第32話 vs無限神ウロボロス⑨ ―禁断ワード―
「これが最後なんだ!」
暴れようとする
「
『ッ!』
ビクッと
「あと四十秒でいいんだ。戦ってくれ、
フェイとパールの二人を頭に乗せて、まだ残っている数体の
「いいぞ、もっと上だ」
風の音しか聞こえない。
ひゅうっと唸る突風を全身に受けながら、一直線に
だが、神の眼は当然にそれを感知する。
「フェイさん、また輝きだしました。あの光線が!」
「パール、
閃光の予兆。
それを見るなり、フェイは
神の『右眼』。
その光が灼き貫いたのはパールではなく、フェイが飛び移った先の
……やっぱりだ。神の防衛機能は、眼から近い順に攻撃してくる。
……それも
眼に一番近いのはフェイ。
ゆえに自分が撃たれると予測できたからこそ、閃光が撃たれる紙一重の差で、フェイはさらに奥の
続く、神の『左眼』。
右眼の迎撃が外れたことを察知した左眼が、ぎょろりとこちらを見下ろした。
二発目が来る。
撃たれれば次は躱せない。骨の髄まで凍りそうな圧迫感に汗が噴きだしながらも、フェイが見上げていたのは
「惹きつけたぜ」
「いい感じ」
最後の一蹴りで飛び上がったレーシェが、神の眼に到達した。
フェイを囮に。
――右眼の閃光を躱して。
――左眼の感知を
わずか数秒。
フェイが稼いだその虚を突いて、無防備となった
「じゃ、遠慮なくいくよ!」
暴虐の拳。
巨大隕石の落下にも等しい威力の拳が、紅玉色の球体に突き刺さった。
グニャリと。
「なっ!?」
レーシェの拳が感じとったものは圧倒的な「手応えの無さ」だ。
様態変化――紅玉色の結晶がゼリーのように半液状化し、レーシェの拳の威力を緩和してみせたのだ。
「……あー、〇・〇一秒ちょい遅かったかしら?」
拳を受けとめられたレーシェが苦笑い。
間に合わなかった。
レーシェが拳を叩きこむ寸前に、神の眼による感知が間に合ってしまったのだ。
二つの閃光――
両目から撃ちだされた極大の光に、レーシェが吹き飛ばされる。
だが。
「ん……まったく、女の子にこんなことさせるかな、普通?」
衣服という衣服が燃え尽きて。
真っ白い裸身をさらす少女の目は、輝いていた。
「フェイ、切れ目入れといたから」
「ああ」
落下していくレーシェとすれ違いに。
高く、高く、高く。
狙うは右眼。
レーシェの拳を完璧に止めきれずに生まれた傷が、そこにある。
あと一撃なのだ。
たとえ人間の膂力であっても、あと一撃で事足りる。
「最後の撃ちあいだ、ウロボロス!」
神の眼に再び光が収束していく。
どちらが早いか。
ヒトの拳が神を砕くか。
神の閃光がヒトを薙ぎ払うか。
その行方を固唾を飲んで見つめるのはパール、レーシェだけではない。
現実世界――
脱落した
それに神秘法院の放送を通じて世界中が、この不敗の神との極限の戦いを見つめているに違いない。
「いくぜ!」
フェイが右手を振りあげる。
神の眼が輝く。
両者のタイミングはまさしく同時。
だがこの戦いを見届ける誰もが感じていた。同時ではダメなのだ。
だが神の攻撃は光速。
実に九○○○○○倍の速度差で、ウロボロスの攻撃が先にフェイを撃ち落とす。
ゆえに誰もが思った。
これでも勝てないのか。ここまで追い込んでもなお、不敗の神の牙城を崩すことは叶わないのか――――――――――
「なんて思ってるんだろ?」
神に挑む少年は。
フェイ・テオ・フィルスは拳を握っていなかった。
その代わりに――
人差し指をまっすぐに。
今まさに閃光を放たんとする右目に向けて、大胆不敵にも指さししていたのだ。
――閃光。
無防備なフェイめがけて光が満ちた、その瞬間。
「移せ!」
「『
その一言で。
黄金色の輝く
そして。
右眼から放たれた閃光は、
その奥――
ウロボロス自身の左眼を灼き貫いた。
「神を倒すのは神自身。これがウロボロス、アンタの攻略法だったわけだ」
そう。
レーシェが神の眼に攻撃をしかけたのは、ただの
すべてはフェイが接近するため。
さらにその接近さえ、パールの
「もう十分遊んだろ。だから」
指を突きつけたまま。
「今日のところは俺たちの勝ちだ」
リィィィッィィィィッッッ……
至高の鐘のごとく。
さながら天使が奏でる鈴の音のように。
巨大な紅玉色をした神の眼が、澄みきった音を立てて千々に砕け散った。そして。
『
無限神ウロボロス。
有史以来、ヒトが初めて耳にする「悲鳴」が、雲海に轟いた。
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