってば!」
祈るようにパールが叫び声。
幾千にも砕けた結晶がうかぶ空から、何かが突如として飛びだした。
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