第13話 vs巨神タイタン⑤ ―神ごっこ―


 考えられる時間は、もう少ない。


 せいぜいあと二分か三分。

 タイタンは、あらゆる後方のビルをなぎ倒してフェイたちに追いつくだろう。


 靴音。

 

 フェイの耳に、アスファルトを駆ける気配が飛びこんできた。


「なんだ? この数、いくら何でも多すぎじゃないか?」


 胸騒ぎに足を止める。

 ツインタワー型の高層ビルを前にして待つこと数秒。その曲がり角を曲がって、そこに使徒たちが勢いよく走りこんできた。


「……ウソだろ」


 神の配下たち。

 上半身を溶岩色に塗りつぶされた使徒たちが、そこにいた。


 その数、十五人。

 あまりの圧倒的な人数差に、フェイはおろかレーシェさえも苦笑を浮かべている。


 ……さっき隠れたアスタ先輩の姿だけはないから。

 ……要するに彼女以外の全員か。


 ヒト3vs神16(タイタン含む)。


 自分たちがタイタンに追われている間に、タイタンの配下になった副隊長たちが仲間をすべて捕まえていたのだろう。


「レーシェ、力ずくで正面突破はできるか?」


「あの人間たち全部燃やしていい?」


「じゃあ却下ナシだ」


 この世界での負傷は、現実世界に影響しない。

 レーシェが使徒十五人を消滅させても、彼らは現実世界に戻るだけだろう。


 一方で――

 フェイが止めたことには別の理由がある。


 敗北条件その2が、『』である可能性が捨てきれないからだ。


 ……使徒が、他の使徒をゲームから意図的に脱落させる『PKプレイヤーキラー』。

 ……それはこのゲームの趣旨にも反するもんな。


 それを破った者への天罰として敗北条件トラツプが仕込まれてる可能性は、大いにある。


 後ろからは巨神タイタンが。

 前方には、神の配下になってしまった使徒十五人が。


「すまない……」


 奥歯を噛みしめながら、チームをまとめる隊長が苦悶の声を滲ませた。


「我々は全滅した」

「……ええ。まあ見ればわかります」


「だが諦めてはならない! 君たち二人だけでもどうにか逃げのびてくれ!」


「なら見逃してください」

「足が勝手に動いてしまうのだ!」


 使徒たちが突撃してくる。

 前方突破は難しい。追い込まれた。


「……こっちだ!」


 レーシェに目線で合図するや、フェイは駆けだした。

 ツインタワーの一階ホールへ。


「よし、思ったとおり完全再現されてる」


 ビルの明かりがついている時点で予想できていたが、ビル内部の設備はすべて現実世界と同じく動いている。

 自動ドアはもちろん警報装置、監視カメラもすべて機能する。


「エレベーターの現在位置は地下か。待ってる時間はないから階段だな」


「フェイ、もう人間たちホールに来てるよ」

「非常階段がある。こっちだ!」


 通路の奥にある非常扉を開けて、螺旋状の非常階段をひたすらに駆け上がる。

 フェイたちが三階へ。


 そして使徒たちも非常階段の一階から、こちらの足音を追いかけて一斉に階段を駆け上がってくる……が。


「おっと、その追いかけっこは単調すぎないかしら?」


 レーシェが階段の踊り場を思いきり踏みつけた。

 みしっ、と響きわたる破壊音。


 竜神レーシェの足にこめられた圧倒的な破壊エネルギーが、階段を支える支柱を砕いてみせる。階段の崩壊に巻きこまれて使徒たちが次々と落下。


「稼げるのはせいぜい数十秒よね。人間だって、超人型の使徒ならこれくらい余裕で飛び上がってくるでしょ?」


「だろうな。急ぐぞ!」


 非常階段からビルのフロアへ。


 複合デパートの三階。

 フェイたちが走るのは子供服売り場のコーナーだ。


「『神の配下になる』なんて隠しルールはこの為か。タイタンの巨体がビルに入れなくても、同じ人間なら俺たちを追ってこれる。しかも……」


 ずんっ、と超巨大な振動がビルを震わせた。

 巨神タイタンがそこまで近づいてきている。到達すれば、このデパートも一撃で破壊されるだろう。


 ……完全に袋の鼠だな。

 ……今すぐビルから脱出しないと、このビルごと吹っ飛ばされる。


 だが脱出しようにも階下の使徒たちが妨害しにくるだろう。

 ビルの中と外とで完全に挾まれた形だ。


「フェイ、このフロアの奥にもう一つ非常階段があるんじゃない?」

「それも手だな。あとは窓を割ってビルから飛びだすか……」


 逃げる選択肢はまだ残っている。

 だが、それでは不十分。迫ってくるタイタンから逃げ続けても、勝利条件がわからないままではいずれ詰む。


「ああもうっ! 後ろの連中だけでも厄介なのに、勝利条件ゲームルールの謎まで残ってるのか!」


「せめて人手が欲しいわよね。アスタってのも遠いビルに隠れてるし」


 レーシェが肩をすくめて微苦笑。

 額にかかった炎燈色ヴァーミリオンの髪をくるくると指で巻きながら。


「わたしたち以外は全滅同然ね。みんなタイタン側に寝返っちゃったし」


「――――――――」


 そんな呟きめいた一言に。

 フェイは、息さえ止めてレーシェにふり向いた。


「…………そうか」 


「フェイ? どうかしたの」

「そうだレーシェ。


 神に捕まった使徒たち。

 その証として、身体の半分がタイタンと同色に染められる。


――全容すべてを理解した。






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